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case3-2:薄墨色

「おはよう、水沢さん。具合はどうですか?」


翌日、私は朝一で彼女に会いに行った。

一晩がとても長く感じられ、一刻でも早く彼女に会いたかったのだ。


「はい、大丈夫です…。」


彼女は俯いたままそう答えた。

彼女の俯いて見えない顔がどうなっているのか知りたかった。

彼女に触れたかった。


ふわっ――


僕は気が付くと無意識のうちに彼女の頭を撫でていた。

彼女の髪は黒く、そして柔らかい。

彼女は一瞬だけ顔を上げたが、また俯いてしまった。


「大丈夫、きっと良くなりますよ。」


愛らしい彼女を残し、私は病室を後にした。


彼女はとても可愛らしい。

僕にとって天使のような存在で、純真で無垢だ。

一刻も早く、彼女を自分だけのものにしたかった。

誰にも奪われたくない。狂おしいほど愛しい。


毎日毎日、必要以上に彼女の元へ向かう。

最初のうちは周りの目を気にしていた。

医者が患者に特別な感情を抱くなど、よろしくないことだ。

僕の寝首を掻こうとしている連中だって居るのだから気を付けなくてはならない。

でもそんな気持ちも、日が経つに連れて薄れていった。

頭の中は彼女の事しか考えられなくなっていった。

だから、僕は思いを伝えることにした。



「君にプレゼントがあるんだ。」


僕は唐突にそう切り出し、彼女に小さな箱を渡す。

彼女は箱にかかっていたリボンを丁寧に解き、蓋を開けた。

箱の中に入っていたのは赤いベルトの時計。

色の白い彼女には赤系の色が似合うと思い、僕はこの時計を選び、プレゼントしたのだ。

彼女の手首に優しく時計を付けてやる。


「私が貰ってもいいんですか?」


「はい。それに僕…ずっと貴方に言わなきゃと思ってたんです。」


「言わなきゃいけない事…?」


僕は気付かれないように深呼吸をした。

なるべく真剣な顔をして話を切り出そうと思ったが、恥ずかしさの余り自分で思うような表情が出来ない。きっと変な顔をしていたに違いない。


「僕は、水沢…いえ、正美さんのことが好きです。付き合ってもらえませんか?」


答えは、イエスかノーか……僕はとても不安だった。

しかし、一拍置いた後、彼女は急に抱きついてきた。


「わっ!」


突然の事に、僕は声をあげた。

彼女はそのまま僕の耳元で、


「隆志さん…私も好きです。」


と囁いた。

そして彼女は僕を強く抱きしめる。

恥ずかしくて、照れくさくて、如何して良いか分からないので彼女を抱きしめ返し、


「だから、早く元気になってくださいね?」


と言った。

彼女はいたって健康だし、元気になれも何も無いのだが。

本当の意味での回復は「記憶を思い出すこと」を意味している。

そうなった場合、彼女との関係、彼女自身もどうなってしまうか分からない。

それだけは、どうしても避けたかった。

でも今は彼女を自分のものに出来たのだからそれで良い。



彼女の病室から出た後、院長に呼び止められた。

僕は彼女との関係がバレて其れについて何か言われるのかと身構えた。

しかし、院長の口にした言葉はそれとはまったく別の事だった。


「貴方のお父さんが亡くなったそうです。」

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