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case2-2:紫色

あの日も…分岐点となったあの日も私は夜勤だった。

11時と言っても(ほぼ)12時近くに病院内の見回りを始める。

1階、2階と見回りを済ませて異常はないので、これで完了…のはずだった。


が、あの日は何故か地下室が異常なまでに気になった。

地下室に在ると言えば霊安室と解剖室くらい。

解剖室は、この病院が戦時中に造られたもので人体実験を行うために造られたという噂だ。

当然のことながら現在では使用禁止になっている。

だけど、私は解剖室がどうしても気になって仕方なかった。

今まで気にしたことなどなかったというのに。


カツン、カツン――


好奇心に押され、私は地下への階段を一歩づつ下りた。

その部屋は霊安室より奥にあった。

ドアノブにはチェーンがかかっているのだが、何故かそれが切れている。

中に誰かいるということだろうか?


キィ――


恐る、恐る私はドアを開けた。

其処には――




其処には、私の良く知っている人が立っていた。

手は真っ赤に染まっているが、それは紛れも無い彼、杉村隆志である。

彼は死体から一所懸命に臓器を取り出していた。

その死体は、彼の最愛の人物であるはずの水沢正美だった。


私は自分でも知らない間に震えていた。

その震えは恐れより、喜びからくるものだった。

なんせ、目障りだった水沢正美は消えたのだから!!


「フフ…ククク…アハハハハッ!!」


知らずのうちに自分の声とは思えない笑い声が己の口から漏れていた。

その声を聞いた彼は驚いたのか肩をビクリと震わせ、こちらを向いた。

メスを持って、こちらへゆっくりと近づいてくる。

彼は私の体を壁に押し付け、喉元にメスを当てた。


「見てしまったんだね、誰にも見られたくなかったのに。」


彼の表情は悲しそうでもあり、嬉しそうでもあった。

哀愁、歓喜、狂気、その全てを帯びた表情をしていた。


「フフフ、大事にしていた彼女から臓器を取り出すなんて何処に売るか知らないけど、初めからこのつもりだったの?」


血を見ても、死体を見ても、臓器を見ても私は驚かない。

一々驚いていては看護婦は務まらないから。

それに、この時の私は喜びのほうがどんな感情よりも勝っていたのだ。


「まさか、愛していたさ。だから誰にも彼女を見せず終わりにするつもりだった。君はとんだ誤算だったよ。相模薫。」


彼の血だらけの左手が私の頬に触れる。

その血は水沢正美のもの。

私は正直不快だった。彼女の血がべったりと頬に付くのが許せなかった。

でも同時に快感でもあった。その血は彼女が死んだことを明確に意味しているから。


「さて、見られてしまった以上どうしたものか…」


彼はさらにメスを強く私の喉に当てた。

そして意地の悪い笑みを浮かべて私にこう言ったのだ。


「この後の処理を手伝ってくれるかい?()。」


そうして私と彼は死体の処理を始めた。

臓器は即座に冷凍保存し、用済みとなった体を細かく解体し、ケースに一まとめにする。

彼が死体を何処かに捨てに行っている間に、私は解剖室に残された多量の血痕を跡形もなく拭取った。

彼女が其処に存在していた証を跡形もなくこの世から消し去って……









あの日から、水沢正美の居た203号室は呪われた病室となった。

そこに入院した患者は、どんな軽症の患者であろうと必ず脳死状態になる。

臓器を取り出すには、最も良い状態に。


私と彼はそれを利用して莫大な金を稼いでいる。

あの後、私と彼がどういう関係になったのかは言うまでもないことだ。


今の私は欲しいものは何でも手に入るし、充実した毎日を送れている。

罪の意識なぞこれっぽっちもない。


罪が何なのかも分からない。

何故私が罪なぞを感じなければならないのか?



――だが

私があの日、彼の手伝い(・・・)をした時間、その時間に鏡を見ると其処には居るのだ。

私の後ろにぴったりとくっついた彼女が。




―私ノ…先生ヲトラナイデ…―



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