case2-1:薄色
私は、杉村隆志に惚れている。
そう感じたのは彼がこの総合病院に入ってきて間もなくの事だった。
私より5歳年下の彼は、大人びた少年と言う感じだった。
しかし、そんな彼に私はいつの間にか恋をしていた。
看護婦である私は医者である杉村の傍にいることが多かった。
杉村と最も親しい存在はこの私だと自負していた。
そうあの日までは――
その日の夜、私は夜勤で夜遅くまで残っていた。
この日は偶然にも彼も病院に残っていたので仕事と言えども何となく嬉しかった。
でも残酷にも運命の時間は来てしまったのだ。
「これから急患をそちらの病院へ搬送します」
そう救急隊員から電話がかかってきたのは丁度12時だった気がする。
暫くして病院の前に救急車が止まった。
「相模さん!すぐに玄関の方へ!」
杉村に急かされ、救急車が止まっている方の玄関に向かった。
私と杉村が其処に着いた時、何人かの看護婦が集まっており、その患者は救急車から降ろされたところだった。
寝巻き姿の少女。
腹部から出血し、首にはチアノーゼが出ている。
衣服もよく見ると、焦げている。
ストレッチャーに乗せられた彼女はそのまま治療室へと運び込まれた。
「一体、何があったんでしょうか?」
私は気になって救急隊員聞いてみた。
「近所の人から家事だと言う通報がありましてね現場に向かったんですけど、どうやら一家心中をしたみたいです。」
「一家心中…ですか?」
「ええ、消防隊員が駆けつけた時には少女しか息をしていない状態だったらしいですからね。母も、父も、姉も、炎が回る前には死んでたみたいです。」
「そうなんですか。」
こんなご時世だ。
一家心中なんて珍しい話ではない。
だけど、私はこの時から嫌な予感を抱いていた。
そう、彼のあの表情。
ストレッチャーに乗せられた少女を見たときに、一瞬だけ見せたあの表情。
あの目は患者を見る目とは何処か違っていた。
まるで、私が彼を見るような目…その表情は一瞬でいつも通りとなってしまったけれど。
少女…水沢正美は検査の結果、肺尖カタルが見つかったらしく入院する事になった。
私の憧れの彼は、そんな少女にますます夢中になっていった。
それを裏付けるかのように、彼は少女の病室に殆んど看護婦や自分以外の医者を近づけなくなっていた。
健康な看護婦と、病弱な少女……きっと私には勝ち目は無い。
ある日の彼は、プレゼントを持って病室に入っていった。
ある日の彼は、花束を持って病室へ。
周りの医者も看護婦も彼の行動に気付き、非難をしていたが彼はそんな事お構い無しの様子だった。
彼の全ては彼女なのだ。
周りがどうであろうとも、水沢正美だけが彼の全て。
だけど、今思えば彼は悩んでいたのだと思う。
職業と恋の狭間で板ばさみ状態だったのだと。
そして分岐点になった例の日は、刻々と近づいてきた。




