case1-3:朱色
私の世界は此処の病室だけ。
この病室だけが私の世界。
それでも構わないって思ってたけれど、今は違う。
早く元気になって彼を安心させたい。退院しても一緒に居てくれるんだもの。
今日は私の誕生日。
彼、覚えててくれているかしら?
コンコン――
「入るよ。」
彼が来てくれたわ!
後ろ手に何か隠しているみたいだけど、何だろう?
「具合はどう?」
「うん、いつもどおりよ。」
彼の視線が私の手首に移る。
私の手首には彼がくれた時計が。
「水沢さん、せめて寝る時くらい時計を外したらどうです?」
冗談めいた口調で彼は私にそう言った。
「嫌よ、せっかく先生がくれた時計だもの。」
私も負けじと言い返す。
今更、こんな風に呼び合うなんて何か可笑しい。
私たちは恋人同士だっていうのに。
「今日は誕生日だったよね?ほら、これを君にあげるよ。」
彼は私に後ろ手に隠していたものをくれた。
それは赤い花束。
赤くて、綺麗な花束だった。
「わぁ、素敵!こんな綺麗な花、今まで見たこと無いわ!!」
‘今まで見た事が無い’自分で言ってみてから違和感を持った。
私は過去の記憶が無いのだから、見たことないのは当たり前。
だけど、この花は見た事が無い。
もしかして私は記憶を取り戻しているというの?
「その花はね、僕の故郷にだけ咲く珍しい花なんだ。君に良く似合うよ。」
「……ありがとう。」
細かい事なんてどうでもよかった。
今の現実で大満足だもの。
その感触を確かめるように、私は花束をギュッと抱きしめた。
甘い香りが病室中に広がる。
「そうだ、もう1つプレゼントがあるんだ。」
彼は私のベットの下から箱を取り出した。
彼ったら何時の間にそんなところに隠したのだろう?
彼に促されるまま箱を開けてみると、其処に入っていたのは淡い薄紅色のワンピースだった。
「それも君にあげるよ。きっとよく似合うよ。」
「ありがとう、隆志さん。」
本当に嬉しかった。
この日のことをずっと忘れないでいようと心に誓った。
「そうだ、君の病気が治って退院したら、その花が咲く丘に行ってみないか?辺り一面その花が咲き乱れているんだよ?中心には桜の大木があってさ……」
「連れてってくれるの!?」
彼の突然の提案に、私は思わず聞き返してしまった。
その言葉は聞き間違えでは無い事が確認したかったし、何より彼の言葉に落ち着いていられなかったから。
「うん、約束するよ。」
彼は微笑んでそう答えてくれた。
「約束だよ?先生…」
約束だからね、私だけの先生……




