婚姻の儀式
レミとレイが儀式を上げる前に、ショウとアイの儀式が執り行われた。
美しい純白のドレスは、花柄のレースやアイの金髪にあう赤いリボンで飾られていて、誰が見ても美しいと思うものだった。
それに加え、アイのかわいらしい童顔が尚更、そのかわいらしさを際立たせた。
ショウのタキシードもまた純白で、ショウの浅黒い肌と絶妙にマッチしているように感じられる。
「2人ともにあっているわ」
「レミーっ、来てくれたんかぁ!」
「当り前よ。とてもにあってるわ、アイ」
えへへ、とかわいらしい笑みを浮かべるアイの横で、やや緊張気味のショウが深呼吸をしていた。
「緊張するのか?」
「当り前だろ!?・・・そういやレイとレミは、儀式をあげてなかったよな?」
「・・・それがな、サクラの提案で、3日後に家族だけの儀式を上げることになったんだ」
『えぇ!?』
ショウとアイの声が重なった。
ショウは口をパクパクさせている。
「そうなのか!?おめでとう!」
「籍を入れたのは、もう9年も前なんだけれどね」
「それでもや!おめでとさん!」
今から儀式を上げる2人だというのに、その2人が3日後に儀式を上げる2人のことを喜んでいるのは、なんとも不思議な光景だった。
でも、そんな2人の心の温かさに、レミもレイも心が温まるのを感じた。
「でも、今日儀式を上げるのはアイとショウだ」
「えぇ。2人とも、本当によく似合ってるわ。そして、本当におめでとう」
優しく微笑む2人もまた、幸せに満ち溢れていた。
儀式にはたくさんの人が参列していた。
ショウには親というものがいないが、アイには両親ともいて、親戚もたくさんいるため、親族席だけでも結構な人だった。
レミの中では、親族の人数だけでいえば、国王のキヨの婚儀と大差ない、と思うほどだった。
「ショウ・ドーズルは、アイ・ガラシャを妻とすることを誓いますか?」
「誓います」
「アイ・ガラシャは、ショウ・ドーズルを夫とすることを誓いますか?」
「誓います」
2人は神父の問いかけに、やや恥ずかしそうに、それでいて真剣に答えていた。その光景は、なんともほほえましくて、誰が見ても“幸せ”そのものだった。
「・・・本当に幸せそうね」
「あぁ。俺たちにこういう・・・子供がいない、2人きりの時期がなかった分、2人には幸せになってほしいな」
「レイは・・・私と籍を入れたのを後悔していないの?穢れていた私を抱いて、よかったと思ってるの?サナがいても、よかったって思ってるの?」
幸せな空気の中、レミは瞳に涙をためて、レイの手を握りしめた。
でもレイは、頭を優しくなでた。
「何度も言っているだろう?俺はレミが大好きなんだ。それじゃあ嫌か?」
「ううん・・・っ」
式場には拍手が鳴り響く中、レミとレイも一緒に幸せな笑顔で拍手をした。
儀式の後の披露宴も、2人のものは派手だった。
「なぁ、アイ」
「ん?なぁに、ショウ」
「俺・・・今マジで幸せだわ」
「・・・ふふっ、ウチもやで?」
頬を赤らめて、見つめあって笑う2人のことを、周りの人々は祝福した。沢山の花やフルーツ、手紙を手渡された2人は、もうすでに夫婦で。
「お幸せにね」
「あぁ、ありがとう、レミ」
「それじゃあ俺たちは、子供たちもいるから帰るな。すまない」
「ええんやで!また会おうなぁ」
幸せそうな笑みで手を振る2人に手を振りながら、レミとレイは帰路についた。
―――その帰り道、レミは両手にリボンを握りしめた。
「まだ、渡していなかったのか」
「うん・・・なんだか渡してしまうとね、この幸せが終わってしまう気がして・・・」
「・・・最近レミは、不安になりすぎだ。そんなに不安になるなら、俺にも考えがある」
レイは大まじめに、レミに告げた。
「・・・何よ、その考えって?」
「毎日でも君を抱いてやる。満足するまで何時間でも」
「な、な・・・っ!何それ!恥ずかしいわよ!」
顔を真っ赤にして否定するレミに対し、レイはいたって冷静に話を続ける。
「絆がほしいんだろう?だったらいいと思うが」
「・・・でも、やっぱりはずかしいし・・・ごめんなさい。不安になっていたのは確か。それは認めるけれど・・・大丈夫。だって私には、貴方がついているんだもの」
「そうだな。よかった・・・いつも通りの君に戻ってくれて」
道のど真ん中だったか、そんなことお構いなしに、2人はキスをした。何度も何度も、深く深く、唇を重ねた。
そして3日後―――。
「ママ、すっごくきれいっ!サクラ、感動だよっ!」
「そんなことないわ・・・」
レミはウェディングドレスを身にまとっていた。バラ色に染まる頬がかわいらしかった。
アイほど派手ではないが、同じように純白で、雪の結晶のレースの付いた銀色のリボンの美しい、落ち着いた雰囲気のドレスだった。
レイはこういう恰好をするのが初めてで、落ち着かない様子だった。そして、レミを見ると赤面した。
「その、すごく・・・似合っている」
「あ、貴方こそ・・・」
その姿は、まるで新婚夫婦で。サナはそんな2人を見て、父と母には、自分たちがいたからこういう“2人きり”の時間がなかったのだと、少し暗い気分になった。
しかし、そんなサナの心を察したように、レミは笑いかけた。レミは聡い女性だった。
「サナがいたことで、私たちは出会えたんだもの。貴方があの時、泣いてくれたから・・・今の私たちがあるの。サナは、私にとってかけがえのない宝物なのよ」
「お母さん・・・ありがとう。お母さん、本当にきれいだよ!」
小さな教会での儀式は、子供4人とショウとアイだけが参列していた。
そんな中、お忍びでやってきた影があった。サナが迎え入れると、その人はフードを脱ぎ捨てた。
「あー、暑かったわ」
「リノ、はしたないわよ?」
「ゆ、ユウ様!リノ様!」
その人影は、ユウとリノだった。2人ともプライベートとはいえ、王家の人間ため、そこそこ豪華な服を着ていた。
「リノ先輩、どうして・・・?」
「私がこの世に生を受けることができたのは、出産を手伝ってくれたレミの働きがあったからだと聞いたわ。だから、レミの晴れ姿、見に行くに決まっているわ」
「・・・ありがとうございます。嬉しいです」
きめ細やかな繊細なドレスと、レミの美しい茶髪がマッチしていて、きれいなティアラも実によく似合っていて、その場にいる人は皆、レミとレイに見とれていた。
「・・・愛してる、レミ」
「私・・・も・・・っ」
「何泣いてるんだ」
「嬉し泣きよ。こんなに幸せなものだなんて・・・思ってなかったの」
そう言いながら、目を細めて笑うレミを見るのは、子供の時以来だとレイとショウは思っていた。
レミ自身、これほど幸せだとは思っていなかった。そして、子供に感謝をしていた。
「ありがとう・・・」
神父の声とともに、レミとレイはキスをした。その美しさは、絵画のようだった。
―――しかし、そんな幸せな時間も、所詮はまやかしなのだ。
レミとレイの儀式からさらに3日たったころだった。ショウのところに、グラス王国のZeusendの入口の情報がはいってきた。
その情報を見逃すわけがなく、3人は再び旅立つことになった。お互いの家族がさびしくないようにと、アイと子供たちは一緒に住むことになった。
であって数日だというのに、4人ともアイにはすごくなついているのだ。
「ごめん、アイ」
「子供達まで任せてしまって・・・」
「ええんやて。3人は頑張って、国王陛下の仇、とってきてな!」
笑顔で見送るアイ。その笑顔には、隠しきれない“寂しさ”がまぎれていることくらい、幼いころから人と接することが多かった3人には、すぐに見抜くことができた。
「それじゃあ・・・行ってくる」
「うん・・・がんばってな」
ショウにたまらず抱きつくアイを見て、レイとレミは切ない気持になる。新婚のこの時期、夫と離れるのはさびしいことに決まっているのだ。
―――アイと子供たちのためにも、早くけりをつけないといけい、とレミは改めて決意して、旅に出た。




