偶然の運命
―――はぁ・・・はぁ・・・
荒く息をする男の子を、レミはおどおどしながら見つめた。しかし、レミがおんぶして部屋に連れて帰ることは、レミの体力や体重を考えると到底無理なことだった。見つけたのにここにこの男の子をおいて行くか、自分が倒れることを承知で男の子を運ぶか・・・
その時、もう聞き慣れた声が聞こえてきた。―――ショウのものだった。
「レミー?どこに行ったんだ?・・・ったく、いつの間にかどっかに行っちまうんだから・・・」
レミは、つい数分前、ショウに“探検に行きたい!”なんて言うと、否定されそうで怖かったから、勝手に出て行ったのだった。少し気まずかったが、この際そんなことは関係なかった。
「ショウっ!さっきはごめんなさい!でも、今大変でっ・・・!」
レミは、少し広い道路に出た。そこには案の定、汗だくのショウがしかめっ面で立っていた。ショウはレミを見つけた瞬間、さらに怖い顔をしてレミをにらんだが、レミのあせった顔を見て表情が変わった。
「レミ、こんなとこにいたのか!それより、さっきの声はなんだ!?」
「路地裏にっ・・・男の子が、熱出して・・・!」
一瞬にして、ショウの顔まであせった顔になった。おどおどするショウの手を取ったレミは、さっきまでいた路地裏へと一心不乱に走った。
「いたっ!ここだよっ!」
先ほどまでいた路地には、やはり男の子が倒れていた。その男の子のところへすぐに走って行ったショウは、すぐさま男の子を背負い、一目散に部屋へと走った。レミもその後ろから、置いて行かれないように走った。
部屋についてすぐ、ショウがその男の子をベットに寝かせ、レミは水で冷やしたタオルを額につけた。そして、その男の子の頭を優しくなでた。
「お願いだから・・・元気になって・・・!」
・・・しかし、少年はなかなか目覚めない。そんな時間が数時間過ぎた・・・。
そして、ついにその少年が目を覚ました。うっすらと開いた瞳から見えたのは、美しいエメラルドグリーンだった。
「あっ、起きた。大丈夫?」
レミは興奮する心を押さえて、なるべく平常心を装って話しかけた。そのレミの顔を見て、少し驚いたように瞳を見開いた少年だったが、すぐに元の顔に戻って話し始めた。
「あぁ、大丈夫だ。それより・・・君が助けてくれたのか・・・?」
「ううん、ショウが助けてくれたんだよ。あ、でも、ショウって誰かわかんないよね・・・えへへ」
そういって笑ったレミに安心をおぼえたのか、その少年はむくっと起き上がり、まっすぐにレミの瞳を見つめた。
「俺は、レイだ。レイ・スパイス。つい数か月前まで孤児院で暮らしていたが、ふとしたことでこの“カヘンヘンカ”の存在を知り、そして“カヘン団”の存在も知った。そして、今は1人でカヘン団を追っている。ところで・・・君は?」
「私は、レミ・レナルド。そう・・・私も・・・私たちもカヘン団を追ってるんだよ!」
元気いっぱいで答えたレミとの温度差に苦笑しながら、それでいて少年―――レイは驚いていた。その時、この部屋の主であるショウがやってきた。
「お、目覚めたか。元気か、アンタ」
「あぁ。君だね、ショウというのは」
同じ男子なのに、雰囲気の全く違う2人の少年の出会いだった。その後、ショウとレミ、そしてレイはそれぞれの事を話して、打ち解けた。
そして・・・
「そうだ、レイも“Messiah”にはいらねぇか?」
「あっ、いいねっ!それ賛成っ!」
カヘン団つながりでレミとショウは、レイを誘った。その言葉に、レイは少し首をかしげたか、すぐにチーム名だと気がついたようだった。
「“Messiah”・・・“救世主”という意味か・・・。うん、いいチームだ。分かった、俺も入れてくれ!」
最強トリオが今、ここにそろう・・・。
その瞬間から、本当の戦いが始まったのだ。
―――そして、運命の波に3人が完全に飲み込まれてしまった瞬間だった。