Messiah
レイは、はっきり言えば怖かった。
ショウのところへレミと行けば、間違えなくサナのことが知られる。そうなるとレミは、また辛い過去を話さなければいけない。
しかも、ショウはレミが好きだ。自覚があるのか、レイにはわからなかったが、自分が早くレミにあったため、レミと付き合うことになったのだ。
―――ショウに自覚があったなら、どう思うのだろうか・・・。
「レイ・・・?」
「ッ!・・・すまない」
レミの声で、レイは現実へと戻った。不安げにレイの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?怖い顔していたわ・・・」
笑顔を取り繕って、レイはレミの頭をなでた。そして、サナのことを覗き込み、笑いかけた。
「今から、友達の家に行くんだ。サナもきっと、仲良くなれるさ」
「あー?」
サナは、レイの顔を不思議そうに見つめるだけだった。
―――実を言えば、レミにだってレイの考えていることくらい、わかっていた。一体、何年一緒に住んでいたと思うのだろうか。
“ショウは、かつての仲間が付き合っているのを見て、どう思うのだろう”大方、そんなところだろうと思っていた。
「・・・レイのこと、大好きなのよ?」
唐突に言うものだから、レイは照れた。そして思う。―――レミは聡い。自分が考えていることだって、わかってしまったようだ・・・と。
「・・・俺もだ」
レイはそういうと、レミのことを抱きよせた。
―――ショウの家は、すぐそこだ。
ショウの家は、意外ときれいなマンションだった。
レイはショウに近々会いに行く、と伝えていたため、行くことにむしろ楽しみを覚えていた。しかし、まさか次の再会がこんなことになるとは思っていなかった。今回は別だった。
「・・・行くか」
「・・・うん」
レミの方は、小刻みに震えていた。そんなレミが、レイは切ないと思った。
―――10年前、カヘンヘンカにいたころに、こんなことを予想しただろうか・・・。
コンコン、戸を鳴らす音が、廊下にむなしく響いた。うつむいたままのレミは、サナのことを強く、強く抱きよせていた。
「はーい」
聞きなれた声が、2人の耳の奥で響いた。
「俺、レイだ」
震える声を隠しながら、レイはいたって冷静になるよう、心がけていた。
―――足音が近づく。胸が、ドクン、ドクンと鼓動を打つ音が、大きく響いた。
「久々だ・・・な・・・」
扉を開けたショウには、今の状況が理解できなかった。
「・・・なんだよ、2人は、夫婦だったのか・・・ハハ・・・」
瞳孔を開いたままのショウが、レミとレイを見て、乾いた笑い声をこぼす。さらに、サナを見て言う。
「子供まで・・・いるのか・・・」
レミは、声を張り上げた。
「違うの!聞いて!」
「何がだよ!」
ショウは、急にどなった。その迫力に、一瞬レミはひるんだ。しかし、すぐに立ち直り、まっすぐに見つめて言う。
「聞いて・・・お願い・・・ッ」
レミの瞳に、みるみる涙がたまる。それを見て、ショウは言った。
「・・・とりあえず、中に入れよ・・・」
サナを抱いたまま、レミはソファに座った。レイは、その隣に座り、ショウは、向かい側に座った。
「・・・何が違うんだよ」
ショウの瞳を見れば、怒っていることがすぐ分かる。
「・・・この子は、レイの子じゃない・・・」
レミは、カタカタ震えている。サナを強く抱きよせ、小さな声で話す。
「この子は、別の人との子供。私は、あの日・・・国王陛下の勧めで、スカイ一族に嫁いだの・・・コウ・トライトンって人で・・・優秀な医者だった。
この子―――サナは、コウ様との子供・・・。レイとは、昨日再会したばっかり・・・信じて・・・。
2人のことは、忘れたことなんてないし、助けてほしいと何度も思った。でも・・・心配はかけたくなかったッ!だから・・・わたしは・・・ッ。
コウ様は、医療ミスを犯して、一族から破門された。だから、私は戻ってきたの・・・。一族からは、破門してもらった・・・」
涙をこぼしながら、レミは必死に言う。ショウは、そんなレミに謝った。
「そう、だったのか・・・わりぃ・・・」
レイは、変わってしまったものを感じた。
「・・・レミ、辛かったんだよな・・・」
「うんっ・・・」
レミの涙を、レイがそっとぬぐった。ショウは、でも、と続けた。
「でも・・・今は、2人は付き合って・・・いるんだよな・・・?」
2人は、顔を見合わせて、うなずいた。
ショウは、自分がこの時、何を思ったかは分からなかった。悲しかったのか、嬉しかったのか、なにも思わなかったのか・・・。
ショウは、にこっと笑った。
「おめでとう。いや、いつかそうなると思ってたし!2人とも、頭いいしな」
レイはそんなショウに感謝しつつ、感じてはいけない“罪悪感”を感じていた。
「これから、どうするんだ?」
ショウのそんな問いかけに、レミとレイはたじろぐ。籍を入れるかどうか、それも迷っているし、籍を入れられるのかもわかっていない。そもそもどこに住むかもわかってない。
「・・・わからない。何も決めていない」
「・・・だよな。昨日、会ったばっかだもんな・・・」
ショウはそういうと、少し考え込む。そして、
「じゃあ、とりあえず住むところがないんなら、ここに住めよ。俺は構わないし、1人じゃちょっと広いし。でも、2人で住みたかったらいいけどな」
「ショウ・・・ありがとう!」
レイとレミは、ショウに最敬礼を行った。ショウは動揺した。
「ちょ!慣れないんだけど!やめろよッ!?」
そんなショウを見て、笑ってしまった2人だった。
それから、また幸せな日々が続いた。
サナのことをショウは、とてもかわいがった。そのことは、レミにとってとてもうれしいことだった。
3人・・・否、4人の生活は、とても輝いていて、とても素敵なものだった。
―――そんなある日、ちょっとした変化が起こった。




