回る歯車
「まっ、待ってよ、ちょ、ど、何処に・・・っ!」
「いいからっ!」
―――レミは、つい数分前にすごく簡単な自己紹介を済ませた相手・ショウに手をひかれ、部屋の奥へと連れて行かれていた。必死に反抗するレミだったが、同世代の男の子の力にはかなわず、ただ引っ張られて・・・少し、いやかなり怪しげな鏡の前へと連れてこられた。
「こ、ここは・・・?鏡・・・だよね?」
上目遣いにショウを見たレミ。そんなレミを見たショウは、いたって落ち着いた声で話した。
「これが、カヘンヘンカへの入り口だよ。普通に見ればただの鏡だがな・・・こうすると・・・」
そういいながらショウは、鏡を動かし始めた。―――次の瞬間、鏡からまばゆい光が発射され、レミは反射的にをつぶった。そして、次に目を開けたときには・・・
「ショ、ショウ!?」
ついさっきまでそこにいたはずのショウの姿が、あとかたもなく無くなっていた。鏡に映っているのは、ポカンと口を開けている自分の姿。ショウの姿は、どこにもなかった。
レミは頭を回転させて考えた。―――ついさっきまでそこにいたはずのショウが、急にあんな短時間で移動できるはずがない。とすると・・・やはり・・・
「あの鏡・・・あれに秘密が・・・?」
再び鏡の前へと戻ってきたレミは、鏡を探った。
「ショウは、この鏡を動かしてた・・・動かした瞬間、明るくなって、めがあけられなくなっちゃって・・・気付いたらショウはいなかった・・・つまり、この鏡を動かせば、“カヘンヘンカ”ってやつが・・・?」
信じられないような仮説だが、今まで考えた仮設の中で一番しっくりきたものだった。レミは、考えるのをやめ、ショウがやっていたように鏡を横に勢い良く動かした。すると、さっきショウが包まれたようなまばゆい光が鏡のあったところから発せられ、その光がレミを包み込んで・・・
「えっ、あっ、わっ、わぁぁぁぁぁ!!!!」
レミは、不思議な空間を通り抜け―――さっきまでいた部屋にいた。いや、何かが違う・・・。壁の日焼けの後、飾られている花の色・・・全体の雰囲気は同じでも、こまごまとしたところが違った。そして、入口から部屋の外に出て、本来ならカウンターや古びた商品が並んでいたところに出るはずだが・・・やはり違った。―――そこには、人が暮らしているかのような部屋が広がっていた。テレビもあるし、ベットもある。キッチンもあれば、お風呂も・・・驚いてあたりを見渡すレミの視界に、ベットに腰掛け、サッカー雑誌を読んでいる見覚えのある少年―――ショウが映った。
「ショウっ!こんなところにいたっ!探したんだよっ!?」
ぷりぷり怒りながら近づいてきたレミを横目でちらっと見ると、ショウは
「あぁ、レミ。遅いぜ?」
と言い、また雑誌を読み始めた。その様子にまた怒ったレミが、雑誌を取りあげてベットの横に座り込んだ。
「あっ、何すんだよっ!?」
「“何すんだよっ!?”じゃないよっ!もう、急にいなくなっちゃって・・・本当に困ったんだよ!?」
怒りの収まらないレミの目もとに、今度は涙がたまった。その様子を見たショウは、急に真面目な顔になってレミに向かい合った。
「すまねぇ。でも、一応教えたつもりだったから・・・わかんなかったか?」
コクッとうなづいたレミを見て、ショウは謝った。
それから数分後・・・。
いよいよ本題に入った。
「それでショウ。ここが、あの“カヘンヘンカ”なんだよね?もう1つのカヘンシティ・・・」
「あぁ。でも、カヘン団がこの世界の人は全員殺してしまったから・・・ここには誰も住んでないんだ。だから、ネオンも輝いてないし、人の住んでいる形跡もないはずだな・・・」
ようやくくわしいことを話してもらえたレミは、窓からカヘンヘンカの街並みを眺めた。確かに昨日や今日の朝見たカヘンシティと同じような街並み。しかし、人気はなかった。そして、ふと思った。
「そういや、ショウはどっちの人なの?」
ショウは、ん~・・・としばらく考えた。
「俺は・・・母親がこっちの人で、父親が向こう―――カヘンシティの人。要するにハーフみたいな感じだな。でも、両親ともどっかに行ったから・・・俺は7歳のころからこっちの世界で1人暮らし。一応、レミは?」
レミは、聞かれたから答える。
「私は、昨日までお姉ちゃんと2人で暮らしてたんだ。でも、10歳になったから昨日旅に出て、今日ショウと会った・・・ってわけ。両親は・・・お母さんは和領土の人で、私が生まれてすぐに死んじゃったからよく知らない。お父さんも幼い私たち姉妹をおいて、どっかにいっちゃった。まぁ、私たち似た者同士かもね、えへへ」
そう笑ったレミにつられてショウも、そうだな、と笑った。
そして、大事な決断の時がやってきた。
「それで、レミはどうするんだ?別に・・・戦わなくてもいいけど・・・」
レミは何事にも揺らがない強い意志をもって答えた。
「私、一緒に戦う!そして、世界の平和も守るっ!だから、今日から私たちは“Messiah”!いい?」
「“Messiah”?」
不思議そうな顔をするショウに向かってレミは、笑顔で言った。
「“Messiah”とは、“救世主”のことだよっ!私たちにぴったりでしょ?」
この決断が、レミの今後の運命の歯車を回し始めた。―――レミの人生は、本当の意味で、今、始まったのだ・・・!
そして、この出会いが―――今後のレミの運命を大きく左右していくのだった。