ピンチ
「それじゃあ、行ってきまーす」
「いってらっしゃーい」
レミは、髪をポニーテールにして、街へと出かけて行った。
鏡の中を通り、細い路地を抜け、大通りに出たらすぐにいろいろな店が並んでいる。その一角に、美容室もあった。
「此処の美容室、上手なんだよね・・・」
長い髪をなびかせながら、レミは美容実へと入った。
ベルの甲高い音とともに、レミは店の中へ入った。
店の中は、温かくていい香りに包まれていた。その香りの中に、若干カラーリングのにおいが漂っていて、変なにおいとなっていた。
「いらっしゃいませ」
「髪を、肩より上くらいまで切ってほしいんですが」
「わかりました」
そういうと、美容師は器用なハサミ使いで髪を切りそろえていった。レミの髪の長さは、だんだんと短くなっていき・・・数十分後には肩の上くらいまで短くなっていた。
レミはお店の人にお金を払い、美容室を後にしようとした。その時だった。
―――ドッカァァァァァァァァン!!!!
外から、ドでかい音が響いてきた。店の中は一変、不安げな表情を浮かべ、周りを見渡す。
落ち着いているものなど、もはやだれもいない。レミだって、例外ではない。周りを見渡して、ようやく見つけた。―――遠くで、高いビルが燃えているところを。
「もしかして・・・カヘン団?」
レミには心当たりがある。―――最近のカヘン団は、行動がエスカレートしてきている。カヘンヘンカだけでなく、少しずつだがカヘンシティにまで影響が及んできている。
もしかしたら、カヘン団がテロでも仕組んだんじゃないのか・・・。レミの脳内で、すべてが1本の糸でつながった。
「急がなきゃッ!」
パープルのスプリングコート、ベージュのホットパンツ、ピンク色のシフォンブラウス、はいているロングブーツのヒールだって、あまり高くない。この服装だったら、絶対に戦える。
レミの中に、大きな決心が出来た。かばんを乱暴に振り回し、人ごみの間を駆け抜けた。
「・・・ひどい・・・!どうすればこの状況を・・・」
ビルを見て、真っ先にレミは目を見開いた。中には、大勢の人だっているだろう。避難は済んでいるようだが、まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない。
何度か屈伸をして、レミは近くにいた人にかばんを預け、ビルに飛び込んで行った。
―――遠くで、“お嬢ちゃん!何してるのっ!?”という声が聞こえた。それでも、レミは振り返らなかった。振り返れなかった。たとえこれが、カヘン団の仕業でなくても・・・戦うものとして、見過ごすわけにはいかなかった。
「ケホッ、ケホッ・・・逃げ遅れた方、いませんか?」
大声で叫ぶレミ。返事はないから、逃げ遅れた人はいないようだ。しかし、奥のほうに人影が見えた。
ためらうことなく、レミは1人でその部屋へ足を踏み入れた。
「貴方は・・・」
煙が立ち込め、意識がもうろうとする中、レミは1人の男性の姿をとらえた。奇妙ないでたち、その服装はMs.カヘンに似ているようだった。そう、Ms.カヘンに―――。
「貴様がレミか。唯一の女戦士、レミ・レナルド―――。なかなかの強敵らしいじゃないか。しかし、一見すればただの美しい娘だな」
「だから・・・ケホッ・・・貴方は?」
男は、にやりとうすら笑いを浮かべ、はっきりと言い放った。
「―――我は、最終ランクボスMr.カヘンブラック。初めてだな、レミ―――」
レミは、目を見開いた。煙が目にしみる。それでも、開かずにはいられない。この人が、最終ランクボス・Mr.カヘンブラック・・・。
「覚悟ッ!」
近くに転がっていた鉄パイプを、竹刀のように握りしめ、まっすぐに鋭い目つきで睨みつけた。Mr.カヘンブラックも、無気味なほ大きな瞳で、レミを見据えた。
「さぁ、どうするんだ?」
「此処で、とどめをさすっ!」
そういうや否や、レミは全速力で走り、パイプを振りおろした。しかし、それは当たらない。綺麗にすり抜け、レミの腹にパンチをくらわせた。
「うっ!」
痛さのあまり、その場に倒れこんだ。しかし、此処でへこたれるわけにはいかない。痛みをこらえつつ、再び立ち上がった。
しかし、所詮は14歳の少女。大人の男性には到底かなわず、レミの華奢な体は痛めつけられていく・・・。
レミはレミで、足をからめたり、何らかのダメージは与えられている。このダメージは、役に立つかどうかは分からない。しかし、今はそれくらいしかできない。
「あんたたちに聞くわ!カヘン団の・・・っ・・・目的って、何・・・っ!?」
「わからないのか、聡明なお譲さん。世界を取り込みたいんだよ―――。そのためには・・・貴様らは邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
そんな叫び声とともに、再びレミの体を痛めつける。
痛々しい悲鳴が、部屋に響く。レミの顔は、ひどいものだった。血だって出まくっているし、うちみも多い。切ったばかりの髪の毛だって、早くもぼさぼさだ。
一方のMr.カヘンブラックは、見た目では全くと言っていいほど、ダメージを受けていない。
レミは、にやりと笑って見せた。
「何だ?」
ぎろりと睨みつけるMr.カヘンブラック。レミは、ブーツの中から、拳銃を取り出した。Mr.カヘンブラックの表情が、張り詰めたものになる。
「き、貴様・・・」
「ケホッ、まだ使わないわ・・・でも・・・ケホッ、これ以上したら・・・ッ!」
カシャリ・・・球をつける、乾いた音が2人の無言の空気に流れた。
レミは、球を取るために下を向いた。その時だった。Mr.カヘンブラックがレミにしがみついた。そして、割れた窓から―――
「消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
―――高層ビルの30階から、レミは地上に向かって突き落とされた。




