気高き救世主の誇り
とある日―――
レミは、その日の朝、珍しく1人で読書をしていた。理由は、男子3人が買い物に行ってしまったからだ。
「レミっ、大変だっ!」
「ど、どうしたの!?」
「・・・ユウキとショウがさらわれた!」
ようやく本の世界にのめり込んできたころ、レイがあせった顔で、飛び込んできて叫んだ。レミは、恐怖と驚きで顔をひきつらせた。
「嘘っ!?どうして・・・三和に、さらわれたの!?」
「あぁ・・・くそ、俺が少しトイレに行ってる間に・・・」
レイが、堅く握ったこぶしを、怒りにまかせて壁にぶつける。その迫力に、レミは一瞬びくっと反応する。しかし、それと同時に、今起こってしまったことが理解できた。
サァ・・・と、顔から血の気が引くのが、レミは分かった。いままで、さらわれたことなどなかった。もちろん、そんな事は今後もないと思っていた。
11歳と10歳の少年少女の頭では、今戦うことしか考えられなかった。
しかし、さらわれるのを見ていたレイは、危険な雰囲気を感じていた。もしかすると―――奴らは、殺しをするかもしれない。
11歳の少年は、かすかにそんな雰囲気を感じていた。
そんな考えに浸る時間は今はない、そのことを思い出したのは、レミの涙のたまった瞳を正面から見つめた時だった。
「レイ、どうしよう・・・あいつら、ひどいよ・・・」
レミは、興奮していた。レイも、この状況をどうすればいいのか、正しい解決策がわからなかった。そして、途中でレイは、あるものの存在を思い出した。
1年前―――レミとショウに助けられた時、レイは腰にウエストポーチを付けていた。その中に、あるものは入っていた。そのポーチは、今はレイの部屋のベットの下に、あるものと一緒に隠されていた。レイは、そのポーチの中に入っているあるものを取りに行った。レミは、困惑したようにその場にたたずんだ。レイが自分の部屋から帰ってきたとき、レミの顔はさらにひきつった。
「レイ、それって、け、け、拳・・・」
「そうだ・・・拳銃だ。こういうときは、しょうがないと思うんだ。・・・もちろん、使いたくなかったらいい。一応言っておくが、俺は奴らを殺すつもりはない」
そういうレイの瞳は、静かに怒りに燃えていた。レミの瞳は、恐怖と怒りと悲しみが入り混じった、なんとも言えないそんな感じだった。
「レミ、君はここにいて。ショウとユウキは、俺が助けに行くから」
レイは、今度は恐怖に怯えたように震えた。レミには、その提案は呑み込めなかった。―――確かに、怖かった。レイが拳銃を持った、つまり、カヘン団も拳銃や武器を持っているかもしれない。自分の命は、もしかしたら今、風前の灯なのかもしれない。レミは、震えながら考えた。
―――自分が今、ここで力尽きても、誰も見つけてはくれない。姉は一体、どう思うのだろう。手紙が何枚も来る。その手紙は、市役所にある個人用ポストにたまっているという。
私達は、歴史の表舞台に立っていない。私たちが消えても、誰も何とも思わないだろう。ユウキも含め私たち4人は、ほとんど身内がいない。
ショウは、1歳のころ母親が、7歳のころ父親が、何処かへと消えた。理由や何処に行ったのかは、いまだにわかっていない。
“おそらく、死んだんだろうな”と、ショウは言っていた。
レイは、元々母子家庭だった。父親は、レイがまだ母親の腹の中にいたとき、母親と離縁していた。8歳まで育ててくれた母親も、レイが8歳の時に、ストレスでレイを捨てた。
ユウキは、幼いころは普通の家族だった。両親と弟とユウキ、近所でも中のいい家族として有名だった。しかしユウキが9歳のころ、突然の火事により、家族を失った。
レミは、3人に比べればいくらかましだった。確かに母親は私を産んですぐになくなった。父親も、その後すぐに消えてしまった。でも、レミには姉がいる。しかし、今は嫁いでしまった身。もう会うこともないのかもしれない。
レミは、急に不安に駆られた。でも、レミの心の中には、1つの気持ちがあった。―――もし、ここで終わる命ならば、仲間とともに終わりたい。
「・・・も行く」
「レミ?もう1度、言ってくれるか?」
レミの瞳には、今は決意が宿っていた。
「私も・・・私も、一緒に行く。もし・・・ここで終わる命なら、私は仲間とともに終えたい!最高の、誇りとともに・・・!」
しばらくレイは驚きの表情を浮かべていたが、すぐに気持ちを整理したようだった。レイは、ななめがけしたバックから、黒い物体―――拳銃を取り出し、レミに渡した。
「最高の誇り、か・・・。さすがだね、レミ。君の心の美しさには、何度救われたか・・・。わかったよ、一緒に行こう」
大きく首を縦に振り、レミとレイは走りだした。―――目指すは、奴らのアジトである廃工場。




