一抹の不安
レミは、自分たちの家に着くなり、大声で叫んだ。
「ただいまーっ!レイー?」
ショウは、途中で知り合いにあったため、町からレミは1人で帰ってきた。
・・・しかし、部屋からの返事は返ってこなかった。レミは、ふと不安になった。そして、急いでエレベーターに乗り込んで、20階まで行った。
「レイ?どこ・・・?」
部屋の中を、あっちこっち探し回ったが、レイの姿はどこにもなかった。レミは、自分に言い聞かせる。
「大丈夫、きっとレイも出かけたんだよ・・・そう、多分・・・」
首飾りを握りながら、レミはつぶやいた。―――しかし、それから1時間たっても、レイは帰ってこなかった。レイだけでなく、ショウも帰ってこなかった。レミは、いよいよ心配になった。そして自分の部屋に駆け込んで、さっきまで持っていたカバンをつかみ、外へとかけて行った。そして、鏡の前まで走る。しかし、その間でも2人には会わなかった。
息を整えたレミは、鏡を勢い良く動かした。とたんにまばゆい光が放たれ、レミはそこに飛び込んだ。正しい世界に出て、路地を抜けても、2人に会うことはなかった。レミは、大きな通りに出た。その時、ちょうどいいタイミングで馬車が走ってきた。レミは、ピューッと軽やかに指笛を吹いた。その音を聞いた馬車がレミの目の前で停まる。
「おや、お譲ちゃん。どうしたんだい?1人でお出かけかい?」
ラテン系のノリのいいおじさんが、馬車から下りてきた。レミの大きな瞳には、いつしか涙がたまった。驚くおじさんに頭を下げて、涙をぬぐい去って、急いで聞いた。
「あのっ!こげ茶の短い髪の男の子と、少し長めの黒髪の男の子っ、見ませんでしたかっ!?」
レミのただ事ではない様子を感じたのだろう。馬車乗りのおじさんは、急に真剣な顔になって、レミを馬車の中へと招き入れた。
「さぁ、乗りな、お譲ちゃん。金はいいから、何処へ行けばいいんだい?」
こぼれてきていた涙をぬぐって、レミは言った。
「ザ・ワールド学園へ!」
馬車の中で、レミは仲間のことを考えた。
出会ってから、まだ数日しかたっていないが、レミにとってショウとレイは、大切な友達でもあって、仲間でもあった。ようやく出会えたそんな仲間をたった数日で失うなんて、レミはいやだった。
馬車の窓から、顔をのぞかせた。国の中心にある王室領土の町・ローズシティに住む貴族たちが、ドレスのすそを押さえて、馬車の通った後に吹く風で、ドレスのすそがめくれることを防いでいた。
レミの緩めに結んでいたポニーテールが、風によってほどけた。絹のような髪が、さらさらと風に揺れた。その美しい髪の持ち主の表情は、決意を固めたような顔だった。
「ほら、ついたよ。さぁ、早く友達のところへ行きな!」
「ありがと、おじさんっ!」
レミは学園に着くなり、寮へと走った。―――リカに会いに行ったのだ。
不安で仕方がないレミにとって、唯一頼れるのはリカしかいなかった。
女子寮に行く途中、美しい金髪の男の子とぶつかった。
「イッ・・・!」
「あっ、ごめんなさい!」
その男の子は、優しい細い瞳をレミに向けながら、手を差し伸べた。年齢は12歳くらいのようだった。レミは、その手を取って立ちあがった。
「ありがとうございます。・・・では、急いでいますので」
すぐに背を向け、寮へと走り出そうとしたレミを、その男の子は引き留めた。
「ちょっと、君、名前は・・・?」
その頬は、真っ赤に染まっていた。レミは、スカートのすそをはたきながら、答えた。
「私は、レミ。あなたは?」
「僕は、リヴァインド。ウィルパレ神王国って国からやってきた留学生です。君は、この学園の生徒・・・?」
しかし、その質問に答えず、レミは寮へと走った。後ろで、男子生徒・リヴァインドがポカンとしていた。
「レミ、どうしたんだい?1日に二度も来るなんて・・・」
寮に着いてすぐにレミはリカに会えた。レミはただ不安だった。その不安に押しつぶされそうだった。いままでひたすら堪えていた気持ちが、リカに会った途端、あふれた。―――ポロポロポロ・・・レミの瞳から、大粒の涙が流れた。
「レミ・・・大丈夫かい?・・・何があったかはわかんないけど、あたしが支えてあげるからな」
「・・・うんっ」
レミは、優しいリカのぬくもりに、姉のジュリのぬくもりを感じていた。そして、さっきよりは少し安心した気持ちになった。リカはレミの頭をなでながら、優しく微笑みかけた。
「レミ、あとで一応、家に電話をかけたら?そしたら、もしかしたら帰っているかもしれないだろ?」
「・・・そうだね」
レミは、そういう優しさにも救われていた。




