第9話 クライスト
夜の闇の中、宙空を駆けるウォルフは、イラつきながら仲間の連絡を聞いていた。
「また一人デリーターが消えたようです。」
「ちっ、、、一体何人消えてるんだよ?」
「ちょうど今1,000を超えたところです。」
「嘘だろ?相手は、たった一人だぞ?」
「それが、、、不思議な事に、、、同時刻に別々の都市で10人消えたり、、」
「どういう事なんだ?いくら奴でも不可能だろ?」
ウォルフは、わけがわからず不気味に思った。
この世界で唯一かなわなかった相手だが、これほどまでに恐ろしい存在だったか?
俺達が戦ってる相手は、たった一人だよな?不気味な恐怖感に冷たい汗が流れる。
デリーター達が不思議に思うのも無理もない。
絶妙のタイミングで異形の者達がZ級都市から開放されてデリーターを襲ってるのだが、
異形の者の存在を知らないデリーター達には、想像もつかない。
闇にまぎれて攻撃を仕掛けてくる異形の者達は、デリーターを襲っては、血肉をくらい、
住処に食料としてストックしては、また別の獲物を狙っている。
便利な乗り物も一緒に住処に運んでは、仲間に分け与え、都市へ移動できる者を次々に増やした。
ちょうど今、仲間全てが全ての都市へ自由に行き来できるようになったところだ。
出入りを禁じられた場所に踏み込んだ者のせいで恐るべき化け物達を世界に放ってしまった。
化け物達の狩は続いた。闇が消えるまで、夜が明けるまで、殺戮しては、蓄え続けた。
化け物達が忌み嫌う眩しい光を照らす朝が来る少し前に、彼らは、住処の闇に消えた。
O級都市のマリアは、恐ろしい悪夢にうなされて目を覚ました。
今まで見た事もない恐ろしい形相をし、4本の腕を持つ化け物達が暗闇から飛び出しては、
次々に人間に襲い掛かり血肉を喰らっては、闇へと消えていく夢。
化け物達は、この世界のどの街へも自由に行き来できるようだった。
化け物達の最終目標は、我が子を喰らう事。体の震えが止まらない恐ろしい悪夢だった。
何故だか知らないが我が子に対して恐ろしいほどに敵意を抱いている。
逃げなければ、、、でもどこへ?
「クライスト」
と、マリアの口からこんな言葉がこぼれ出て驚いた。
「クライスト?それが貴方の名前なの?そうなの?」
すやすやと眠る赤子の寝顔に微笑みが浮かんだ。そしてマリアの脳裏に、
「今は、まだ大丈夫だから安心して、でもママ、やがていつか奴らがここへ来る。
その前に蓄えた食糧を外へ運ぶ準備をして、準備ができたらみんなを連れてここを出よう。
その時は、必ず僕がきちんと道案内をするから。」
と、声が聞こえた。
「わかったわクライスト、あなたの言うとおりにします。」