第7話 目覚め
マリアの身を案じ、マリアの住まいの外で様子を見ていた人々は、
いつの間にか寝てしまっていた事を少し反省しながらもマリアの姿を探した。
それから咲き誇る花々の傍らに赤子を抱えるマリアの姿を見つけてホッと息を吐いた。
マリアが眺める美しい花は、亡き母が生前に大事に育てた花と同じ種類の花だ。
いつしかマリアを囲む人の群れができていたが、誰も何も言わずそっとしてあげている。
そんな優しい心づかいにマリアは、感謝しながら言葉を発した。
「花も人も同じ世界で一生懸命生きてます。命とは、尊いもの。何人にも操られるべきでは、ありません。
皆さんの痛みは、私にも苦しいもので、皆さんの喜びは、私にもありがたいものです。
そして、、、私達は、この生に感謝しなければなりません。
そして、、、私達は、この世界のあるべき姿を取り戻さなければなりません。
昨日、真の神様がこの子を私に授けてくれました。
誰もが人の痛みを自分の痛みととらえ、支えあえる世界を、誰もが自分の喜びを皆でわかちあえる世界を、
そして、、、草花や自然と共に自由に生きられる新世界を創造する使命を、この子に与えました。
これは、お願いですが、、、皆さん、共にこの子を支えていただけますか?」
マリアを囲む人の群れは、皆地面にひざまづき手を合わせてマリアを拝んで何度も首を縦に振った。
マリアは、この言葉を最後にして締めくくった。
「7000年に渡り捻じ曲げられてきたこの世界の神を名乗る汚れた者達には、鉄槌が降ります。」
マリアに優しく抱きかかえられる赤子は、目を覚ますと咲き誇る花々に手を伸ばした。
するとその花畑に色とりどりの花々が咲き、人々は奇跡を目の当たりにし、歓声をあげた。
その頃、地下層のO級都市のさらに地下の奥深く、最下層にあるZ級都市では、異形の者達が妖しく蠢いていた。
言葉にならない声を発する異形の者達は、遺伝子操作に失敗し、死体と一緒に捨てられる奇形だ。
光も差さない暗黒の世界で己の生さえ恨み全てを忌み嫌う者達。
彼らのほとんどは、生まれてすぐに死に絶えていくのだが、
奇跡的に生き延びた者の全てが恐るべき生命力を身に付けて化け物と化していた。
死体を貪る4本の腕を持つ異形の者の一匹が獣の言葉を放った。
「何やら忌々しいものが生まれやがった。」
「忌々しいもの?」
「俺達が嫌いな光を放つものが生まれた。」
「そいつは、忌々しいな食ってやりたいもんだ。」
「もう少ししたら宙を飛ぶ乗り物に乗った連中がここへ来るようだ。そいつらを喰らって力を蓄えて時期を待とう。
忌々しいものの頭は、俺が喰らうぞ。わかったな?」
しばらくして入る事を禁じられてるZ級都市に次々にデリーター達の生き血が流れた。
闇に慣れた化け物たちを前に、デリーター達は、成す術もなく貪り喰われて悲鳴をあげた。
全ての都市を行き来できる乗り物が闇の生き物達の手に渡った事で、
この世界を震撼させる悲劇が幕を開ける事となった。
人肉を喰らう異形の化け物達が初めて各階級の都市に放り出される。
新鮮な生き血を求めて、忌々しい光を放つ神の子の生き血を求めて。
神の子の目覚めと共に闇の化け物の邪心も密かに目覚めていた。