第4話 プログラムエラー
A級都市管理局のスリーは、退出時間に近い、5時55分39秒にドアを開けるボタンを押した。
するとちょうどいいタイミングで夜の管理者が現れた。
「ありがとう。新しい昼の管理者ですね。名前はスリーと呼べばいいですね?」
「ええ、あなたは番号がかぶる、、前の昼の管理者には、74と呼んでもらってたようですが、
私とは、かぶらないから簡単にセブンでもいいですか?」
二人は、笑った。
「私達は、聞かなくてもわかる質問ばかりしてますね。プログラムどおりだから仕方ないですか」
セブンは、どこか影のある男だ。この仕事をしていれば仕方がない事だが。
スリーは、管理局を後に与えられた新しい住まいを目指した。
自動的に駅へと送ってくれる道路に足を置いて、流れる景色を横目に頭の中では、これから出会う女性の事を想像している。
彼は、長い時間を管理局で過ごしているうちに自分の未来を見てしまっていた。
管理局に勤める誰もが初めは戸惑いながらも、長い退屈な勤務時間のせいで、知りたい欲求に負けて、未来を見てしまうようになる。
そして、慣れてくると、これが結構便利に思えてもくるのだ。
事前に知る事で心がまえができるからだ。
頭の中で、出会う瞬間を想像した。自動道路が交差する場所に、やがて到着する。
と、そこへ別の道路から来た女性が自分にぶつかる。5,4,3,2,1
「どん。」
「あ、ごめんなさい。急いでたもので。」
「あの男性に追われているようですね?先をどうぞ。私は、管理局に勤める者です。足止めして注意しておきますよ。」
女性は、深く頭を下げて一礼すると自動道路の上を足早に歩いて去った。
それから少し間をおいてスリーの前に男が現れた。
「管理局の者です。女性を追いかけてるようですが、これ以上追うならA級都市民法に基づく処罰を適用しますが?」
それを聞いた男は、驚いて引き返した。その様子を見て安心したスリーは、再び自動道路に足を乗せて流れる景色に目をやった。
なにくわぬ顔で景色を眺めていると、先ほどの女性が自動道路に乗ってきた。
途中で自動道路を降りてスリーが来るのを待ってた模様だが、スリーは、それも知っていた。
「さっきは、ありがとうございます。」
「もう大丈夫ですよ。A級都市民法に基づく処罰を適用しますが?と、注意しておきましたから。」
「ホントに助かりました。ありがとうございます。管理局勤務なんて偉い方なんですね、まだ若いのに。」
言われたスリーは、まんざらでもなく頬を緩めた。「私は、今日初めてA級都市民に昇格したんですが、どこか、、、
美味しい料理が食べられるお店を知りませんか?」「あ、じゃあさっきのお礼に私がご馳走しますよ。いいお店があるんですよ。」
スリーは、少し口を尖らせた。「ん〜〜〜〜〜〜、割り勘でどうですか?私は、当然の事をしただけですし、
あなたのような綺麗な方と食事ができるなら、、こちらがご馳走したいくらいです。」
女性は、顔を赤らめた。
「そんな、、綺麗だなんて、、、管理局の方は、みんな口が上手いんですか?」
言われてスリーは、少し考えた。
「どちらかと言うと、、、なんて言ったらいいかな?」
互いに未来を知ってるから言葉に困るんだよな、と思ったが、それは、言えない。
ここでスリーは、妙な違和感を憶えた。 あれ? おかしい、、、ここでさっきの男がまた現れるはずだが、、、バグか?
スリーは、急に不安になった。自分に関わるはずの男がバグになった。今この瞬間、自分のプログラムにも変化が起きた。
こういう場合は、どうなるんだ? 俺も彼女もバグになるのか?
背中に冷たい汗が流れる、 だが、何も起きない、 後ろに黒衣の男の姿も現れない。
この時、管理局で、夜の管理者のセブンも驚いていた。
今回のように誰かと関わるケースでバグが出た事は、ない。
「新しい昼の管理者スリーや彼が出会った女性もバグになるのか?」
これまでにないケース、 プログラムエラーが起きた。
モニターには、見たこともない表示が出ている。
「緊急修復作業の為5分システムを停止します。」と、
5分後にモニターは、通常どおりの表示になった。
セブンがあわててスリーのプログラムを覗いてみると、、、プログラムが書き換えられていた。
スリーと女性を追いかけていた男が再び接触する部分は、削除されていた。
そして、女性を追いかけていた男も削除されていた。
「そうだよなあ、、そうならないと大変だよ。
じゃないと、仮に、、、俺がたまに行くレストランのシェフがバグになって削除された日に、
俺がそこで食事する事になってたら俺もバグになってしま、、、
いや、そうなったら、、、そこで食事する事になっている全員バグに、、、」
セブンは、真っ青になった。充分考えられる話だからだ。
このところバグは、日々増えている。次々に今のような事が起こる可能性がある。
「そもそも、、、このプログラムは、穴だらけじゃないのか?」