第1話 管理局
命とは、決して自分一人のものでは、なく、全ての命は、多かれ少なかれ他の命と密接に関わっている。
新たな種の命を創った為に絶滅する種の命があるように、
命と命は密接に関わっている。
そう考えると自殺など、もっての他では、ないだろうか?
争いの絶えなかった旧世界の人類は、2000数年で地球上から淘汰された。
それから数百年の時を経て、6人の男の手によって新たな文明が創られた。
天空つらぬく塔の中に幾層にもわけて都市を持つ、
塔都と名づけられた建物が、幾つも建てられた。
だが、塔都の外へ出た事のないここの住民達は、それすら知らない。
塔都の地下深くの層にはOからZ階級までの市民が住んでいる。
しかし、それも地上層の住民達には興味も関心もなく語られる事もない。
Nから始まる地上層の最上部に住む人々の事を最上級市民と呼び地上層に住む誰もが憧れ、
時々話題にのぼる。それが、これから登場する男が今日から住むA級都市。
第1話 管理局
男は、空というものを初めて見れると思っていたのだが、、、
「まだ上があるのか?」
つい、独り言をつぶやいた。
それから考えても仕方ないと気をとりなおして管理局へ向かった。
都市の中心部の最上階にある管理局に到着し、
入り口のドアを開けようとすると、勝手にドアが開いた。
「はじめまして、私は、これまでここの管理を担当していたNo A789731873だ。」
中にいる小太りの男の挨拶に慌てて挨拶をした。
「あ、どうもはじめまして、No A3487563891です。スリーと呼んで下さい。」
小太りの男は、モニターの時間表示を見ながらカウントを始めた。
「4,3,2,1,ハイくしゃみ!」
「ぶぇっくし、、、え?」
小太りの男を不思議そうに見つめると、、、
「管理局という言葉の意味を教えよう。
ここは、ここのN〜A級都市までの住民全てを管理する場所でね、
誰が何時何分何秒に何をするか?全てモニターでチェックできるわけだ。
だから、君がここに到着する時間も、君がくしゃみをする時間も全てここのモニターで、
事前にわかってたってわけだ。
この世界の住民全てがここのモニター内のプログラム通りの人生を過ごす。死ぬまでな!
我々は全てこの神が創ったプログラム通りに生まれてプログラム通りに死ぬ。
だが、稀にプログラムから外れた行動をとる者がいてな、、、
ま、私は、バグと教わり、そう呼んでるが、
あ、ちょうどいい、モニターにバグが表示されている。赤く表示されてる番号があるだろ?
この番号の男の行動をそっち側のモニターで覗くと、、、女性の後を追って歩いてるね?
プログラムでは、、、彼は今、別の方向の職場へ向かう時間だ。バグだな、報告せんと。」
小太りの男は、モニター内の番号にバグという表示を追加した。
「プログラムと違う行動をとるものが現れたらこう表示するのが今日からの君の仕事だ。」
「え、これだけ?」
「責任重大だよ?そっちのモニターの男を見ていろ。」
女性の後を追って歩いてる男の後ろに宙に浮かぶ黒衣の男が現れて、
その後にバグと呼ばれた男が倒れ、もう一台のモニターから番号が消え、
バグを映してたモニターが別の景色を表示した。
「そんな、、、殺されたって事ですか?」
「恐らくな。では、後を頼むよ。」
「どんな行動でもプログラムと違う行動をとるとバグと表示させるのですか?」
「ああ、そうだ。プログラム上寝ているはずなのに起きてたりしても、
くしゃみをするべき時にしなくても、しないはずなのにしても、
プログラムと別の行動をとるなら、それは全てバグだ。では、頼むよ。さよなら。」
「あなたは今後どこへ?」
小太りの男は背を向けたまま言った。
「これから赤く表示される番号を見たらいい。」
そう残して管理局を後にした。
そして、すぐにモニターに赤く表示される番号が見つかった。
プログラムを見て驚いた。
小太りの男のプログラムは、この後、数時間ぶんしか表示されてないのだ。
「どのみち死ぬって事か?」
少しためらいながらも赤い番号にバグの表示を追加した。
モニターは、眺めなかった。見ていられなかった。
男は、愕然とした。そんな、、、やっとA級市民になれたってのに、、、
俺がこれまで頑張ってきたのも全てプログラム通りって事なのか?
神って何だ?この上の都市に神ってものがいるというのか?
男は自分の番号のプログラムを覗いて更に驚いた。
自分のこれまでの行動が事細かく表示されている。
年別表示、月別表示、日別表示、時間別表示、分別表示、秒別表示と事細かく。
不安になって年別表示でどこまでプログラムされてるか覗いた。
すると30年ほど残っている事がわかって少し安心した。
それからモニターの表示を通常の表示に戻した。
あまり先の事を知りたくないと思った。知れば毎日が味気ないものになる気がした。