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それではお嬢様、お金を入れてください

掲載日:2026/06/16

「おかえりなさいませ、ルミナ・リュミエール様。私の名前はMA-ID-82E4、最先端魔学メイドロイドアーティファクトです」


 学園から帰宅し自室に戻ると、そこには平坦な声で喋る黒髪のメイドがいた。


 ……誰? と一瞬思ったが、そういえば今日からパパとママが貴族の付き合いでしばらく家を空けるから、その間寂しくないように話し相手を連れてきてくれると言ってた気がする。


「えっと……あなたが例の『話し相手』なのよね……?」

「その通りです。ご主人様からルミナ様の趣味嗜好などはすべて伺っておりますので、どんなことでもお申し付けください」


 アーティファクトとか言ってたな。話し相手がまさかロボットだなんて……まぁ、いないよりはマシかも。


「それで、お名前はなんだったかしら? たしか、えむえーなんとか……」

「MA-ID-82E4です。長いので好きに呼んでもらって結構です」

「じゃあメイはどう? メイドだから、メイ」

「承知しました。今日から私はメイと名乗ります」

「うん……」


 ……特に会話が続かない。そりゃそうか、だって初対面だし、何か繋がりがあって出会った訳でもないし。


 相手が生身の人間ではないとはいえ、なんか気まずくなってしまう。

 せっかくだから何か機能でも聞いておこうかしら。


「ねぇメイ、あなたはどんなことができるの?」


 そう聞くと、やや無機質な声で喋り始めた。


「私は最先端メイドロイドですので、多彩な機能が搭載されています。例えば魔力によって人格が形成されているので、本物の人間と遜色のない受け答えが出来るようになっています」


 ほうほう。たしかに会話は問題なさそうだ。


「さらに精巧に作られたボディによって、色んな動きができるようになっています」


 そう言うとメイは首を回したり、腕を回したりと軽い運動をした後、


「ヨガのポーズなんかも可能ですよ」


 と、前腕を床について逆立ちし、背中を大きく反らせて足先を頭にくっつけた。


「……なにそれ」

「サソリのポーズです」


 まぁ、たしかにすごいけど……。


「あとは立木のポーズ、眠るヨギのポーズ、蛍のポーズ……」

「ヨガたくさんできるのはわかったから! もう十分!!」


 次々とヨガのポーズをとっていくメイ。ちょいちょい人の範疇超えてそうなやつが入るから見てると怖くなってくる。

 関節が外れそうになるようなのはあんまり見せないで!


「あと変形とかできますよ」

「変形?」


 何がどう変形するんだこれは。


「何がどう変形するんだこれは、と思いましたね?」

「なんでわかるの!?」

「魔力感知によって感情の把握も可能です」


 うわぁ〜嫌だ〜。このヨガ魔人に考えてること筒抜けなの嫌だ〜〜。


「……それで、どう変形するの……?」

「例えばこんなふうに」


 メイは右腕からウィーンガシャンガシャンとメカメカしい音を出し、黒い金属に変形させた。


 太くて長い……なにこれ、銃……?


「ショットガンです」

「物騒!」

「ナイフや毒といったものの方がが好みでしょうか?」

「手段の方法じゃなくて!!」


 危ない! なんでメイドにこんなのが搭載されてるの!? もしかしてあれなの、ギャップ萌え需要とか狙ってるの?


「あとはインパクトドライバーや電ノコ、ドリルにハンマー……」


 引っ込んでは出てくる様々な工具たち。あなたの居場所は貴族の邸宅じゃなくて、工事現場だと思うの。


「あっ、普段使いできるものもありますよ」

「ほぅ?」


 左手の人差し指をピンと立てて、ガシャンと変形させた。

 そして出てきたのは、台形の端子……。


「Type-Bじゃん」

「Type-Bです」


 一昔前のスマホについてるやつ! 今日日使える機械ないでしょ!?


「わたしのスマホType-Cなんだけど」

「残念ながらこれしか搭載されてませんね。最先端の私についてるのは少し恥ずかしいです」

「何のためについてるの……」


 他にも色々見せてくれたけど、日常で使えるようなものはひとつもなかった。具体的には音叉とか牡蠣ナイフとか。


 こんなやつとしばらく一緒にいないといけないと考えると、微妙に嫌な気分になる。

 仲良くできるか、こんなのと。



 ◇◆◇2時間後◇◆◇



「───でさ〜〜、ハルナがさ〜〜、マジでムカつくんだけど〜〜」

「なるほど、それはハルナ様が悪いでございます」

「でしょ〜〜? あっ、そうそう、最近駅前にケーキ屋さんできたみたいで〜」

「隣国からの出店だそうですね。今度買いにいきましょうか」

「やった〜」


 仲良くできたわ、こんなやつと。


 こいつ妙に話しやすい。愚痴は全部受け止めてくれるし、趣味の話も色々知ってるから聞き手と話し手両方に回ってくれる。

 ……パパはどこまでこいつに教え込んだんだろう。


 おまけに淹れるお茶が今まででトップクラスの美味しさしてる。メイドらしいところも完璧すぎる。


「それでそれで〜」

「ルミナ様、お話の途中ですがそろそろお食事にしませんか? 今夜のメニューはルミナ様の好きなカレーですよ」

「ほんと!? やった〜!」


 バンザイをしたところで、ガッシャアアアアン!! と下の階から凄まじい音が鳴り響いた。


「へ? 何? なんの音!?」

「少々お待ちください。すぐに解析します」


 メイは頭に手を当て、目に色々数字を表示した。

 そして数秒後、また平坦な声で喋りだした。


「強盗ですね」

「えぇっ!?」

「人数は3人、ルミナ様を誘拐して身代金を要求するつもりですね」

「誘拐!? どどどど、どうしよう!!」

「武器はそれぞれ短剣、巨大なハンマー、魔杖です。どれも鉢合わせたら瞬殺されますよ」

「不安を煽らないで!」


 自分の家の中に命を狙ってくる人が侵入してきたという事実が、凄まじくこわい。

 頭を抱えて軽くパニックになっていると……


「慌てても仕方ありません、とにかく逃げましょうか。私から離れないでくださいね」


 メイが手を取ってくれた。ピンチな状況だからこそ、その焦りひとつ感じない平らな声が安心感を与えてくれる。


「あ、ありがとう……」

「あと貯金箱も持っておくといいですよ」

「はぁ……?」

「とにかく持っておくといいです」

「う、うん……?」


 意図は全くわからなかったが、棚にある豚の貯金箱を持って、メイと共に部屋を飛び出した。


 ◇◆◇


「はぁ、はぁ……。ねぇこれ外に出れるのよね!?」

「ご安心ください。侵入者の位置はある程度把握してるので、鉢合わせない道を進めば脱出できます。……たぶん」

「今たぶんって言った?」

「……」

「たぶんって言った!?」


 メイに引っ張られながら家中を走り回り、ようやく正門の前に来たところで、


「おい見つけたぞ! リュミエールの娘だ!」


 魔杖を持った男に見つかってしまった! どうしよう!!


 隙を見て逃げられないかと思い、門の方をチラチラ見ていると、男は魔杖をこちらに向けて先端に魔力を込め始めた。


「馬鹿なことは考えるなよ? 次に逃げようとしたら命はないと思え」

「ひ、ひぃ……っ!」


 急いでメイの後ろに隠れた。


 流石のメイでもこの状況をどうにかするのは難しいのか、色々と考え込んでるように見える。  


 短剣の男とハンマーの男も駆けつけて、ついに3人を前にすることになってしまった。


「死なない程度に痛めつけてやれ、手足くらいなら構わん」

「「了解」」


 魔杖の男が指示を出すと、短剣とハンマーがこちらに迫ってくる。


 どうしよう、本当にどうしよう。このピンチをどうにかする方法なんて…………


 ……あったわ。


 こいつ変形するじゃん。ショットガン出せるじゃん、ドリルとかあるじゃん。


 メイの肩を叩いて、小声で叫んだ。


(あんた変形できるでしょ! どうにかしてよ!)


 メイはわたしの言葉をしっかり聞いたようだった。だが、特に何もしてくれなかった。


(ちょっと! 早くしてよ!!)

(お金……)

(はぁ……? 今お金がなんの関係あるわけ!?)

(お金を入れてください)


 …………はぁ?


 何を言ってるんだ。……本当に何言ってんだこいつ。


(実は変形のような特殊オプションにはコインの投入が必要になってまして)

(さっきは無料でやってくれたじゃん!)

(初回限定サービスです)

(そんな!)

(あとご主人様から、貰ったお金は好きにしていいと言われております)

(……そっちが本命でしょ)


 カス! こいつカスだ!! カスロボット!!


 なるほどね! それで貯金箱持ってこいとか言ったのね!! もう清々しい!!


(変形しないと100%攫われますね、これは)

(……)

(ちなみに変形すれば100%助かります)

(わかったから! お金あげるから! どこに入れればいいの!?)

(背中に投入口があります)


 メイド服の襟から手を突っ込んでぺたぺた触ると、右の肩甲骨らへんに縦長のへこみがあった。


 貯金箱を急いで叩き割ると、たくさんの硬貨がカーペットに散らばる。

 将来好きなことに使おうと思って貯めてたお金が……!


 その中から銅貨を手に取り投入口に……


(ご自分の命はその程度とお考えですか)


 ……カスめ!


 金貨をつかみ取り何枚も投入口に入れてやった!


「これで満足!?」

「大満足です。侵入者を片付けたらドライバーのアタッチメントを買わせていただきます」

「なんでもいいから早くして!!」


 もはや小声ではなくなったわたしたちの会話を聞いて、短剣とハンマーの男が飛びかかってきた。


 あわわわと慌てるわたしの横で、メイは涼しい顔で、右腕をガシャンと瞬時にショットガンに変形させる。


 バァンッ!!!!


 発砲音が轟き、無数の鉛玉がハンマーの男をブチ抜いた!!

 全身から血が吹き出す仲間を見て、短剣の男は激昂して突っ込んでくる。


「この野郎ォォォッ!!」


 力任せに短剣を振り下ろす男を軽く銃身で振り払い、顔面に発射口を向けた。


「怒りに任せた単調な攻撃ですね。カルシウム不足ですか?」


 ……たしかカルシウム不足が怒りっぽい原因ってのは俗説じゃなかったっけ。まぁわかってて軽口叩いてるんだろうけど。


 男の顔がぐしゃぐしゃになるかと思ったその時、魔力の弾がメイと男の間に割って入った。


「下がってろ! 俺がやる!」


 魔杖の男は、魔力を集中させながらわたしの方に杖を向けた。


 それを見たメイがすぐにわたしを庇うように前に立つ。


 男は狙い通りと言わんばかりにニヤリと笑い、杖を掲げた。


「死ねぇぇぇッ!!」


 杖が振り下ろされ、弾幕のような魔弾がこちらに向かって放たれた!


 これはもうダメだと思ったが、メイは相変わらずクールな顔。

 何をするつもりだと思ったその時、メイの背中がメイド服とともにパカっと開いた。


 そして飛び出て来たのは丸い……盾? 記された文字はあんち、なんとか。


Anti(アンチ) Magic(マジック) Shield(シールド) V2。最先端の私に旧型が搭載されてるのは癪ですが、使わざるを得ませんね」


 左手で華麗にキャッチすると、メイは左手の人差し指を台形の端子に変形させた。


「……Type-Bじゃん」

「Type-Bです」


 それをアンチなんとかにブスッと刺すと、円形のシールドが展開された。


 このためについてたのかType-B! 今日日使える機械ありました!!


「ルミナ様、しっかり掴まっててくださいね」

「へ?」


 直後、メイはわたしをひょいと持ち上げ、お姫様抱っこ。近い! 顔近い!

 円形のシールドを前に構えながら、足をロケットブースターに変形させた!


「暴れるとシールドからはみ出て死にますから、丸くなっててください」

「ひゃ、ひゃい……」


 言われるがままに身体を丸めて首にしがみつくと、メイは足元からシュバッ!! と音を出し、弾丸のように宙を飛んだ。


 アンチマジックシールドで魔弾を防ぎながら、広い廊下を縦横無尽に飛び回る。

 メイは涼しい顔だが、わたしはジェットコースターとか無理なタイプなのでひたらすら叫んだ。


「ぴぎゃああぁぁぁあ!! おろして!! わたしこういうのダメなのぉぉっ!!」

「ここで降ろしたら魔弾で即死ですが、そんなに言うのであれば」

「嘘嘘嘘! しっかり掴まってるから! おろさないで!!」


 しがみつく腕にさらに力を入れると、メイとの顔の距離がもっと近くなる。

 あんなことを言っていたが、わたしを捨てることなんて絶対に無いという顔をしていた。


 間近で見るその顔は、とっても綺麗で、かっこよくて──


 メイは更にブースターを加速させ、その勢いのまま杖を蹴り飛ばした!


 そしてショットガンの銃口が、男の胸に触れた。


「……チィッ!! なんなんだテメェは!!」

「私の名前はメイ、最先端メイドロイドアーティファクトです。それでは、さようなら」


 バァンッッッ!!


 耳が割れそうな音の後、男の胸元は赤黒く染まる。ついでにナイフの男も撃たれた。


 一息ついてからショットガンを戻し、シールドも放り投げて背中に収納した。


「さて、散らかってしまいましたし、メイドらしくお掃除を始めましょうか」


 変わらずのクール顔とは対象的に、わたしは心臓バックバク!


 メイに抱えられて飛び回ったからってのはもちろん、それ以上に──


「ルミナ様。お顔が赤いようですが、どうかされましたか?」


 魔力感知でわかってるくせに。


 こちらに向けたその顔は、ほんの少しだけニヤニヤしてるように見える。


 掃除を始めるために降ろそうとしゃがんだメイ。

 わたしは腕にグッと力を込めた。


「……このままではお掃除ができませんよ」

「わかってる……。だけど、もう少し……このままがいい……」


 絞り出すように言うと、メイの顔は……すっごいニヤニヤ。もう気のせいとか少しだけとかじゃなくて、純度100%のニヤニヤ!


 そういえば人格が形成されてるとか言ってたから、ニヤニヤしても何もおかしくないのか。今まで表に出さなかっただけで。


「もう少しこのまま、というのは特殊オプションになっています」


 メイはわたしを抱えて、割れた貯金箱の前に立った。

 そして、いじわるっぽい笑みを浮かべて……


「それではルミナ様。お金を入れてください」




 この後、わたしの貯金がすべてなくなったのは言うまでもない。好きなことのために貯めてたんだから、まぁいっか!

読んでいただきありがとうございますッ!

ラストのルミナちゃん、かわいいね。


こちらの作品はオープンチャットの企画で 或鬼ながらさん(ID:1541358)から

「メイド」「ショットガン」「お金を入れてください」のキーワードをいただいて書いたものになります! 深く……感謝……ッ!


気に入っていただけたら感想や評価などたくさん貰えるととっても嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
おもしろかったです(≧∇≦) type-Bの使い所もおかしかったけれど、色々出てくるものに音叉があったりするのも突飛で笑いました!
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