序章 いただきますは、祈りか呪いか
――お腹が減った。ただ、それだけだった。
六畳一間のアパート。所持金は百円と三十円。
社会に居場所を失った少女・橘 蓬は、死にかけながら、噂の“ホール”へと足を踏み入れる。
そこは、神の気まぐれで現れた異常空間。
モンスターが蔓延り、常人では生きて帰れない場所。
だが蓬には、「毒が効かない」体質と、
「喰うことでスキルと力を得る」異常が潜んでいた。
社会にも人間にも拒絶された少女が、
ただ静かに“食べて生きていく”物語。
『いただきます』──その言葉が、彼女のすべて。
“神”がゲームを始めたのは、唐突だった。
空が裂け、大地に穴が穿たれ、世界に“ホール”が生まれた。
無数のダンジョン。
異形のモンスター。
人知を超えたスキルと力。
それはまるで、現代という日常に突如落とされたファンタジーという異物。
政府は対応を迫られ、各国は競うようにギルドを設立し、“攻略者”を募った。
だがその裏で、気まぐれな神は言う。
――これは「ゲーム」だと。
――プレイヤーは選ばれし者だけではないと。
――喰うか、喰われるか。それだけだと。
そして。
ひとりの少女がいた。
名を、橘 蓬。
世界に見捨てられ、居場所を失い、空腹に喘ぐだけの日々。
でも彼女だけは、どんなときも、“それ”だけは欠かさなかった。
「……いただきます」
それが祈りだったのか、呪いだったのか――
この物語が、その答えになる。彼女のすべて。




