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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

笹門優が多すぎる!

作者: 笹門 優

 かぐつち・マナぱさまより頂いた、『笹門優』で生成したイラスト「も」使用しております。 イラストを多用しておりますので通信環境にはお気をつけ下さい。



 ひとりの男が然程広くもない部屋でモニターに向かい合っていた。


 そこは何とも奇妙な部屋であると言えよう。


 タワー型パソコンが二台、デスクトップ型が一台、ノートが一台置かれており、それぞれのモニターがあるせいでかなりの圧迫感がある。 その他にもプリンターやスピーカー、外付けハードディスクなど周辺機器も多くある為、かなりの場所を使ってしまっていた。

 だがパソコン用の部屋かと言えばそうでもない様で、一番スペースを取っているのは多くの本である。

 多種多様のコミック、ライトノベル、ムック、薄い本などが所狭しと置かれているのだ。 その様子はまるで場末の古本屋である。


 見える限りそのラインナップはかなり怪しい。


 『完全自殺マニュアル』『完全失踪マニュアル』という怪しげなタイトルの本の横に『世界残酷・猟奇殺人ファイル』が並び、すぐそばにあるのは『拷問の歴史』と『世界の奇病・伝染病』『エンサイクロペディア・クトゥルフ』などがある。


 怪しい。


 どう考えても怪しい人である。


 こんな本を取りそろえている人間とお近づきになりたい者はきっといない。



 のだが、一方で別の棚には青年・少年マンガが並んでいた。

 こちらは『無職転生』や『ゴブリンスレイヤー』『ブレイド&バスタード』に『ダーウィンズゲーム』などといった極普通のラインナップ……なのだが、何故かそこには『荒野の天使ども』や『ぶらっでぃまりー』『八雲立つ』といった少女マンガも混じっていた。 なんでだ?

 ところで『聖伝(リグ・ヴェーダ)』は少年マンガだろうか? 少女マンガだろうか?

 そこには『魔界戦記ディスガイア』や『三国無双』などのアンソロジーコミックに混じって『アンジェリーク』もある。 趣味が古くて広い。


 ラノベ棚だと『悪魔公女』や『黄金の経験値』『ディメンションウェーブ』『デスマ-チからはじまる異世界狂想曲』などが並ぶ中『ダブルクロスリプレイ』や『アリアンロッドリプレイ』『永い後日譚ネクロニカリプレイ』などTRPGのリプレイが多く見えた。


 まあ、薄い本に関しては多くを語らずにおこう。 


 そんな禄に客人も呼べなさそうな部屋にひとりいるのは趣味で小説を書く会社人・笹門優である。

 分厚い瓶底メガネと白髪の増えた髪は如何にもな年齢を感じさせる、御年五十○歳のオッサンだ。


 彼は仕事を終えた後や休日はこうやって趣味である小説に時間を費やすのである。




「さて……どうするか……」


 今連載している『夜の彼方の裏側で』はそろそろエンディングも近い。

 ある程度の骨子は出来ているが細部はそれ程決めている訳ではない。 良い方に考えれば融通が利くが、悪い方に考えれば書くのに時間が掛かり、矛盾が出る可能性もある。 もっとも、そうならない様にゲームの様な細かな『ルール』を決めた訳だが。


「ちゅーしなさい、ちゅーをさせるの」


 突然掛けられた声に彼は文字通り飛び上がった。 あぐらを掻いたまま垂直に飛ぶと声の発された方向へ蹴りを放つ。



「ぐふぉ!?」


 その足はそこにいた『女』の腹に食い込み、その身体を本棚へ押しやった。 棚から落ちた分厚い書籍『時計仕掛けの破壊神(A5サイズ512ページ)』と『西洋神名事典(A5サイズ388ページ)』がその脳天に激突する。


「ぃやぅっ!?」



 頭を押さえ踞るのはセーラー服を着た金髪の女 ――少女?―― だった。


「……………………何だお前? というか誰だ?」


 彼に声を掛けられ、少女はハンカチで口元を拭くとすっと立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


「わたしは笹門優よ」


「なんでだ!?」


 金髪に深い蒼の瞳をした彼女がなんで『笹門優』やねん! という想いを力一杯込めて彼は鋭いツッコミを入れた。 ツッコミというかただの裏拳である。


「ぷぷっ……っ」


 その一撃に彼女は鼻血を噴いて倒れた。 鼻血の描く赤い弧はまるで虹の様に美しい。


「……さっきから随分容赦がないのだけれど、気のせいかしら?」


「侵入者には容赦せん」


「容赦しなさいよ!」


「それが解らんのであれば貴様に笹門優を名乗る権利などない!」


 そこへふたりではない別の声。


挿絵(By みてみん)


 そこにはひとりの男。


「それを理解する俺こそが笹門優だ!」


 その侵入(バカ)にも気づけなかった彼は怒りに任せてその拳を振るった。 震脚と呼ばれる強い踏み込みと腰の捻りを加えた一撃はその声の持ち主である『優男』の腹に突き刺さり、その190㎝はあろうかという身体を宙へ浮かせた。


「――がはっ……!?」


 浮いた身体に対し真っ正面から構え、強烈な左右の拳撃を喰らわせる。 沈み込みそうになる男の頭を掴み、膝蹴り「ぶふお」膝蹴り「ぶあっ」膝蹴り「ぐぐっ」膝蹴り「あぐっ」膝蹴り「ふぐっ」膝蹴り「ひぐあ」膝蹴り「あぐぐ」膝蹴り「ぴぎゃ」膝蹴り「ぴゅぐ」膝蹴り「べぐぉ」膝蹴り「あぎゃう」膝蹴り「ぎゃう」かかと落とし!「ぐはっ!」。


 倒れ込む優男。

 容赦しないと言いつつ先程は手加減をしていたらしい。 笹門優の『優』は優しいの優である。


「……ば……バカな……。 俺こそが真の笹門優のはず……」


「まだ言うか」


 いい場所にあった頭をサッカーボールの様に蹴り飛ばすと、優男の姿はすーっと消えた。


「何だったんだ……?」


「何って、悩んでるみたいだからみんなで手伝いに来たのよ」


 鼻に詰め物をした少女が言う。 ちなみに左右両方なのでかなり間の抜けた顔になっていた。

 どんなに美少女でもその姿は様にならない。


「今のヤツが、か?」


「あれはただの勘違い笹門優だよ」


 そこへ聞こえたのは渋い、おじさま声だ。


挿絵(By みてみん)


 ――また侵入者か。


 そう思いながらも彼は既に握りしめていた拳を緩めた。 仕方あるまい。 ストーリー的にも語り役が必要なタイミングなのだ。

 それを理解したのか、ナイスミドルは見るだけでほっとする様な笑みを浮かべる。


「それでこそ笹門優だ」


「……さっきのヤツは?」


「そこで混ぜっ返すのは頂けないな。 そんなんでは女性にモテないぞ?」


「やかましいわ! ほれ、説明しろ」


 ナイスミドルは「仕方ないな」と呟くと、勝手に座布団を引っ張り出しそこへ座った。 勿論「どっこいしょ」と言う一声も忘れない。


「我々はパラレルワールドの『笹門優』だ」


「そう、我も異界の笹門優なのだよ」


挿絵(By みてみん)


 いつの間にか現れた黒いのを見て、すかさずツッコむ。


「てめえはクロだろうが!」


 『夜の彼方の裏側で』エピソード27で初登場し、それ以降出番のない不遇なキャラクターである。

「イイヤ、笹門優ダ!」



挿絵(By みてみん)


 そう言ったのはドレッドヘアーをした黒人さんだ。 サングラスがとても怪しい。


「そうそう」「ここに集まったのは」「「みんな笹門優なのさ」」


挿絵(By みてみん)


 ハモってるのは二体のクマのぬいぐるみだ。


 家主笹門の後ろに回り、その肩をポンポンと叩いている。 ちょっとほんわかした。 ぬいぐるみが喋って動くのはある意味ホラーだが、ほんこわではない。



「…………おい、オッサン」


「オッサンはキミだろう? それで、なんだね?」


「なんでわざわざ世界の壁を越えて来てるんだよ?」


「キミが悩んでいる事を知ったからさ」


「どうやって?」


「暇だったからね。 この事象変換器でちょちょいと」


 ナイスミドルの示す機械は一見するとスマホにしか見えない代物だが、彼が訊きたかったのは来た方法ではなく、知った理由であった。 それにしても来た理由が酷い。


「暇つぶしかよっ!?」


 ちなみにその間にも『笹門優』は増え続けている。 当然部屋には入りきらず廊下に溢れ、その様相はまるで密航する移民の如し。


「ここの展開は少し変えてもいいんじゃないかなあ?」


「告白シーンがないぞ?」


「いや、此処は我の ――いや、違った。 クロの出番を増やすべきであろうと思うのだよ」


「ココデくろヲ出シタラ死亡ふらぐニナラナイカ?」


「ええい! このシーンはわたしがかきなおしてやろう! ありがたくおもえ! わたしよ!」


「新しい付喪神を出そうよ」「そうそう、クマのぬいぐるみがいいよ」


「キミたち、欲望がダダ漏れよ……」


「もう15章くらい話を増やそうよ」「うんうん、ボク達が世界を変えるのさ」


 PCの前に陣取る一団は好き勝手を抜かし。


「少し小腹が空いたかな?」


「ではありモノで適当に作ろう」


「甘いモノがいいなあ。 パンケーキとか作れない?」


「お、この時期にアイスクリームが入ってる」


「それ、も~らい」


「それは冷凍した切り身でゴザル」


 キッチンに溢れた者達は冷蔵庫周辺を物色し。


「儂は寝る」


「ほほお、メガドライブミニがあるな。 Let’s play!」


「ほわあっ!? 『思春期ちゃんのしつけかた』が完結してる!? 時間軸が違うからか!?」


 そして……


 ――バツンッ


「あっ……ブレーカーが落ちた?」


 キッチン組がオーブンと電子レンジを、リビング組がエアコンを、別部屋組が複数の暖房器具を同時に動かしたらしい。

 家主笹門の使っていたPCはタワー型である。 非常電源もなく、保存していないデータの復旧は不可能だ。


「キサマら……!!」


 PCの前に陣取る自称『笹門優』はその事態に気づいたが、他の者達はわいのわいのしており、自分達の事で手一杯である。

 手伝いに来たんじゃないのか、お前ら……(-_-;)


 ――スラッ


 目の据わった家主笹門が何処からともなく取り出したのは『鉄刀』と呼ばれる重量のある鍛錬用の刀だ。 刃のないただの鉄の棒みたいなモノではあるが……。


 ――バキッ!


 その鉄の塊は笹門優を名乗るクロの頭を打ち抜き、そのままクマのぬいぐるみを二体とも四散させた。 彼等はそのまま『優男』笹門の様にすーっと消えてしまう。


「……地獄へ……堕ちろ……!!」



 それが殺戮の宴……その第一声。

 家主笹門はそこへ屍山血河を築かんと、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した我が家で鉄刀を振るいだしたのだ。


 ――ヒュン メキッ!


「ぐあっ!?」


 ――ブオン ビキッ!


「がっ!? や、やめ……!」 


 ――ガツン!


「ぴぎゃっ」


 ――ギンッ!

 金属音と共に止められる剣閃。 そこにいるのは金属の腕を持った男だ。


「てめえはサイボーグ笹門優とか言うのか!? コンチクショーが!」


 ――ギンッ! ギンッ! ガツン! ガツン! ビキッ! ギンッ! ギンッ! ガツン! ガツン! ガツン! ビキッ! バキッ!


 力任せの攻撃を何度も重ね、歪んだフレームへ渾身の一撃を食らわせる。


 ドオオオォォォォ………………ン


 爆発の後、頭だけ残ったそいつは「あ、アンドロイドだ……」と言い残し消えた。


 獲物はまだ残っている…………



艸 艸 艸 艸 艸



 最後に残っていたのはずっと座布団に座っていたナイスミドル笹門と最初に蹴っ飛ばしたJK笹門だった。 JKは押し入れに顔を突っ込み尻だけ出して震えている。


 他の『笹門優』は皆倒れ、そのまま消えたのだ。

 家主笹門は歪んだ鉄刀を手に、肩で息をしている。 一体何人の『笹門優』を叩き伏せたのか、そんな事は判らない。 彼が理解しているのは先日保存してから先程までの間に書き上げた、原稿用紙にして10ページ程の内容が霧散したという事実だけであった。



「手伝いに来たと言いながらまさか邪魔をするとはなぁ……!」


 その姿は地獄からの使者の様に、歪んだ鉄刀はまるで死神の鎌。


「いや、待て。 誤解だ。 話し合おう。 我々は話し合える存在だろう!?」


 ナイスミドル、先程までの余裕は何処へ行ったのか、狼狽える姿にそんな面影はない。 それも当然か。 何故なら彼も笹門優なのだから。

 落ち着き余裕綽々の姿など、それは本来の笹門優では有り得ない。 笹門優とはひたすら狼狽え、何かと翻弄され、辛うじて社会の片隅で生きていく様な存在なのだ。


 ――ブォン!


 重く空気を裂く音と打撃音が重なる。

 ナイスミドルが消え、家主笹門が押し入れに向き直ると、そこにJK笹門の姿(おしり)はなかった。



 ――この事象変換器でちょちょいと


 そう言っていたのはナイスミドル笹門だ。

 どういう作用かは解らないが彼がいなくなった事で変えられた事象が元に戻ったのだろう。


 彼はパッと周囲を見渡した。



 部屋中、というか家中荒れたまま、タワー型パソコンの電源は ――というかブレーカーは落ちたままであり、全てがなかった事にはならなかったらしい。



「………………結局書き直しか……」


 嘆いても何も変わらないのだ。

 パソコンの前に座ろうとした彼は下ろし掛けた腰を上げる。



 その前に後片付けだ。




 ちょっとオチが弱いなあ……。

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― 新着の感想 ―
いやはや、結構な御趣味でいらっしゃいますなぁ♪   『永い後日譚ネクロニカリプレイ』  d( ̄ー ̄)
ぶっはあwww めちゃくちゃ面白かったです! まずタイトルが「負けヒ◯イン」みたいで面白くて、最初の方からカオスで……笑 趣味でいっぱいの部屋、いいですね!
どの笹門優さまもタイプは違えど皆美形…… つまりどの世界線でも笹門優さまは美しいってコト!?
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