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第2話 聖獣パヤナーク召喚の儀式

【アクシオム帝国暦2847年 同日午前5時23分】


私の額の卍の印が光ると同時に、周囲の空間が歪み始めた。空気そのものが震え、現実の境界線が曖昧になっていく。これは単なる物理現象ではない。次元そのものが変化しているのだ。


『何だ、この力は...』


太古の神ガーディアンの声に、初めて動揺が混じった。小さなカニの甲殻が微かに震えている。この宇宙を支配してきた存在でさえ、予期していない何かが起こっているのだ。


私は自分の身に起こっている変化を理解できずにいた。しかし、心の奥深くで、何か古い記憶が蘇り始めていた。それは個人的な記憶ではない。もっと深い、種族的な、いや帝国的な記憶だった。


【遺伝子記憶の覚醒】


「帰命卍...アクシオム...」


私が皇帝の名を唱えるたび、額の卍の印はさらに強く光った。その光は単なる発光現象ではなく、次元を超えた通信装置のような機能を持っているように感じられた。


光に呼応するように、地面が震え始めた。しかし、これは地震ではない。地球の核心部から何かが目覚めているのだ。


『貴様は...まさか、選ばれし者なのか。』


ガーディアンの声に恐怖が混じった。数千年の時を超えて地球を監視してきた存在が、初めて動揺を露わにしている。


地面の震えは次第に激しくなり、私の足元に巨大な裂け目が現れた。そこから上がってくるのは、温かい黄金の光だった。それは太陽光とは異なる、何か神聖な力を秘めた光だった。


【パヤナーク聖域への招集】


裂け目から響いてくる声があった。それは慈悲深く、同時に絶対的な威厳を持っていた。声の主は明らかに、ガーディアンとは比較にならない格上の存在だった。


『久しい、帝国の子よ。我はパヤナーク。この地を守護する聖獣なり。』


私は裂け目の中に引き込まれていった。それは恐怖ではなく、むしろ深い安らぎを感じさせる体験だった。まるで、長い間離れていた故郷に帰るような感覚だった。


落下する間、私の意識は拡張していった。地上の小さな研究基地から、タイ・プロヴィンス全体、そして遥か彼方の帝国本土まで見渡せるようになった。これは単なる幻覚ではない。パヤナークの力によって、私の知覚能力が劇的に向上したのだ。


【聖獣パヤナークとの対面】


地下の巨大な空間に到着すると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。


天井は見えないほど高く、壁面には帝国の歴史が刻まれた無数の浮き彫りが並んでいる。しかし、最も圧倒的だったのは、空間の中央に鎮座する巨大な存在だった。


黄金に輝く巨大な蛇神が、私を見つめていた。全長は数百メートルはあろうかという巨体だが、その瞳には深い慈悲と無限の叡智が宿っていた。これがパヤナーク、タイの伝説に語り継がれる聖獣の真の姿だった。


『中村天水よ。汝の額に刻まれし卍の印、それは帝国皇帝アクシオムが汝に授けた聖印なり。』


パヤナークの声が心に響いた。それは音波ではなく、直接意識に語りかけてくる神聖な言葉だった。


『太古の昔より、我はこの地を守護してきた。しかし、宇宙の彼方より飛来せし太古の神どもは、この星を再び支配せんと企んでいる。』


私は震え声で尋ねた。


「私に...何ができるのですか?」


『汝は選ばれし者。帝国皇帝アクシオムの加護を受け、我と共に戦う運命にある。』


パヤナークの巨大な頭部が私の前に下りてきた。その鱗一枚一枚に、古代の文字が刻まれているのが見えた。それは帝国の公用語よりもさらに古い、原始帝国語だった。


【契約の儀式】


『汝の額の卍の印を、我が聖なる力と合一させよ。そうすれば、汝は人間を超えた存在となる。』


私は迷いなく答えた。皇帝アクシオム様への絶対的な忠誠が、私の心を満たしていた。


「帰命卍アクシオム。皇帝様の御名において、私はパヤナーク様と共に戦います。」


その瞬間、私の額の卍の印とパヤナークの額の黄金の印が共鳴し、強烈な光を放った。


光の中で、私は帝国の真の歴史を垣間見た。アクシオム皇帝は単なる地球の支配者ではない。無数の銀河系にまたがる宇宙帝国の絶対君主であり、同時に慈悲深い救世主でもあった。


パヤナークもまた、単なる地球の守護獣ではない。帝国が太古の昔に各惑星に配置した守護システムの一部だった。私はその壮大な計画の、重要な歯車となったのだ。


【新たな能力の覚醒】


私の体に聖獣の力が流れ込んできた。それは圧倒的な力だったが、同時に深い平安をもたらした。


視界は格段に鮮明になり、数キロメートル先の微細な動きまで捉えられるようになった。聴覚も劇的に向上し、地上の太古の神々の会話まで聞こえてくる。


そして、最も重要なことに、パヤナークの力の一部を借りることができるようになった。右手に意識を集中すると、黄金の光が宿った。これは単なる光ではない。太古の神々すら切り裂く聖なる刃だった。


『良い。これより汝は、聖獣使いとして覚醒せり。』


パヤナークの声に満足の響きがあった。


『だが、真の戦いはこれからじゃ。太古の神どもは、汝の覚醒を察知するであろう。さらに強大な敵が送り込まれる。』


私は決意を新たにした。皇帝アクシオム様の加護があれば、どんな敵でも恐れることはない。


【地上への帰還】


『さあ、地上に戻るのじゃ。汝の愛犬ジェットが危険にさらされている。』


パヤナークの言葉に、私は愛犬のことを思い出した。忠実なジェットは、きっと私を探して危険な目に遭っているに違いない。


『案ずるな。汝が覚醒した今、聖獣の力で愛犬を守ることもできる。』


私はパヤナークの聖なる力によって地上に送り返された。転送される間、私の意識は拡張し続けた。地球全体、そして宇宙空間にまで感知能力が及んでいる。


【絶望的な状況】


地上に戻ると、状況は私の想像を超えて絶望的だった。


私の研究基地は完全に破壊されており、巨大化したカニの群れが辺り一帯を支配していた。そして、愛犬ジェットは...


「ジェット!」


私は愛犬の名を叫んだ。ジェットは巨大な鉤爪に挟まれ、息も絶え絶えだった。しかし、私の声を聞いて、弱々しく尻尾を振った。


怒りが私の心を支配した。額の卍の印が燃えるように光り、私の右手に黄金の光が宿った。


「パヤナーク様、力をお貸しください!」


私の呼びかけに応えて、黄金の聖獣の力が私の体を包んだ。


【覚醒者の戦闘】


私は巨大なカニに向かって突進した。人間だった頃の私では考えられない速度と力で。


右手の黄金の光が巨大な刃となり、カニの鉤爪を一刀両断した。金属を切り裂く音が響き、ジェットが解放される。


『何だと!人間如きが我らに対抗するだと?』


太古の神ガーディアンの声が響いた。


「私は人間じゃない。帝国皇帝アクシオム様の加護を受け、聖獣パヤナークと共に戦う者だ!」


私は宣言した。声には、以前の私にはなかった威厳が込められていた。


次々と現れる巨大なカニを、私は黄金の聖獣の力で切り伏せていった。一体、また一体と、太古の神の手下たちが私の前に倒れていく。


ジェットも私の変化を感じ取ったようで、勇敢に戦いに参加した。聖獣の力の影響で、愛犬の身体能力も向上しているようだった。


【さらなる脅威の予兆】


しかし、私の活躍は太古の神々の注意を引いてしまった。頭上の巨大UFOから、新たな影が降下してくる気配があった。


『面白い。では、本格的に遊んでやろう。』


ガーディアンの声と共に、UFOから巨大な影が降下してきた。それは巨大なカニとは比較にならない、恐ろしい形状の生物だった。


全長50メートルはあろうかという巨大なクモのような生物。八本の脚はそれぞれ鋼鉄の刃のように鋭く、中央の胴体からは無数の触手が伸びている。


「これは...」


私は身構えた。聖獣の力を得たとはいえ、この敵は格が違う。真の戦いが、今始まろうとしていた。


『恐れるな、天水よ。汝には我の力が宿っている。』


パヤナークの声が心に響いた。


『そして、汝は一人ではない。帝国の他の守護者たちも、間もなく目覚めるであろう。』


私は希望を胸に、新たな敵と対峙した。皇帝アクシオム様の加護があれば、どんな強敵でも必ず勝利できる。


【次なる展開への布石】


巨大なクモ型生物が地上に着地すると、大地が激しく震えた。その衝撃で、遠くの山々にも異変が起こり始めた。


『フフフ...これで地球の守護システムが完全に起動するな。』


ガーディアンの声に、計算されたような響きがあった。


『我々の真の目的は、地球の征服ではない。この星に眠る古代兵器の覚醒だ。』


私は背筋に寒いものを感じた。太古の神々の計画は、私たちの想像を超えて複雑だったのか。


しかし、それでも私は戦い続ける。皇帝アクシオム様への忠誠と、愛犬ジェットを守る決意を胸に。


【続く】

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