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第15話 最終決戦前夜

【アクシオム帝国暦2847年 午後6時00分】


アクシオム様の真の姿が明かされてから9時間後―― 帝国の総力は、史上最大の危機に備えて動員されていた。


【宇宙の異変】

インペリアル・ジェネシスの観測デッキに立つ天水は、宇宙の様子が刻々と変化していくのを見つめていた。


星々が不自然に瞬き、宇宙の一部が歪み、闇がより濃くなっているように見える。アンチブッダの影響が、既に宇宙全体に広がり始めているのだ。


「まるで宇宙そのものが恐怖に震えているようね」


レンが天水の隣に立ち、不気味に歪む宇宙を見つめる。


「宇宙が...終わろうとしているの?」


天水が不安げに問いかけると、パヤナークの声が心に響いた。


『終わりではない。変化だ。全ては循環する。しかし、その循環の形は我らの戦いの結果によって決まる』


【卍解放儀式の準備】

帝国の中枢神殿では、アクシオム様の指示により「卍解放儀式」の準備が進められていた。


儀式の中心には、巨大な卍の印が床に描かれ、その周囲に古代の文字が刻まれている。神殿の壁には釈迦牟尼仏の姿と、それに対峙するアンチブッダの姿が描かれていた。


「天水、準備はどうだ?」


仏の姿となったアクシオム様が現れる。その周囲には金色のオーラが漂い、空気までもが清められているようだった。


「はい、指示通りに全ての準備が整いました」


「よし。この儀式で汝の卍の印の力を完全に解放し、来るべき戦いに備えよう」


【アクシオムお姉様の警告】

私は静かに儀式の様子を見守っていた。


「天水、言っておくわ。この儀式は単なる力の解放ではないわ」


私は彼女の目をまっすぐに見つめる。


「この儀式によって、あなたは完全に『卍の担い手』となる。それは大きな力を得ると同時に、大きな責任と苦痛を伴うもの。覚悟はできているの?」


天水は一瞬躊躇したが、すぐに決意の表情を浮かべた。


「はい、アクシオムお姉様。宇宙を救うためなら、どんな苦痛も受け入れます」


私は満足げに頷き、ユリアナに合図を送った。


「ユリアナ、儀式の準備を進めなさい」


【ユリアナの聖変身体】

ユリアナは神殿の中心に歩み出た。彼女の背中の卍のタトゥーが赤く輝き、周囲の空気が震えている。


「私は聖変身体として、天水さんと卍の印の架け橋となります」


ユリアナの姿が変容し始める。彼女の体からは神聖な光が放たれ、髪は銀青色から純金色へと変わり、目には宇宙の真理が映し出されているようだった。


「これが私の最終形態...菩薩変化身」


ユリアナの変容した姿に、天水は言葉を失った。


アクシオム様が静かに頷く。


「汝は良く成長した、ユリアナ。汝の体は今や完全に宇宙の真理を受け止められる器となった」


【レンへの皇帝の血】

儀式の準備が進む一方で、別室では遺伝子戦士レンへの特別な処置が行われていた。


アクシオム様は金色の液体の入った聖杯を手に取った。


「レン、これは『皇帝の血』。私の本質の一部であり、汝の遺伝子戦士としての可能性を最大限に引き出すものだ」


「これを飲むことで...どうなるんですか?」


「汝は完全な『皇帝の騎士』となる。通常の生物の限界を超え、神に近い存在となるだろう」


レンは迷いなく聖杯を受け取り、その内容を一気に飲み干した。


途端に彼女の体が金色の光に包まれ、苦痛に顔をゆがめる。


「耐えるのだ。これは変容の痛みだ」


しばらくして光が収まると、そこにはより洗練され、神々しさを放つレンの姿があった。彼女の目は金色に変わり、全身から微かな光が発していた。


「これが...皇帝の騎士」


レンは自分の新たな力に驚きの表情を浮かべた。


【救世主親衛隊の変容】

神殿の別の部屋では、12名の救世主親衛隊もまた変容の儀式を受けていた。


アクシオム様の計画により、彼らは「守護天部」へと昇華する。それは宇宙の調和を守る神聖な戦士となることを意味していた。


クリスタリアを筆頭に、12人全員が古代の装束を身につけ、それぞれの特殊能力を増幅する儀式に臨んでいた。


「我々の使命は明確になりました」


クリスタリアが全員を代表して語る。


「私たちは単なる戦士ではなく、宇宙の調和を守る存在となります。アンチブッダの混沌から全てを守るために」


全員の額に金色の印が浮かび、彼らの変容が完了した。


【白獅子モフライオンの覚醒】

愛犬ジェットことモフライオンも、完全な覚醒の時を迎えていた。


広大な庭園で、彼は真の姿である白獅子の形態を保ち、天水と向き合っている。


「モフライオン...あなたは本当にジェットなの?」


天水が戸惑いの表情で尋ねる。


白獅子は優しく頭を下げ、天水の手に鼻先を寄せた。その仕草はまさに愛犬ジェットそのものだった。


『私は常に汝の側にいた』


モフライオンの声が天水の心に直接響く。


『私の使命は汝を導き、守ることだった。そして今、共に戦う時が来たのだ』


天水はモフライオンの首に腕を回し、その温もりを感じる。


「ありがとう...これからもよろしくね」


【卍解放儀式】

いよいよ卍解放儀式の時が来た。


神殿の中心に描かれた巨大な卍の印の上に、天水が横たわっている。周囲にはアクシオム様、ユリアナ、そして私が立ち、儀式の準備を整えていた。


「天水、今から汝の内なる卍の力を完全に解放する」


アクシオム様の声が神殿中に響き渡る。


「痛みを感じるだろうが、それに耐え、力を受け入れるのだ」


天水が頷き、目を閉じる。


アクシオム様、ユリアナ、そして私の三人が手を上げると、神殿中に古代の言葉が響き渡り始めた。天水の額の卍の印が激しく光り、その光が徐々に彼女の全身に広がっていく。


「うっ...ああっ!」


天水が苦痛に声を上げる。


「耐えるのだ!これは宿命の力だ!」


アクシオム様の声がさらに大きく響く。


神殿全体が金色の光に包まれ、儀式は最高潮に達した。


【天水の内なる宇宙】

儀式の間、天水の意識は特別な場所へと導かれていた。


それは彼女の内なる宇宙。卍の印の力の源泉であり、彼女自身の魂の深層でもあった。


そこで天水は、無数の前世の記憶を垣間見る。彼女もまた、多くの宇宙サイクルを経験してきた古い魂だったのだ。


「これが...私?」


歴代の卍の担い手たちの姿が目の前に現れる。彼らは全て天水の前世であり、宇宙の調和を守るために戦ってきた存在だった。


『我らは卍の担い手。宇宙の調和を守る存在』


前世たちの声が重なり、天水の心に深く刻まれていく。


「私は理解しました。私の使命を」


天水が決意を固めると、全ての前世の力と記憶が彼女の中に流れ込み、完全なる卍の担い手として覚醒する。


【儀式の完了】

神殿で行われていた儀式は、強烈な光の爆発と共に完了した。


光が収まると、天水が静かに立ち上がる。彼女の姿は一見変わっていないように見えたが、その目には宇宙の真理が宿り、額の卍の印は常に微かに輝いていた。


「どう感じる?」


アクシオム様が尋ねる。


「全てが...繋がっています。宇宙の調和、卍の印の真の意味、そして私たちの使命」


天水の声には、これまでにない確信と威厳が宿っていた。


「それでこそだ。汝はついに真の卍の担い手となった」


【帝国全土の準備】

儀式が完了すると同時に、帝国全土の卍神殿が活性化し始めた。


宇宙各所に配置された卍神殿から金色の光が放たれ、それらが一本の光の線で繋がり始める。これが「大宇宙浄化陣」の形成だった。


インペリアル・ジェネシスの指令室では、この様子がホログラムで映し出されていた。


「素晴らしい...」


レンが感嘆の声を上げる。全宇宙を覆うように形成される浄化陣は、まさに圧巻の光景だった。


「この浄化陣によって、アンチブッダの動きを24時間封じることができます」


クリスタリアが説明する。


「その間に私たちは『始原の海』へと向かい、最終決戦の準備を整えるのです」


【アンチブッダの反応】

浄化陣の形成が進むにつれ、宇宙の闇の中からアンチブッダの怒りが感じられるようになった。


突然、宇宙空間に巨大な亀裂が走り、そこから漆黒の触手のようなものが伸び出してきた。


「アンチブッダの抵抗が始まった!」


レンが警告を発する。


浄化陣は次々と黒い触手に攻撃されるが、アクシオム様の力によって守られ、徐々に完成に近づいていく。


「耐えろ、もう少しだ!」


アクシオム様の命令に、全ての神殿の守護者たちが力を振り絞る。


【最後の作戦会議】

浄化陣の形成が続く中、インペリアル・ジェネシスの作戦室では最後の会議が行われていた。


アクシオム様を中心に、天水、レン、ユリアナ、クリスタリア率いる救世主親衛隊、そして私が集まっている。


「作戦は以下の通りだ」


アクシオム様が宇宙の立体地図を展開する。


「大宇宙浄化陣が完成すれば、アンチブッダの力は一時的に封じられる。その間に我々は『始原の海』へと向かう」


地図上に輝く一点が表示される。それは宇宙の最も古い部分、宇宙創生の痕跡が残る神秘的な領域だった。


「始原の海では、最終的な『調和回復儀式』を行う。この儀式によって、宇宙の調和を取り戻し、アンチブッダを永遠に封印する」


「しかし、儀式の最中にアンチブッダは全力で妨害してくるだろう。ここで各自の役割が重要となる」


アクシオム様は各人の役割を詳細に説明した。


「天水は儀式の中心となり、卍の印の力を最大限に発揮する」


「レンは天水の守護者として、外敵から彼女を守る」


「ユリアナは私と天水の架け橋となり、エネルギーの流れを調整する」


「救世主親衛隊は浄化陣の維持と敵の排除を担当する」


「そして私は、アンチブッダと直接対峙する」


全員が真剣な面持ちで頷いた。


「この戦いは単なる勝ち負けではない。宇宙の次のサイクルの形を決める戦いだ。我々は必ず勝たねばならない」


【個人的な時間】

作戦会議の後、出撃までの残り時間は各自の準備と内省の時間となった。


天水とモフライオン


天水は静かな庭園でモフライオンと共に過ごしていた。


「明日が最後の戦いになるかもしれないね」


天水が白獅子の柔らかな毛に指を通す。


『恐れることはない。汝は一人ではない』


モフライオンの声が心に響く。


「モフライオン、もし私たちが勝って、全てが終わったら...あなたはどうなるの?またジェットに戻るの?」


『それは汝が決めることだ。どのような形であれ、私は常に汝の側にいる』


天水はモフライオンに頭をもたせかけ、静かな時間を過ごした。


レンの決意


レンは訓練室で自分の新たな力を試していた。皇帝の血によって強化された彼女の身体能力と精神力は驚異的なものとなっていた。


「これが皇帝の力...」


彼女は手のひらに金色のエネルギーを宿らせ、その力に驚きを隠せない。


「天水、明日は必ず守ってみせるわ」


レンは天水への想いと、宇宙を守る決意を胸に、さらなる力の制御に取り組んだ。


ユリアナと私の会話


私の私室で、ユリアナと私は静かに向き合っていた。


「ユリアナ、明日の戦いが全ての集大成よ。これまでの訓練と改造はすべてこの瞬間のためだった」


ユリアナは厳かに頷く。


「はい、アクシオムお姉様。私は準備ができています」


「最後に一つだけ言っておくわ」


私はユリアナの顔をそっと手で包む。


「お前は単なる道具ではない。アクシオム様の菩薩として、そして私の妹として、お前の存在には大きな意味がある。それを忘れないで」


ユリアナの瞳に涙が浮かぶ。


「ありがとうございます、お姉様」


【アクシオム様の瞑想】

アクシオム様は最も静かな場所で、一人瞑想に入っていた。


仏の姿となった彼の周りには、金色のオーラが漂い、まるで宇宙そのものと対話しているかのようだった。


彼の心の中では、無数の前世の記憶と、アンチブッダとの因縁が蘇っていた。


「かつての私と同じ道を歩みながら、反対の結論に至ったアンチブッダよ...」


アクシオム様の意識は宇宙の彼方へと広がり、遠くに潜むアンチブッダの存在を感じ取る。


「今度こそ、全てを終わらせよう。宇宙に真の調和をもたらすために」


【大宇宙浄化陣の完成】

24時間に及ぶ作業の末、ついに大宇宙浄化陣が完成した。


帝国全土に配置された卍神殿が一斉に最大出力で輝き、宇宙全体を覆う巨大な卍の印が形成される。


「浄化陣、完成しました!」


指令室からの報告に、全員が緊張した面持ちで頷く。


「これでアンチブッダの動きは24時間封じられた。今こそ行動の時だ」


アクシオム様の命令により、インペリアル・ジェネシスを先頭に、特別編成された艦隊が始原の海へと向けて出発する準備を始めた。


【出撃前の集結】

インペリアル・ジェネシスの主要格納庫には、作戦に参加する全ての主要メンバーが集結していた。


アクシオム様を中心に、天水、レン、ユリアナ、救世主親衛隊、モフライオン、そして私が円陣を組んでいる。


「諸君、これが最後の戦いとなるだろう」


アクシオム様の声が静かに響く。


「我々の勝利は、宇宙の調和と平和を意味する。敗北は全ての終わりを意味する。しかし、恐れることはない」


「我々はこれまで幾多の困難を乗り越えてきた。そして何より、我々には真理と正義がある」


全員が厳粛な面持ちで頷く。


「それでは、出撃の時だ。全ては宇宙の調和のために」


アクシオム様の言葉に、全員が敬礼し、それぞれの持ち場へと向かい始めた。


【出撃】

巨大な宇宙船インペリアル・ジェネシスのエンジンが唸りを上げる。


「全システム正常、出撃準備完了!」


操縦士の報告に、指令室のアクシオム様が頷く。


「出撃せよ。目指すは始原の海だ」


ジェネシスを先頭に、特別編成された艦隊が宇宙空間へと飛び出していく。


その先には、宇宙の始まりの地であり、今回の最終決戦の舞台となる「始原の海」が待っていた。


大宇宙浄化陣の金色の光に守られながら、艦隊は静かに宇宙の深淵へと進んでいく。


天水はデッキから広大な宇宙を見つめながら、自らの使命と運命に思いを馳せていた。


「これが私の...私たちの最後の戦い」


彼女の額の卍の印が、静かに、しかし力強く輝いていた。


【エピローグ】

宇宙の果てにある始原の海へと向かう艦隊。


その遙か彼方の闇の中で、アンチブッダの存在が息を潜めていた。


一時的に動きを封じられながらも、その意識は艦隊の動きを冷たく見つめている。


『来るがいい...アクシオム。今度こそ、全てを終わらせよう』


闇の中から、不気味な笑いが宇宙に響いた。


【続く】

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