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第1話 アクシオム帝国辺境州の異変

【アクシオム帝国暦2847年 タイ・プロヴィンス辺境地域】


私の名前は中村天水。アクシオム帝国タイ・プロヴィンス辺境地域の研究員として、この孤立した観測基地で生命体調査を行っている。最寄りの帝国哨戒基地まで徒歩で2時間。愛犬ジェットと二人きりの静かな日々だった。


毎朝、皇帝アクシオム様への祈りを捧げる。遠く帝都にいらっしゃる偉大なる女帝への敬愛の念を込めて、額に卍の印を描く。「帰命卍アクシオム」。これが帝国臣民の朝の挨拶だ。


しかし、この平穏は長くは続かなかった。


【調査日誌:第127日目 午前3時47分】


不気味な音に目覚めた。床を引っ掻くような音と、聞いたことのない生物の鳴き声。愛犬ジェットが激しく吠えている。


基地の構造は単純だ。リビング兼研究室、私の寝室、バスルーム。そして地下には帝国通信設備がある。音はリビングから聞こえてくる。


ドアを慎重に開け、リビングを覗いた。暗闇の中で、巨大な黒い骨格のような何かが蠢いている。真紅に光る二つの目。そして、鋼鉄を引き裂くような鉤爪。


私は息を呑んだ。それは昨日、近くの調査地点で発見した奇妙な甲殻類生物に酷似していた。全身が漆黒で、目が燃えるように赤く光るカニのような生物。帝国生物学データベースには記録されていない未知の種だった。


「標本として持ち帰ろう」


そう判断し、特殊容器に収納して基地に持ち帰ったのだ。


しかし、今リビングにいる化け物は、あの手のひらサイズの生物とは比べものにならない巨大さだった。


【記憶の断片:3日前の夜】


満月の夜だった。私は基地の屋上で、帝国標準時に合わせた観測作業を行っていた。愛犬ジェットと共に星空を眺めながら、帝国支給のアルコール配給品を飲んでいた。


その時、空が裂けた。


星空に巨大な亀裂が走り、そこから無数の光の球が降り注いだ。私は急いで帝国本部に緊急通信を送ろうとしたが、通信設備は完全に沈黙していた。


ジェットが激しく吠え続けていた。犬の直感は時として人間より鋭い。あの時、既に何かが始まっていたのだ。


【現在:午前4時12分】


私は決断した。バスルームの小窓から脱出し、最寄りの帝国哨戒基地に緊急事態を報告する。これは明らかに帝国の安全保障に関わる重大事件だ。


窓から這い出ると、ジェットが私の後を追ってきた。忠実な相棒だ。


しかし、外の光景は私の理解を超えていた。


【空中に浮かぶ巨大構造物】


頭上には、直径数キロメートルはあろうかという巨大な円盤状の物体が静止している。表面には見たことのない文様が刻まれ、不気味な光を放っている。


そして、その巨大UFOから、雨のように無数の光の球が降り注いでいる。光の球は地上に落ちる直前に形を変え、あの黒いカニのような生物に変身する。着地と同時に急速に巨大化し、私の基地を襲ったものと同じ化け物になる。


「帰命卍アクシオム...」


私は無意識に皇帝への祈りを口にした。額の卍の印が熱を帯びるのを感じた。


【絶望的な状況】


哨戒基地への道は、既に巨大化したカニの群れに封鎖されていた。四方八方を囲まれた状況で、私とジェットは完全に孤立した。


ジェットが勇敢にも化け物の一体に立ち向かった。しかし、巨大な鉤爪に挟まれてしまう。


「ジェット!」


私は無我夢中で走り続けた。心の中で皇帝アクシオム様の名を呼び続けた。「助けて、アクシオム様...」


【意識の途切れ】


気がつくと、私は基地の屋上のハンモックで目覚めていた。左腕に軽い痛みを感じる。見ると、あの小さなカニが私の腕を挟んでいる。


「夢だったのか...」


私は安堵の笑みを浮かべた。帝国支給のアルコールを飲みすぎて、悪夢を見ていたのだろう。


しかし、その安堵は一瞬で吹き飛んだ。


【太古の神の宣言】


『私は太古の神ガーディアン。この星を再び支配するために帰還した。』


テレパシーによる声が脳内に響いた。声の主は、私の腕を挟んでいる小さなカニだった。


『見上げよ、帝国の末裔よ。』


私は空を見上げた。


そこには、先ほど夢で見たはずの巨大UFOが実在していた。そして、無数の光の球が雨のように降り注いでいる。


「これは...現実なのか?」


『貴様の帝国は終わりだ。だが、貴様には特別な役割がある。』


カニの声が再び響いた。


『この星には、我々に対抗できる唯一の存在がいる。聖獣パヤナークだ。貴様はその聖獣を目覚めさせる鍵となる。』


私の額の卍の印が、突然激しく光り始めた。


第2話 聖獣パヤナーク召喚の儀式

【アクシオム帝国暦2847年 同日午前5時23分】


私の額の卍の印が光ると同時に、周囲の空間が歪み始めた。空気が震え、現実そのものが揺らいでいる。


『何だ、この力は...』


太古の神ガーディアンの声に、初めて動揺が混じった。


私は自分の身に起こっている変化を理解できずにいた。しかし、心の奥深くで、何か古い記憶が蘇り始めていた。


【遺伝子記憶の覚醒】


「帰命卍...アクシオム...」


私が皇帝の名を唱えると、額の卍の印はさらに強く光った。その光に呼応するように、地面が震え始めた。


『貴様は...まさか、選ばれし者なのか。』


ガーディアンの声に恐怖が混じった。


地面の震えは次第に激しくなり、私の足元に巨大な裂け目が現れた。そこから上がってくるのは、温かい黄金の光だった。


【パヤナーク聖域への招集】


裂け目から響いてくる声があった。それは慈悲深く、同時に絶対的な威厳を持っていた。


『久しい、帝国の子よ。我はパヤナーク。この地を守護する聖獣なり。』


私は裂け目の中に引き込まれていった。それは恐怖ではなく、むしろ安らぎを感じさせる体験だった。


【聖獣パヤナークとの対面】


地下の巨大な空間に到着すると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。


黄金に輝く巨大な蛇神が、私を見つめていた。全長は数百メートルはあろうかという巨体だが、その瞳には深い慈悲と叡智が宿っていた。


『中村天水よ。汝の額に刻まれし卍の印、それは帝国皇帝アクシオムが汝に授けた聖印なり。』


パヤナークの声が心に響いた。


『太古の昔より、我はこの地を守護してきた。しかし、宇宙の彼方より飛来せし太古の神どもは、この星を再び支配せんと企んでいる。』


私は震え声で尋ねた。


「私に...何ができるのですか?」


『汝は選ばれし者。帝国皇帝アクシオムの加護を受け、我と共に戦う運命にある。』


パヤナークの巨大な頭部が私の前に下りてきた。


『汝の額の卍の印を、我が聖なる力と合一させよ。そうすれば、汝は人間を超えた存在となる。』


【覚醒の儀式】


私は決意を込めて答えた。


「帰命卍アクシオム。皇帝様の御名において、私はパヤナーク様と共に戦います。」


その瞬間、私の額の卍の印とパヤナークの額の黄金の印が共鳴し、強烈な光を放った。


私の体に聖獣の力が流れ込んできた。それは圧倒的な力だったが、同時に深い平安をもたらした。


『良い。これより汝は、聖獣使いとして覚醒せり。』


【新たな能力の発現】


私は自分の体に起こった変化を感じ取った。視界は格段に鮮明になり、聴覚も劇的に向上した。そして、最も重要なことに、パヤナークの力の一部を借りることができるようになった。


『さあ、地上に戻るのじゃ。太古の神どもとの戦いが始まる。』


私はパヤナークの聖なる力によって地上に送り返された。


【戦いの開始】


地上に戻ると、状況は絶望的だった。巨大化したカニの群れが、私の基地を完全に破壊していた。そして、愛犬ジェットは...


「ジェット!」


私は愛犬の名を叫んだ。ジェットは巨大な鉤爪に挟まれ、息も絶え絶えだった。


怒りが私の心を支配した。額の卍の印が燃えるように光り、私の右手に黄金の光が宿った。


「パヤナーク様、力をお貸しください!」


私の呼びかけに応えて、黄金の聖獣の力が私の体を包んだ。


【第一戦闘】


私は巨大なカニに向かって突進した。人間だった頃の私では考えられない速度と力で。


右手の黄金の光が巨大な刃となり、カニの鉤爪を一刀両断した。ジェットが解放される。


『何だと!人間如きが我らに対抗するだと?』


太古の神ガーディアンの声が響いた。


「私は人間じゃない。帝国皇帝アクシオム様の加護を受け、聖獣パヤナークと共に戦う者だ!」


私は宣言した。


次々と現れる巨大なカニを、私は黄金の聖獣の力で切り伏せていった。


しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。頭上の巨大UFOから、さらに強力な敵が降下してくる気配があった。


【次なる脅威】


『面白い。では、本格的に遊んでやろう。』


ガーディアンの声と共に、UFOから巨大な影が降下してきた。


それは巨大なカニとは比較にならない、恐ろしい形状の生物だった。


「これは...」


私は身構えた。真の戦いが、今始まろうとしていた。


【続く】

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