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第8話 それってもしかしてデートのお誘い?!




「ど、どうしよう……」


 俺は頭を抱えていた。


 理由は当然、俺が配信に映り込んでしまったこと。


〈コメント欄〉

 :でも、こいつ誰?

 :知らん、けど最低でもA級の探索者だろ

 :A級……こんなに若くて? すげえな。

 :動き的にS級でもおかしくない

 :名前を教えてください! 唯たむを助けてくれたお礼をさせてくだせえ!



 ん? ()()()……?


 俺はそんな呼び方をされているダンジョン配信者を聞いたことがあった。


 確か……そこまで強くはないが、オドオドとした可愛さや可愛い声で人気の登録者100万人超えの配信者だったような……。


 ま、まさかな? この子がその唯たむだなんて……。


「あ、あれ……?」


 よく見たらこの子、唯たむじゃね?


 戦闘に夢中で全く気づかなかったが、あの唯たむじゃん……!!!


 つまり、俺が彼女を助けたところを数えきれない程の人間が見ていたということだ。


 ……明日、学校で冷やかされたり、変に目だったりしないよな?


「と、とりあえず、配信は切りますね! ……視聴者のみんな、見てくれてありがとうございます! じゃ、じゃあまた今度!」


 唯たむは視聴者にそう告げると、ドローンの電源を切った。


「……えっと……じゃあ、俺もこれで失礼するね?」


「ま、待ってください! お願いですから……お礼をさせてください!」


「いや、さっき言った通り、お礼とかは要らないよ」


 別にお金が欲しくないわけではない。


 しかし、俺よりも年下っぽい少女に金を求めるほど俺も落ちぶれちゃいない。


 俺が立ち去ろうとすると――


「――待ってください!」


 またしても、彼女に呼び止められた。


「だから、お礼は大丈夫だって――」


「――あの! ……最後のお願いです! どうか……どうか、私をダンジョンの入り口まで送ってくれませんか……?」


「それってどういう――っ?!」


 唯たむの足はガクガクと小刻みに震えていた。


 それだけではなく、手にはいくつかの擦り傷が確認できた。


 多分、俺が助けに入る前――尻餅をついた時にできたのだろう。


「私……足が震えて動けそうになくって……お願いです! どうか、ダンジョンの入り口まで運んでもらえないでしょうか……?」


 少女は上目遣いで、そう懇願してきた。


 くそっ……多分、これ、素でやってるんだろうな。


 ああもう! こんなのされて断れるやつが居るわけないだろ!


「……わかったよ」


「本当ですか!?」


「ただし、入り口までだからな? ……そして、ちゃんと配信のアーカイブは消してくれ!」


『アーカイブ』というのは配信をした際、視聴者がその配信を見返せる機能である。


 これがあると、俺が唯たむを助けたのを何回でも見返せるようになってしまう。


「ありがとうございます! アーカイブはちゃんと消しますね」


「頼むよ」


 さてと……でも、どうやって運ぼうか。


 普通に考えたら、超人気配信者の唯たむを俺がおんぶしている姿を他の人に見られたら大問題では?


 きっと、明日のネットニュースになり、SNSや掲示板で俺はコテンパンに叩かれるに違いない。


 よし、決めた。

 あれを使おう!


「じゃあ、一旦おんぶするぞ?」


「は、はい!」


 俺は唯たむをおんぶすると、彼女の手をガシッと掴んだ。


「ふぇ?!」


「――しばらく、目を瞑っていてくれよ? 後、舌を噛まないようにな?」


「え? わ、わかりました」


 よし、じゃあ出発するか。


「ふんっ!」


 俺は地面を強く蹴り、全力でダンジョンの入り口に向かって駆けていく。


 普通に運べば他の人に見つかってしまうなら――誰にも認識できない程の速さで走ってしまえばいい。


「きゃっ! こ、これ大丈夫なんですか?!」


「大丈夫! ……きっと、多分!」


「多分ってなんですか!?」


 いや、だって俺も人をおんぶしながらこの速さで走ったことなんてないし……。


 いつも花火のカメラマンをしている時は、これくらいの速さが普通なんだけどな。










「はぁはぁ……流石に全力で走るとは思ってませんでした」


 ダンジョンの入り口にて、そう言いながら肩で息をする唯たむ。


 どうして、走った俺じゃなくて唯たむの方が疲れているんだろうか……?


「正直、ロックゴーレムに襲われた時よりも恐怖を感じましたよ!?」


「そうか?」


「『何か問題でも?』みたいな口調やめてくださいよぉ……」


 あれ? 俺としては妙案だと思ったのだがな。


 じゃあ、長距離転移の魔法を使えば良かったか?


 ……でも、あれは慣れてない人にはちょっと負荷が強いんだよなぁ。


「でも、助けてくれたのは本当にありがとうございます!」


「いや、いいよ……上級の探索者として下級の探索者を助けるのは当たり前だし」


「そんなこと言わずに……どうか、お礼をさせてくれませんか?」


 唯たむは俺の手を握り、そう迫ってきた。


 このまま断り続けても、家まで付いてきそうな勢いだ。


「……そうだ! なら、今度会った時に飯でも奢ってくれ! それでいいからさ」


「ご飯ですか……そ、それってもしかしてデートのお誘い……ってこと……?!」


 なんか、唯たむが小声で何かを言っているんだけど。

 ち、違うからな? そういう下心じゃないからな!?


「――あれ? あそこにいるのって唯たむじゃね?」


 俺が否定しようとした瞬間、そんな声が耳に入る。


 声の方向を振り向くと、そこには探索者らしき1人の男性がこちらを見つめながら立っていた。


「唯たむが男と一緒に居る?!」


「っ……?!」


 これ以上、彼女と一緒に居るのは不味い!


「えっと……じゃあな! さっきのお礼は忘れてくれていいからっ!」


 俺はそれだけ言い残して、ダンジョンの奥へ走り去っていった。




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