第7話 どうしよ、これ
「馬鹿力すぎだろ……こいつ……!」
俺は剣でロックゴーレムの攻撃を防ぎながら、悪態をこぼす。
しばらく俺の力とロックゴーレムの拳でせめぎあった結果、なんとかロックゴーレムの拳を弾き返すことに成功した。
「おい! 大丈夫か?」
俺は、その隙に俺の真下で震えている少女に声をかける。
「はいぃ……」
「逃げられるか?」
「……ごめんなさい、無理です……脚が震えて……」
少女の言う通り、彼女の脚はガクガク震えていた。
クソっ……仕方がない、一旦はこの子を逃すことを優先しよう。
「わかった……ちょっと抱えられていてくれ」
俺は剣を仕舞うと――
「ふぇ?! ……こ、これって……?!」
少女の背中に両手を回して、そのまま抱え上げた。
いわゆるお姫様抱っこのような形だが……許せ。
『排除失敗……邪魔者の排除を開始します。ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ』
しかし、ロックゴーレムもただでは逃がしてくれないようだ。
『回転モード、開始』
ロックゴーレムは腕を伸ばすと、グルグルと回転しながらこちらに近づいてくる。
なにその頭の悪い攻撃!?
しかし、高速で近づいてくるので案外、めんどくさいな。
「クソッ……」
俺は一旦、バックステップで距離を取った。
このまま全力疾走して逃げるか?
……ダメだ、その間に他の探索者に標的が変われば大変なことになる。
ここ――上層に居る探索者なんて強くて精々C級。
そんな者たちが襲われれば、為すすべなく殺されてしまうだろう。
「……申し訳ないけど、しばらく目を瞑っていてくれ――多分、めっちゃ酔うと思うからさ」
「へ? ……わ、わかりました」
俺は少女を片手で抱え、もう片手で剣を構える。
大丈夫、片手で戦うのには慣れている。なにせ、いつもカメラ片手に戦ってるからな。
「さてと……どうしたものか……」
俺の視線の先には、高速で回転しながら接近してくるロックゴーレムがいた。
あんな動きをされていては近づくことが出来ない……。
そうやって悩んでいる間にも、俺は少しずつ壁際に追いやられていく。
……そうだ! ああすれば――!
「〈短転移〉」
次の瞬間、俺はロックゴーレムの背後に立っていた。
空間魔法の一つである〈短転移〉。
これによって半径10m以内の地面かつ、見えている場所に転移ができる……!
『対象者を見失いました。ただちに方向を変更――』
――ズゴオオオオン
しかし、ロックゴーレムは止まることが出来ずに、そのまま壁に衝突した。
よしっ! 成功だ!
「一気に畳み掛けるッ!」
身動きができなくなっているロックゴーレムの背後――弱点である赤い石を剣で突き刺した。
よし、これで討伐完了――
「あれ……?」
しかし、剣は簡単に弾き返された。
……どういうことだ? ロックゴーレムの弱点である赤い石はさほど硬くないはずだが……。
「もう一回ッ!」
――カキン
しかし、またしても剣は弾き返された。
おかしい……明らかにおかしい。
俺はかなり力を込めたはずなのに、壊れないなんて……。
『グギギギ……対象からの攻撃を確認。反撃モードに移行』
「おっと」
ロックゴーレムは振り向きざまに、攻撃してきたが、バックステップで攻撃を回避。
一旦、仕切り直しか……。
それにしても、どうしたもんか……。
ロックゴーレムに対して、基本的に斬撃も魔法も……攻撃はまるで効かない。
そのため、弱点である背後の赤い石を攻撃するのが定石なのだが……。
それも出来ないとしたら……どうすればいいんだ?
「考えろ……花火ならこんな時どうする?」
そんなの考える間もなくわかった。
あの人が取る行動なんて決まってる。
「っ……」
俺は地面を強く蹴り上げ、一瞬でロックゴーレムに肉薄する。
舐めるなよ? 花火の元で死ぬほど走らされている俺を……!
しかし、俺の反撃を易々と受け入れるロックゴーレムではなかった。
『反撃、開始』
ロックゴーレムは腕を振り回してきたため、俺は大きく飛び上って回避。
花火がやることなんて決まっているだろう。
力づくで捻り潰す。それだけだ。
ならば――
「〈断裂〉〈断裂〉〈断裂〉ッ!!!」
最大出力の〈断裂〉を三連続でロックゴーレムの《《首》》に放った。
『ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ――グギギガガガ』
ロックゴーレムの首に何本もの線が走ると、頭がボトリと地面に転がった。
その後、ロックゴーレムの残骸は光の粉になって消えていく。
「ふぅ……何とか倒せた」
ロックゴーレムは弱点以外の場所に攻撃しても無効化される……なんて話がある。
しかし、俺はそれを信じていなかった。
だって、モンスターだぜ? 完全無敵なんて有り得るはずがない。
――今まで誰もダメージを与えたことがないだけで、絶対にダメージを与えられるはずなのだ。
「大丈夫か?」
俺は腕の中で震えている少女に目線を移す。
彼女は俺に言われた通り、目をぎゅっと瞑っていた。
「ろ、ロックゴーレムは……どうなったんですか?」
「大丈夫、ちゃんと倒したよ……だから、もう目を開けてもいいぞ」
「……本当だ……!」
少女は目を開けると、パッと表情を明るくする。
「ありがとうございます、ありがとうございます!!! ……もしも、あなたが居なかったら私、絶対に死んでいました」
「いやいや、いいよ……そもそも上層にロックゴーレムが現れるのがおかしいんだし」
それも、弱点が無いという規格外の能力を持っていたし……。
彼女は何も悪く無い。
「えっと……お礼をしたいのですが……一旦、降ろしてもらってもいいですか?」
顔を赤くしながら恥ずかしげにそう言う少女。
不味いっ! 完全にうっかりしてた……!
「ご、ごめんっ! すぐ降ろす……!」
「……ありがとうございます。それでお礼ですけど、何がいいでしょうか……」
「いや、別にお礼とかは要らないよ……じゃあ、俺はこれで失礼するね」
上級の探索者が初心者を助けるのは普通だ。
俺が、そのままこの場を去ろうとしたその時――
「なに……これ?」
発見してしまったのだ。
こちらを向いているカメラが付いたドローンの姿を。
あれって……もしかしなくても配信や撮影で使うドローン……?!
「ね、ねえ……君、もしかして配信とかしてないよな?」
「え……? あっ……」
「お、おい? 何だその『しまった』みたいな顔は……え? 嘘だよな? ただの撮影だよな?」
少女は目を逸らすと――
「ご、ごめんなさい……配信してます……」
申し訳なさそうに、そう告げた。
……どうしよ、これ。
「えっと……あのロックゴーレム、めっちゃ弱かったなぁ! いやぁ、B級探索者の俺でも簡単に倒せるくらい弱かったなぁー」
「多分、それ逆効果ですよ……?」
少女はスマホに映った配信のコメント欄を見せながら、そう言ってきた。
〈コメント欄〉
:なにこいつww
:強すぎだろww
:ロックゴーレムの首を切り落とした?! あいつって弱点以外は攻撃無効化じゃなかったっけ……?
:意味わからんww
:何がB級探索者だよww あんな動きできるB級探索者居てたまるかww
「っ……?!」
コメントは見たことがないほどの速い勢いで流れていく。
……俺、明日からどうやって生きていけばいいんだ……?