第6話 美少女ダンジョン配信者『唯たむ』
「みんなー! こんにちはー! 今日もダンジョン配信していきますね!」
ダンジョンの中でドローンカメラに向けて1人の少女が喋る。
彼女の名前は唯。
聴く者を魅了する声と類まれな容姿によって、人気を集めているダンジョン配信者である。
〈コメント欄〉
:うおおおおお!!!
:《《唯たむ》》の配信だあああ!!!
:こんにちは
:唯たむ! 唯たむ!
「みんな、ありがとうございます! 同接は……わっ、もう3000人超えてますね!? 本当にいつもありがとうございます!」
唯は、視聴者に『《《唯たむ》》』という愛称で呼ばれ、愛されていた。
〈コメント欄〉
:¥5000 お布施です
:¥4000 配信料です
:¥3000 生きてて偉かった代です
「み、みんな?! 投げ銭ありがとうございます! でも、別に投げ銭は義務じゃないですからね? 無理のない範囲でお願いしますね?!」
〈コメント欄〉
:お、今日も名物見れたわ
:唯たむの配信名物、お布施連発
:名物になってるの草
:でも、これがないと唯たむの配信は始まんねえよな
「みんな……? 勝手に名物にしないでね? 私、毎回みんなに投げ銭投げて貰って嬉しいけど、心配なんだよ?」
〈コメント欄〉
:ええんよ、どうせ俺が金持っててもパチンコ打つだけだし
:そそ、唯たむは貰ってくれればええねん
:俺もどうせ、競馬で溶かすだけだからなぁ……唯たむが心配してくれるだけで嬉しいよ
「本当……? ならいいんだけど……」
唯はそう言うと、一息ついて口を開いた。
「そんなわけで、今日は《《渋谷》》ダンジョンの攻略していくね。どうやら、渋谷ダンジョンに強い武器や防具が出る宝箱がある隠し部屋があるらしいの!」
〈コメント欄〉
:ほう……
:本当にあるの?
:それ、大丈夫? 隠し部屋って書いてトラップ部屋って読まない?
「み、みんな疑ってるね?! 絶対に隠し部屋と宝箱あるから! 今日はそれを証明してやるから!」
唯は語気を荒げてそう言うと、ダンジョンの探索を開始した。
〈コメント欄〉
:ああ、これいつもの無いやつねww
:お決まりのパターンやん
:唯たむ名物その二、隠し部屋も宝箱も見つからないww
「みんな、勝手に色々と名物にしないでよね? ……あっ、モンスターだ!」
ジト目で視聴者を宥めると、モンスターを発見した。
ぷよぷよと飛び跳ねる水色の球体はまさに、スライムそのものだった。
「あれは……スライムだね、ちゃっちゃと倒していこっか!」
唯は両手をスライムに向かって突き出すと――
「〈風刃〉!」
手から風の刃が放たれた。
風の刃は一瞬にしてスライムを真っ二つに切り裂き、スライムは光の粉となって消えていった。
「やった! とりあえず一体目討伐!」
唯はスライムがドロップした魔石を袋に入れるとズンズンと進んでいく。
〈コメント欄〉
:偉い偉い
:流石、風魔法のギフト持ちだな
:スライム如きに魔法使って大丈夫そ? というか魔法のギフト持ちがソロは危ないでしょ
「スライム如きに魔法使って大丈夫そ? ……大丈夫です! 私はこう見えても魔力は多いですし……いざとなったら剣も使えますから!」
唯はコメントにそう答えると、さらに奥へと進んでいく。
〈コメント欄〉
:魔力って何?
:↑え、魔力知らないで生きてきたの?
:魔力ってのはギフトを使うのに必要な体内のエネルギー。体力のギフトを使う時バージョンって感じ。
:あざす!
「あっ、今度はローウルフだ!」
唯の視線の先には1匹の灰色の毛並みの狼――ローウルフがいた。
ローウルフは上層に現れるD級のモンスターである。
ローウルフは唯に気づくと、攻撃せんと走ってきた。
「そうだ! 丁度いいから私の剣の実力、見せておくね?」
唯は腰に差していたロングソードを抜き、構える。
彼女の体躯ではあまりにもロングソードは使いづらそうだが――
「ていやっ!」
唯は慣れた剣捌きでローウルフの体当たりをいなした。
そして、そのまま首めがけて一閃。
ローウルフは一瞬にして唯に倒された。
〈コメント欄〉
:強っ
:やっぱ唯たむ強いよな
:まあ……〈剣術〉と〈風魔法〉のダブルギフテッドだし
:ガチな話、普通にC級からB級の間くらいの実力はあるだろうな
:中層に行くには心許ないけど……上層じゃ、敵なしや!
「あはは……みんな褒めすぎだよ、私がダブルギフテッドなのは偶々だし!」
ダブルギフテッド……その名の通り、二つのギフトを持つ者のことを指す。
「よしっ! このまま隠し部屋を探しに行くよー!」
魔石を回収すると、唯は意気揚々に歩き出した。
――そんな時だった。
「クソぉぉぉ!!! あんな化け物が上層にいるなんて聞いてねえぞッ!!!」
そう叫びながら青年が唯の横を走り去っていった。
「なんだろう? ……どうしたのかな?」
〈コメント欄〉
:さあ?
:待って、なんか嫌な予感がする
:唯たむ! その場からすぐに離れて! 多分モンスターから逃げてきたんだと思う!
:そこに居ると、モンスターを押し付けられるぞ!
「え? も、モンスター? 逃げる?」
唯は何があったのかと後ろを振り返ると――
『グギギギギ……追跡者を見失いました。追跡は失敗……よって対象を変更します』
そこに居たのは唯の何倍もの身長をした巨大なロックゴーレムだった。
「ひっ……なんで……なんでここにロックゴーレムが……?」
『対象者の排除を開始します。ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ』
ロックゴーレムはB級のモンスター。
精々、Cランクの上位くらいの実力しかない唯が、勝てる相手ではなかった。
〈コメント欄〉
:唯たむ!!!
:なんでここにロックゴーレムが?!
:誰か! 誰か高ランクの探索者は居ないのか!
:クソっ……今から向かっても間に合う気がしねえ!
「や、やだ……やめて……!」
唯は恐怖のあまり、尻餅をついて地面に座り込む。
動かそうと、どれだけ願っても足は動かなかった。
『ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ』
唯を潰さんと、ロックゴーレムは巨大な拳を振り上げ――
「誰か……助けて……!」
容赦無く、ロックゴーレムの拳は振り下ろされた。
ダンジョン中に響く轟音。凹んだ地面。舞う砂埃。
誰もが唯は死んだと思った。
砂埃が晴れた先には――
「馬鹿力すぎだろ……こいつ……!」
唯を庇って、剣一本でロックゴーレムの拳を受け止めている青年――蓮の姿があった。