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第5話 押し付け



「じゃあ、今から2時間――19時までにどっちがよりダンジョンの奥に行けたかで勝負だ」


「はい……」


 俺は、渋谷ダンジョンに来ていた。


 逃げ出すことも考えたが……そしたら、早川から嫌がらせを受けるような気がしたので勝負を受けることにした。


 それに、早川がヒバナのカメラマンだと世間から思われているなら逆にそれを利用すればいい。

 早川を俺の隠れ蓑にするのだ。


 俺は早川と違って変に目立って、世の男どもから殺意を向けられるのは御免である。


 それに、何も勝つ必要はない。

 テキトーに勝負を受けてわざと負けてあげればいいのだ。


 そしたらこいつの気も晴れるだろ。


「じゃあ、よーいスタート!」


 その合図と同時に早川は右の道を走っていく。

 その少し後ろから撮影用ドローンが早川を追いかける。


 どうやら、目立ちたいのか知らないが早川はドローンを使ってダンジョン配信をしているらしい。


「はあ……俺も出発するか」


 ずっとここに座って居てもいいが、流石に頑張っているフリくらいはしないとな。


 俺が早川とは別の道を歩いていくと――


「キュイ!」


 水音と共に透明な球状の体をしたモンスターが現れた。

 ……スライムだ。


 流石に出くわしたモンスターは狩っておくか。


「現れてくれたところ悪いが……じゃあな」


 俺は剣を抜くとスライムめがけて振り下ろす。


 スライムは悲鳴を上げる間もなく真っ二つになり、魔石を残して、光の粉となって消えていった。


 50年前、突如として現れた謎の建造物――ダンジョン。

 それと同時に突如人間に与えられた特殊能力であるギフトを使い、ダンジョン内で現れるモンスターと日々戦うのが俺たち探索者だ。


 可哀想だなんて思わない。

 俺たちが殺さなかったらこいつらはいずれ、ダンジョン内から溢れて非力な一般人を殺すのだから。


「さてと……ちょっくらお散歩といきますかね」


 幸い、渋谷ダンジョンの上層で出てくるモンスターは高くてD級モンスターである。


 昨日相手したS級であるジュエリーウルフと比べれば、ただの雑魚である。


 俺は鼻歌を歌いながら、ゆっくり道を歩いていくのであった。



 ――――――――――――

【早川視点】


「これで10体目ぇ!」


 オレは狼のモンスターの首を剣で刎ねると、次の階層への階段に向かって走っていく。


〈コメント欄〉

 :いいね

 :めっちゃ順調!

 :早川っち強すぎ!

 :ちゃんとモンスター倒していくとか偉すぎ


「ふぅ……これで第4階層か」


 オレは時計を見ると、開始時間から20分しか経過していなかった。

 よし……! この調子なら19時までに20階層には行けるんじゃないか?


 20階層ともなればそこから下は下層になる。

 ソロで2時間で下層まで行ける探索者なんてオレくらいしかいないだろ。


 オレは勝ち誇った表情で第4階層を駆けていく。


 ――そんな時だった。


 ゴゴゴゴゴ、という轟音が階層中に響き渡ったのは。


「な、なんだなんだ?」


〈コメント欄〉

 :なんの音?

 :誰かが広範囲攻撃系のギフトぶっ放したんじゃね?

 :気にしなくていいんじゃね?

 :日野がコケた音とかじゃない?ww


「まあ……そうだよな、気にしなくていいよな」


 オレは嫌な予感を抱えながら、引き続き走り出そうとする。


『グゴギゴゴ、対象者を確認、直ちに排除します』


 背後からそんな声が聞こえた。


 いや、声というのは間違っているかもしれない、何せその声は機械音だったのだから。


「な、なんだなんだ?!」


 振り返ると、そこには巨大な人型の岩が立っていた。


 オレよりも何倍も大きい体。怪しげに光る赤い一つ目。

 ……オレはこいつに見覚えがあった。


「ロック……ゴーレム?」


 ロックゴーレム。

 B級モンスターであり、本来なら渋谷ダンジョンの下層で出現するはずのモンスター。


 それが上層であるここにいたのだ。


〈コメント欄〉

 :何あれ

 :でっか……

 :ロックゴーレムじゃね?

 :いやいや、ロックゴーレムって下層で出るモンスターじゃんwwなわけww


「い、いや……あれはロックゴーレムだよ」


 オレは頭が真っ白になる。


 オレはA級探索者だ。パーティでならあの程度の魔物を倒したことはある。


 ……しかし、それはあくまでパーティでの話だ。

 オレがソロで倒したことがあるのはC級モンスターまでだった。


 どうする?

 逃げるか……?


 ……ダメだ、配信をつけているんだから、ここで逃げ出すわけにはいかない。

 そんなことしたらオレはみんなから腰抜けと笑われることだろう。


 なんとかこいつを倒さねえと……!


「うおおおおお!!! 〈連続加速〉」


 オレはギフトの〈連続加速〉を使用した。


 このギフトは使用した瞬間から徐々に全ての行動の速度が加速していくというものだ。


 使い続ければ音速にだってなれる……!


「この岩っころがッ!」


 オレは剣を構えながらロックゴーレムに向かって駆けていき、大きく飛び上がると、ロックゴーレムの肩に乗った。


「オレは知っているぞ……お前の弱点をなぁ!」


 ロックゴーレムはありとあらゆる攻撃を無効化する。

 そのため、ここで安易に攻撃してはいけない。


 狙うはロックゴーレムの背中に埋まっている赤い石だ。


 そこは唯一、攻撃が通る場所であり、この石を壊せばロックゴーレムを倒すことができる。


「くたばれ、石クズがッ!」


 オレはロックゴーレムの背後に周り、赤い石に剣を突き刺した。


 ――カキン


「なッ……」


 しかし、オレの剣は非情にも弾き返された。


 あ、あれ……? おかしいな。

 ロックゴーレムの背後の赤い石は簡単に壊れることで有名なのに……!


「ま、まだまだぁ!」


 オレは何度も何度も剣を突き刺していく。


 しかし――


「どうして……ッ!」


 どの攻撃も弾き返されてしまった。


〈連続加速〉によって時間が経てば経つほど突きの速度は速くなっているはずだ。


 その高速の突きが全て……弾き返されただと?


 おかしい……こいつは普通のロックゴーレムなんかじゃない!!!


『ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ』


 その時、ロックゴーレムがこちらを振り返った。


「あっ……」


 ロックゴーレムは振り返った勢いのまま、腕を振り回す。


 オレは急いでロックゴーレムから距離を取ろうとバックステップするが――


「あがッ?!」


 ギリギリ避けられず、腹にロックゴーレムの拳が食い込む。


 そのままオレは吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に衝突した。


「けほッ、けほッ……なんなんだよぉ……あれはぁ!」


 あんなのロックゴーレムなんかじゃない。


 弱点であるはずの赤い石が硬すぎる……!!!


 あんなの……ただの無敵のモンスターじゃねえかッ!!!


『対象者を捕捉、直ちに追撃モードに移行』


 ズシン、ズシンと地鳴らしを起こしながらこちらに向かってくるロックゴーレム。


「や、やってられるか! オレは、オレは逃げるぞ!」


 オレは見栄もプライドも何もかも捨てて、一目散にロックゴーレムから逃げた。











「ここまで来れば……大丈夫か?」


 流石のロックゴーレムでも〈連続加速〉を使ったオレにも追いつけなかったようだ。


 オレは安堵のあまり、地面に座り込んだ。



 ――ロックゴーレムが追いかけて来なかったのは、ロックゴーレムの標的が他の探索者に移ったからだと知らずに。




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