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第3話 トレンド1位




「う……んん」


 目を覚ますと、そこは病院だった。

 こういう時ってなんていうんだっけ。


「知らないてんじょ――」


「あっ、起きた?」


 定番のセリフを言う間もなく、勢いよく手が握られる。

 この無駄に綺麗な顔に透き通るような銀髪は――


「花火……?」


 女性最強ダンジョン探索者でもあり、俺の雇い主兼、師匠でもある『ヒバナ』――にしき花火はなびだ。


「もしかしてずっとここに居たのか?」


「……わ、私がそんな性格に見える? 偶々お見舞いに来ただけだって」


 焦ったように花火は顔を逸らす。

 この感じ……さてはずっと居たな。


「まあ、どちらにしても心配してくれてありがとな」


「当然でしょ……君は私の専属カメラマンなんだから心配するに決まってるじゃーん!」


「そりゃどうも」


 彼女は心配そうに穴が開くほど俺をじっと見てくる。


「大丈夫なんだよね?」


「勿論。なにせエリクサー使ってもらったわけだし」


 エリクサーは最高級ポーション。

 片腕を失っても、傷口にエリクサーをかければ腕がくっつく、というのは有名な話である。


「……ごめんなさい。私、師匠失格だね」


 花火は安心した表情から一転して、苦虫を噛み潰したような表情になって俯く。

 このままだと手に爪を突き立てそうな勢いだ。


「馬鹿言うなよ……どう考えてもあれは完全に俺の注意不足だ。それに最初に言ってただろ? モンスターに襲われても自分で勝手に対処しろって……だから花火に責任なんてないんだよ」


 重く、気まずい空気が場を支配する。


「――はい! 反省会おしまーい!」


 そんな空気を最初に打ち破ったのは花火のおちゃらけた声だった。


「へ?」


「私も君も注意不足だっただけ。もう結論は出たじゃん。これ以上くよくよしてても仕方ないじゃん!」


『そうでしょ?』と花火は首を傾げる。


「……あははっ! 確かにそれもそうだな。俺も結局無事だったわけだし」


『ヒバナ』にこんな重い空気なんて似合わない。

 過去を振り返るのはほどほどでいい。

 俺たちは多分、何も考えずに走っている方が性に合っている。


 ……しかし、俺は見逃さなかった。花火の目の周りが少し腫れていたのを。


「そういえば、あれから配信とか大丈夫だったのか?」


 俺の脳裏に配信のことがよぎった。


 確か、俺の声が配信に乗ってしまったんだっけか。


「あっ、気にしてなかった」


 花火はスマホを取り出すと動画配信サイトを開く。


「なにこれ」


 花火はスマホを見たまま表情が固まっていた。


「どれどれ……あ〜」


『カメラマン居るなんて知りませんでした』

『騙しやがったなコイツ』

『お二人は付き合ってるんですか?!』

『カメラマンさん大丈夫ですか?』

『カメラマン凄すぎん?』

『カメラマン、影の最強で草』


 配信のアーカイブへのコメントは様々だった。

 男のカメラマンがいたことに対して怒る者。

 俺たちの関係を聞いてくる者。

 俺の体を心配する者。


 案の定、その中には誹謗中傷紛いの言葉も混じっていた。


「まあ……思ってたよりかはマシそうだな」


 意外なのが、最も多かったのは俺の安否を心配する声だったことだ。


「これって一応、無事って報告しておいた方がいいかな?」


「まあ、もうカメラマンがいたことは完全にバレてるし……視聴者を余計に心配させないためにした方がいいかもな」


 花火はガチ恋営業とかは一切していないが、無駄に顔がいいため、その顔目当てで配信を見る者も少なくない。

 そういう人から酷い言葉が沢山来ることを予想していただけあって、意外と少なかったことに驚いた。


「……え?」


 花火はスマホを見つめながら、目を丸くさせていた。


「どうかしたのか?」


「いやさ……私たち、トレンド1位になってる」


「はあ?」


 彼女が俺の前に突き出してきたスマホには大手SNSアプリのトレンド欄が映っていた。

 そして、1位の場所には『ヒバナ』という文字が大きく書かれていたのだ。


 ……あれ? もしかして炎上してないか? 大丈夫だよな?



 ――――――


【五十嵐律】




「ええっと……視聴者の皆さん、こんにちは」


 ヒバナの配信の数時間後……つまり、蓮が目を覚ます数時間前。

 ダンジョンの中で灰色の髪の男がカメラに向かって話しかけていた。


“律様?!?!”

“今日もいい声”

“配信してる……! 信じてました”

“¥30000 本当に良かったぁぁぁ”


 彼が話し始めた途端に勢いよくコメントが流れていく。

 彼は五十嵐律……S級探索者でありながら、聴く者を癒やす低い声で主に女性を中心にダンジョン配信者として人気を博していた。


「投げ銭3万円ありがとうございます……本当に良かった?」


“律様知らないの?”

“昨日、トレンドになってたよ”

“ヒバナのカメラマンの話”


「えっと……ヒバナって最近有名な人のことだよね? 俺、そういうの疎くてさ。何があったのか詳しく聞かせてくれないかな?」


“なんか、ヒバナに男のカメラマンがいたっぽい”

“それで、ヒバナのカメラマンが律様なんじゃないかって噂されてた”

“本当に良かった……”


 律は少し戸惑いの表情を浮かべる。

 ヒバナという配信者がいることは知っていた。


 確か目にも止まらぬ速さで走りながら魔物を狩っていく配信者だったはず。

 だが、その異常なほどの速さについていきながら撮影ができる人なんて居るわけがない。


 そう考えるも、他の配信者の話をするのがタブーであるということを知っていた律はそれ以上、ヒバナについての話はしなかった。


「とりあえず、何でもないなら良かった……雑談も程々にして、今から事前に告知した通り横浜ダンジョン攻略始めていくね? 今日と明日の二日間かけるつもりだから、どちらか見てくれると嬉しいな」


 その後、カメラマンの正体が律ではないことが明らかになったことで、SNSや掲示板で謎のカメラマンに関する話題はさらに大きくなっていき……いつの間にかトレンド1位になっていた。



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