第13話 化け物の背比べ
「じゃあ、ひとまず蓮君の強さはわかっただろうし、一旦、蓮君にはカメラマンに戻ってもらうね」
俺は、花火からカメラを受け取った。
なんか、配信に映ってないって安心するな。
〈コメント欄〉
:カメラマン君……疑ってすまんかったわ。あんなに強いとは思わんかった……
:なんか、ぐんぐん『カメラマン』がSNSのトレンドを上がってるぞ……?
:ほんとやww
と、トレンド?!
……大丈夫だよな? 前みたいな悲劇にはならないよな……?
「もしかしたら、明日には1位になってたりね」
「洒落にならないんだよな……それ」
もう、すでにトレンド1位を2回取っている身としては全く洒落ならない。
それどころか……本当に1位になっていそうで怖い。
「まあ、それはそうと……今日は普通にダンジョン配信していくよ」
〈コメント欄〉
:助かる
:カメラマン君もいいけど、イカれすぎててな……
:↑ヒバナも十分イカれてるけどねww
:なんだろう……ヒバナは安心するイカレ度合いだから
「安心するイカれ度合いって……」
花火は苦笑いすると、ずんずんダンジョンの奥へ進んでいく。
俺はその花火の後ろをカメラを構えながら、追いかける。
これぞ、普通のヒバナの配信だ。
「――ギャウウウウ……!」
その時、背後からそんな鳴き声が聞こえた。
振り返ると、そこには俺の5倍くらい大きな体躯を持ったSS級モンスター――オーガキングが居た。
頭からツノを生やし、屈強な筋肉を持ったオーガキングはまさに、鬼のようだ。
「花火、いけるか?」
「勿論! 私を誰だと思ってるの?」
花火は流れるような仕草でハンマーを担ぎ上げる。
「一応、蓮君の師匠……だからね? 負けてなんていられないよ」
刹那、花火の姿はかき消えた。
まさか、本気を出したな……?!
俺がキョロキョロと花火を探していると――
「じゃあね」
「ァ……」
次の瞬間、俺の目に映り込んだのは、胸から上が全て無くなったオーガキングの姿だった。
その真横で、花火は満足そうにハンマーを担ぎ上げる。
彼女は汗一つすら、かいておらず……それどころか息切れすらしていなかった。
化け物すぎる。
俺はそんな感想しか抱けなかった。
〈コメント欄〉
:は?
:ん?
:何が起きた?
:知ってた
:ヒバナは縛りプレイばっかりするから、あんまり知られてないかもだけど……本気出すとクソ強いんやで?
:常識が崩れていく音がする
:この2人が日本の探索者の2トップだろ……
まるで瞬間移動のような移動――それには、花火のもう一つのギフトが関係していた。
花火はトリプルギフテッドである。
一つ目が〈ハンマー使い〉、二つ目が〈重力魔法〉……そして三つ目が〈神速〉。
〈神速〉は体の限界、人間の限界……そんなものを全て無視し、任意の速度で走ることができるギフトだ。
ただし、あまり速すぎると上手く止まれずに壁に衝突したり、体が空気抵抗に耐えられずに怪我してしまったり……扱いが難しいギフトではある。
「いやぁ……蓮君が無双してるの見てて、私も久しぶりに本気出したくなっちゃった!」
花火は笑いながら、こちらに歩いてくる。
「やっぱさ……俺なんかよりも、そっちの方が化け物だよな」
「ひっどい! こんなにもお淑やかで謙虚な女の子を化け物呼ばわりなんて」
花火はしくしく、と泣く真似をする。
「お淑やか……? 謙虚……? 寝言は寝て言えっ」
〈コメント欄〉
:どんぐりの背比べやろww
:どっちもどっちやww
:同じようなもんだわww
:狂人な化け物と無自覚な化け物ってだけで、両方化け物やww
:化け物の背比べやねww
ど、どっちもどっち?!
「「流石に一緒にしないでほしいんだけど?!」」
俺と花火の声が重なってしまった。
〈コメント欄〉
:類は友を呼ぶって言うし
:良かったじゃん、仲良しで
:一般人からすると、一緒だよ……ww
一緒なのか……?
意味のわからない速度でモンスターに肉薄し、上半身を吹きばすなんて……俺には出来ないぞ?
「も、もう! とりあえず、それはいいからダンジョン探索していくよ?!」
「そ、そうだな! ちゃんとダンジョン探索しないとな!」
俺たちは気を取り直して、ダンジョンの探索を再開する。
ここは一応、深層……数多くのS級やSS級、そしてSSS級なんかも現れる恐ろしい場所である。
あまり油断してはいられない。
そのはずなんだが――
「これで5体目〜!」
俺の目の前にはそう言いながらSS級モンスターを蹂躙する花火の姿があった。
やっぱり、化け物でしょ、この人……。
「蓮君、どうしたの? 浮かない顔して」
「いや……なんでもないよ」
今までも、薄々感じていたのだが……やはり、花火は俺よりも強い。
側から見れば同じかもしれないが……越えられない壁のようなものを感じるのだ。
「……? なんでもないならいいけど――」
花火は不思議そうに首を傾げると、探索に戻る。
俺も気を取り直し、カメラを花火に向けるのであった。
――――――――――――――
その後、ダンジョン配信は何のアクシデントもなく終えることができた。
俺と花火はダンジョンを出た後、近くのコンビニで飲み物を買い、道端で飲んでいた。
「はぁぁぁ……またかよぉぉぉ!」
俺はスマホを見ながら、深いため息をつく。
「どうしたの?」
「……これ、見てみろよ」
俺はSNSのトレンド欄を花火に見せる。
その1位の場所に『化け物』というワードがあった。
調べてみると、どうやら、俺と花火を指しているらしい。
「それくらい、いいじゃん! 目立ってるってことだし!」
花火はコーラを飲みながら、にこやかにそう告げる。
「良いのか……?」
「良いんだよ、配信者たるもの器が広くないと!」
「でも、これ……『化け物』に花火も含まれてるぞ?」
「よし……そんなことを言った奴を特定して、毎日小指をタンスの角にぶつける呪いをかけてやる」
「器を広く、とは……?」
さっきと言っていることが矛盾しすぎでは……?
俺がそうツッコもうとした時だった。
「――あれ? か、影の最強さんっ?!」
突然、後ろからそんな言葉が聞こえた。
「ッ……?!」
影の最強?!
まさか、視聴者と鉢合わせたか……?!
俺が焦って振り返ると、そこには――
「ゆ、唯たむ?!」
可愛らしい見た目の少女、守りたくなるような声……間違いなく、あの唯たむが居た。