第12話 なんだよ、このヤバい奴を見るような空気は!?
「えっと……何か、問題だったのか?」
俺は視聴者にそう質問する。
要望通り、ただただ、いつも通りにモンスターを倒しただけなのだが……。
〈コメント欄〉
:問題大アリだわ
:え? 何その力……
:チートすぎだろww
:意味わからんww
:『影の最強』って言われてたけど、本当に言葉通り最強じゃねえかww
「れ、蓮君……コメント欄の人が困惑してるよ?」
「そんなこと言われてもな……」
俺は頭を抱える。
じゃあ、どうすればよかったんだ? もっと苦戦してる雰囲気を出した方が良かったのかな……。
〈コメント欄〉
:お前の強さはよくわかったよ
:なんで、今までこんな化け物の存在が知られてなかったんだ?
:もう意味わかんなすぎて笑えてきたww
:もうちょっと戦ってくれん? あれだけじゃ、何にもわからんww
もうちょっと戦う?
いやいや、流石にこれ以上は――
「――視聴者の人が『もうちょっと戦って欲しい』ってさ! てなわけで蓮君、もう一戦お願いっ!」
「へ?」
嘘でしょ……?
「さ、さっきので十分じゃないのか?」
「いやいや……視聴者のみんなも、蓮君にもっと戦って欲しいよね?!」
〈コメント欄〉
:そりゃあな
:カメラマン君の本気が知りたいわ
:さっきのは一方的に倒しただけだからなぁ……ww
:もっとちゃんとした戦いが見たいww
コメント欄は花火に賛同する声で溢れていた。
うぐっ……また、視聴者の前で戦わないといけないのか……。
「これで最後だからな……?」
「よっ! それでこそ『影の最強』!」
「っ……!?」
後で覚えてろよ……?
絶対に仕返ししてやる……!
俺は心の中で悪態をつくと、モンスターが近くにいないか、周りを見渡す。
程よい強さのモンスターが居ればいいのだが……。
まさか、都合良く、程よい強さのモンスターなんているわけ……。
「――ガウウゥッ!!!」
「え?」
突然、曲がり道の先から、3つの頭を持った犬のモンスター――ケルベロスが現れた。
ケルベロスは赤竜と同じ、SS級モンスターではあるが……SS級モンスターの中では比較的に強いことで知られている。
俺の相手としては、あまりにも丁度良すぎた。
ケルベロスは俺を見つけた途端、大きく口を開き――
「ガウゥッ!」
3つの口から炎のブレスを放ってきた。
「あぶねっ!」
3つの口から放たれているだけあって、ブレスは超広範囲。
しかし、俺は咄嗟にバックステップすることでブレスをなんとか回避できた。
「早めに決着つけないと、キツくないか……?」
でも、そしたら花火にアンコールを要求されそうだしなぁ……。
仕方がない、もう1つのギフトで頑張ってみるか。
俺は深呼吸すると――
「ふッ!」
全力で地面を蹴り上げた。
これによって俺のもう1つのギフト――〈俊足〉が自動的に発動する。
能力はシンプル。
足が速くなる……それだけだ。
ただし――加速の限界は自分次第。
自分の体の限界まで、加速することができる。
俺は1秒もしないうちに、ケルベロスに肉薄する。
そして、そのまま困惑するケルベロスの首を一閃。
「ガウゥゥゥ?!」
ボトリ、とケルベロスの頭の2つが地面に転がった。
どうやら、ギリギリ3つの頭を切り落とすには至らなかったようだ。
〈コメント欄〉
:うおおお?!
:え、また瞬殺?
:もうええてww
:何あの速さ……ヒバナに匹敵するんじゃね……?
:↑ヒバナに匹敵しなきゃ、カメラマンできないだろww
:なんだろう……もう驚かなくなってきたww
いや、まだだ。
これは面倒臭いことになったぞ……。
だってケルベロスの能力は――
「グルルゥゥゥ……」
ケルベロスの首からニョキニョキと頭が生え、切り落としたはずの頭は元通りになった。
ケルベロスの能力――その一つが再生だ。
ケルベロスは3つの頭を同時に切り落とさなければ永遠に再生を繰り返す。
そんな驚異的な力で、何人ものの探索者に絶望を味あわせていた。
「グルルルゥゥッ!!!」
攻撃されたことに怒ったケルベロスは、凄まじい勢いで俺に近づいてくる。
そして――俺の首を噛みちぎろうと、飛びかかってきた。
仕方がない、空間魔法は封印していたが、そろそろ使うか。
「〈短転移門〉」
俺はケルベロスに向かって右手を突き出し、そう唱えた。
次の瞬間、目の前の空気が少し歪み――
「ギャウ?!」
ケルベロスが目の前から消えた。
俺は顔を上げると――突然、空中に現れ、頭から地面に落ちようとしているケルベロスの姿があった。
〈短転移門〉……これは目の前の空間と、半径3m以内の任意の空間に転移門を設置する魔法である。
これによってケルベロスを真上に転移させたのだ。
「ギャウウウ?!」
流石のケルベロスでも空中に居ては、何もできないはず。
俺は、落下していくケルベロスの、首に狙いを定め――
「っ……!」
一閃。
ケルベロスの3つの頭が、地面に転がった。
じきにケルベロスの死体は光の粉となって消えていった。
〈コメント欄〉
:は?
:???
:理解できねえ……ww
:ダメだ、こいつ
:ここって俺が知ってる世界だよな……?
:断裂を敢えて使ってない辺り……まだ余裕なんだろうな……ww
コメント欄を見てみると、反応は殆どさっきと同じだった。
あれ……? 俺がもう一回戦った意味とは……?
「えっと……これで良かったんだよな?」
すると、花火が苦笑いした。
「ま、まあ……良かったんじゃない?」
「どうして疑問系なんだ?」
「いや……なんでもないよ! うん!」
花火はまたしても誤魔化すように苦笑いをした。
ど、どうして……?
〈断裂〉や〈短転移〉は封印したぞ?
なるべく、時間もかけたぞ……?
なのに……なんだよ、このヤバい奴を見るような空気は!?
――――――――――――――――――
【スレッド:ヒバナのカメラマン、配信に出る】
1 名無し
『影の最強』こと、ヒバナのカメラマンが配信に出るらしいぜww
2 名無し
草
3 名無し
うわ……要らんわ
俺たちは美少女のヒバナが見たいのに、男とか邪魔すぎ
4 名無し
>3 それな
5 名無し
方向転換してくんのマジで萎える。
カメラマンがバズってんのは唯たむを助けてくれたからなんだよな
6 名無し
ちょっと足が速いからってあんまり調子に乗らないで欲しいわ
小学生じゃねえんだから
7 名無し
おっ、配信が始まるぞ!
8 名無し
ちょっとだけ見てくるか
9 名無し
>8 俺はいいわ
10 名無し
>9
一応、ちょっとだけ見ようぜ?
配信に出るのは今回だけ、とかかもだし
11 名無し
ちょっとだけな
12 名無し
俺も少しだけ見るか……どうせ、おもん無いんだろうけど
89 名無し
あれ……? おかしいな
90 名無し
なんか、おもろいかも
91 名無し
何これ……やけに尊いし
92 名無し
>89 >90 >91
草
お前ら、さっきおもんないって言って奴らやんけww
93 名無し
俺は名前呼びを許す気はないぞ
94 名無し
おっ、なんかカメラマンがモンスターと戦うらしいぞ!
95 名無し
これはお手並み拝見やな
96 名無し
クソ弱かったら、死ぬほど叩いてやるわww
97 名無し
おっ、SS級の赤竜やん
98 名無し
赤竜?! いやいや、流石に無理だろww
99 名無し
超強いヒバナを撮影してるうちに、自分も強いと思い込んじゃってんじゃねえの?
100 名無し
は?
101 名無し
え
102 名無し
え? 赤竜、死んだの?
103 名無し
10秒くらいで終わったんだけど
104 名無し
もう笑うしかねえww
なんだこいつww
マジで『影の最強』じゃねえかww
105 名無し
ヒバナのカメラマンで
唯たむを助けて
SS級モンスターを瞬殺
これってどこの漫画の世界?
106 名無し
ヒキニート30歳彼女なしのワイ
完全敗北
107 名無し
なんでこんな奴が無名なんだよ!
おかしいだろ!
108 名無し
ちょっと、これは広めねえとなww




