第11話 今日はカメラマンの蓮君にも配信に出てもらってまーす!
《前書き》
・閑話の内容
約2年前。花火と蓮の2人はそれぞれ、悲劇に見舞われていた。
そんな中、2人は偶然出会い、蓮が花火に『自分を探索者として鍛えてほしい』と頼み込む。
その頼みを初めは断る花火だが、蓮は告げた『代わりに花火の性格を変える』という条件によって花火は蓮の頼みを受けることに。
結果、蓮はS級モンスターをソロで討伐できる程に強く。
花火は『狂人』とも言われるほどポジティブな人間になった。
――――――――――――――――――
「本当に、配信に俺も声を出して、いいんだな?」
「うん、大丈夫大丈夫……何かあっても、もう蓮君に失うものなんてないでしょ?」
「くっ……」
本名も、学校もバレてしまった以上、俺に失うものがないのは確かだ。
「じゃ、じゃあ、始めるぞ!」
俺は配信ボタンを押し、配信を開始した。
配信のタイトルは『普通のダンジョン配信していくよー(カメラマン君の声が入るかも)』
〈コメント欄〉
:うおおおお、来たああああ
:カメラマン出るってマ?
:¥50000 唯たむを助けてもらったお礼です
:¥10000 俺からもお礼です! カメラマン君に渡してください!
:¥30000 マジで唯たむを助けてくれてありがとう! お礼や! 美味い飯でも食ってくれ!
配信が始まった途端、大量の投げ銭が送られてきた。
「へ? ちょ、ちょっと待て……大丈夫なのか、これ?!」
〈コメント欄〉
:カメラマンの声や!
:うおおお、恩人様の声や!
:きちゃあああああ
:ヒバナとの関係性は?
:探索者のランクは? やっぱS級?
:惚れました、結婚してください
同接数は一瞬で増加していき……いつの間にかに1万人を突破。すぐにでも2万人になりそうな勢いだった。
「同接の伸び凄いねえ……これが蓮君の人気かぁ」
「お、おい? 本名言っちゃってるじゃん」
「え? いいじゃん……もうバレてるんだし」
「うっ」
そうだった……俺、本名バレてるんだった……。
「てなわけで、今日はカメラマンの蓮君にも配信に出てもらってまーす! みんなよろしくねー!」
〈コメント欄〉
:名前呼び……?
:殺す
:絶対許さん
:覚えておけよ! ちょっと若くて強いからって……!
:なんか、負けた気がする……
なんか……コメント欄が大変なことになってないか?
大丈夫だよな?
明日、ヤバい人たちに襲われたりしないよな?
すると、花火が何かを思いついたように、顔をパアッと明るくさせた。
これは不味い。悪い考えを思いついた顔をしている。
「ねえ蓮君……折角だし、一回戦ってみない?」
「はい?」
「いやさ、視聴者さんって蓮君の強さをあんまり理解してない気がするんだよね」
理解してない?
別に俺は強さを見せびらかしたいわけではないのだが……。
「い、いや別に大丈夫だけど」
「いやさ、視聴者さんって蓮君の強さをあんまり理解してないがするんだよね」
花火はさっきと同じトーンでそう言う。
あ、あれ? おっかしいな? 会話が成立してないんだけど
「もしや、これってゲームでよくある『はい』を選ぶまで先に進まない系の選択肢だった?」
「よし! じゃあ早速、モンスター探しに行こっか!」
「『はい』すら言ってないんだけど?!」
花火は一方的にそう告げると、ずんずん先へ進んでいく。
〈コメント欄〉
:なんか、尊い
:え、いつもこんな会話してるの?
:なんだろう、国宝に指定して正倉院に飾りたい
:あれ……? おかしいな
「おっ! あそこにいるのって赤竜じゃない?」
花火が指さした方向には全身を赤い鱗に身を包んだ竜がいた。
「赤竜か……」
火竜……竜種として最もスタンダードなモンスターだ。
討伐推奨ランクはSS級。
SS級モンスターは、S級モンスターの2倍程の強さと言われている。
〈コメント欄〉
:え?
:いやいや、無理だろ
:ヒバナでも少し本気出さないとダメなレベルじゃないっけ? SS級って……
:SS級は無理でしょ
:いくらカメラマンが強かろうと、それは無理だろ
「ギャオオ……」
赤竜は俺に気づくと、威嚇するように口を大きく開く。
「はあ……仕方がないな……カメラをお願いしてもいいか?」
「了解〜!」
俺はカメラを花火に渡すと、軽く肩を回す。
久しぶりに両手を使えるのだ……なんだか、少し楽しくなってきたな。
〈コメント欄〉
:え、大丈夫なん?
:流石に……
:¥10000 お願いです! これで止まってください!
:面白そうだから、是非ともやってくれ!
「ふぅ……」
俺は深呼吸をすると、赤竜とジッと睨み合う。
最初にその沈黙を破ったのは――俺の方だった。
「〈短転移〉!」
俺は〈短転移〉を使い、赤竜の目の前に転移した。
「ギャオオオッ?!」
一瞬、驚く赤竜だが……流石はSS級モンスター。
すぐさま、俺に噛み付こうと口を大きく開く。
来た。狙い通りだッ!
俺が赤竜に噛みつかれるギリギリの瞬間――
「これでも喰らえッ!」
俺は赤竜の口の中に、剣を突き刺した。
赤竜はその鱗がとても硬く、中々攻撃が通らないことで有名だ。
ならば、口の中を攻撃すればいいだけである。
必要なのはギリギリを見極める目と、少しの勇気だけ。
「ギャオオオ……ッ!」
火竜は痛そうに、後ずさる。
俺はその隙を見逃さなかった。
「〈断裂〉〈断裂〉〈断裂〉」
3連続の断裂によって、赤竜の首には赤い線が走り……ボトリと首が落ちた。
そして、光の粉になって消えていった。
〈コメント欄〉
:ん?
:あれ……?
:何が起きた?
:死んだ?
:え?
:は?
すると、コメント欄は困惑の声で溢れかえっていた。
あれ……? 要望通りに倒しただけなんだけどな……?