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ダンジョン配信者のカメラマンの成り上がり〜事故で実力がバレた俺は『影の最強』と言われてバズってるんだが?!〜  作者: わいん。


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閑話 花火と蓮の出会い




《前書き》


 そこそこ重めです。


 この話を読まなくても、この作品は楽しめるので、重い話を読みたくない方は飛ばすことを推奨します。



 一応、次話に、簡単にこの閑話の概要は書いておきます。



 ――――――――――――――――




 私――花火と蓮が出会ったのは2年程前のことだ。




 葬式会場にて――


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 私は冷たくなった親友の手を握りながら、膝から崩れ落ちていた。


「私がちゃんとしてなかったから……油断してたせいで……」


 自然と溢れ出た涙で、視界が歪む。


 この亡骸は()()()()()()1()()()()()()()である絵梨のものだ。


 先日潜ったダンジョンの深層にて、突然現れたSSS級モンスター――毒竜。

 毒竜は『死の竜』とも呼ばれ、数多くの探索者を死に追いやっていた。


 それは……私たちも例外ではなかったのだ。


 毒竜が持つ最強技――『死のブレス』。

 ブレスに触れたものを容赦なく即死させる恐ろしい技だ。


 絵梨は、そのブレスに当たりそうになった私を庇い――ブレスを正面から喰らってしまった。


 その後、なんとか毒竜を倒すことはできたものの……絵梨はそのまま、息を引き取ってしまった。


「ごめん……絵梨……」


 私は、自分よりも弱いはずの絵梨を守れなかったどころか、庇われてしまったことに酷い無力感を感じていた。


「本当に……ごめん」


 私は最後にそれだけ告げて、ふらつく足取りで葬式場を後にした。


「どうしよう……これから」


 私は夜の街を歩きながら、呟く。


 絵梨が死んでしまった以上――ヒバナは成立しない。

 もう解散だ。


 じゃあ、これから何をしていくか。


「……はあ」


 それを私に考えることはできなかった。


 疲れた……全てに疲れた。


「なんで生きているんだっけ私……」


 その瞬間――自分の中の何かが崩れる音がした。












 気付けば、 私は交通量の多い道路に来ていた。


 私はあの世への階段を登るかのような気持ちで歩道橋の階段を上がっていく。


 こんなところから、飛び降りても私は死ねないかもしれない。


 ――けど、私はこの無力感をどこかにぶつけられずにはいられなかった。


「……ふぅ」


 私は深呼吸すると、手すりに足をかけ――


「――止まってくれッ!!!」


 飛び降りようとした時……誰かが、そう叫んできた。


「だ、誰ッ?!」


 振り返ると、そこには中学生くらいの1人の少年がいた。


 少年はこちらに駆け寄ると、困惑している私のことなんて気にせずに手を引っ張る。


「な、なんなの?! 君?」


「通りすがりの中学生です」


 ふざけてるのかな?

 そんな見ればわかることを、訊いてるわけじゃないんだけどな……。


 ……もしかして、私のファン?


「……なに、私のファンなの?」


「いいえ、通りすがりの中学生ですけど」


「はあ……?」


 なんなの……この子。


 正義感で私を引き留めてきたようにも見えるけど……それにしては何だか、変な《《歪み》》を感じる。


「それじゃあ……手を離してもらってもいいかなー? 私が何をしようとあなたには関係ない――」


「嫌ですけど」


 まだ、人が話してる途中なんだけど……。


「人の話は最後まで聞こうか?」


「すみません、長くなると思って」


「マジでぶっ飛ばしてやろうか?」


 なんだこの子。


 どうしてこんなにも……飄々と、淡々としているの?


 私が言うのも変だと思うけど……もっと取り乱すものなんじゃないの?


「まあ……俺はファンじゃないですけど……あなたが最強の女子高生って呼ばれるくらい強いダンジョン探索者であることは知っています」


「……で?」


「なので俺を鍛えてください」


「ごめん。意味がよく……いや、だいぶ、わからないんだけど」


「そのままの意味ですよ。最強の女子高生なら、俺を強い探索者に鍛えることも、できるんじゃないのかと思って」


 ど、どういうこと……?


「……気づいてると思うけど、私は今、死のうとしてるんだよ?」


「だから頼んでるんです」


 少年は即答した。


 ……そうか。

 つまり、死ぬならその前に鍛えてくれって言いたいのか。


 なんて傲慢で……ふざけた態度だろうか。


 そんなの、引き受けるわけがない。


 私は雑にあしらうことにした。


「ダンジョンって簡単に死んじゃうくらい危険なんだよ? 絶対に両親も友達も悲しむよ?」


「大丈夫です。母さんは廃人ですし、父さんは死にましたし……心配してくる程の友達はいませんので」


「っ……?!」


 私が驚いたのは彼のその言葉に対してではない。

 こんな時でも淡々としている彼に、だ。


 まるで『仕方がない』と言いたげな様子だった。


 こんなのが中学生……? どうなってるの……?


「……そ、そもそもダンジョン探索っていうのは最初のギフト検査で良いギフトが発現しないと上を目指すことすら許されないような才能至上主義の世界なんだよー? もし、君に良いギフトが発現しなかったらどうするのさ」


 そうだ、ダンジョン探索は残酷な世界なのだ。


 きっと才能が無ければ諦めてくれるはず――。


「死にます」


「……は?」


「死にます、そのために俺もここに来たので」


「っ……ははっ……」


 私は乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。


 彼のその目を見れば、その言葉が真実であることはよくわかった。

 彼は本気で死にたがってる。


 なんなのさ……覚悟決まりすぎでしょ……。


 ほんっとうに――


「……馬鹿でしょ」


 私は小さく笑った。






 ――――――――――――――――




「それで……君のギフトは〈空間魔法〉と〈俊足〉の2つねぇ……」


 ギフトの検査場で、私は深いため息をついた。


「なんでダブルギフテッドな上に、レアなギフト手に入れちゃうのかなぁ……難癖つけようと思ってたのに、難癖のつけようがないじゃん……」


「レアなのか?」


「うん……でも、宝くじで100万円を当てるくらいかな……訓練を怠っていたら晩年B級で終わるくらい」


 ただし、訓練を怠っていたら、だ。


 ちゃんと地道な努力を続ければ――S級探索者だって、夢じゃないくらいのポテンシャルを持っていた。


「頼む! ……だったら、なおさら俺を鍛えてくれ……お礼なら何でもするから」


 彼は深く頭を下げてきた。


 どうやら、希望を見出したようだ。


 なんと言うか……少し羨ましい。


「……なんで、そこまでして探索者になりたいの?」


「自分が嫌いだから」


「ふぅん……それで?」


「夢も取り柄もなく、平凡に生きていく自分が嫌いなんだよ……! だから俺は自分を変えたい」


 自分を変えたい……ね。そんなの――


「――変わらないよ」


 私はそれを知っていた。


 例え、S級探索者になったとしても。

 いくらお金を手に入れても、名誉を得ても……。


 簡単に自分は変わらない。


「そんなのただの幻想だよ? そんなんじゃ、あなたが探索者になっても何も変わりやしない」


「……そ、それは……」


 実際に私は変わらなかった。


 私は悲観的な自分を変えたかった。もっとポジティブで、自分に自信がある人間になりたかった。


 だから、探索者に――ヒバナになったけど……性格は全く変わらず、親友を失っただけだった。


「君の勝手なエゴに私を巻き込まないでよね……じゃあね」


 結局……時間の無駄だったな。


 私はため息をつき、立ち上がった。

 が――


「待て」


 私の手は、強く引っ張られた。

 またか……!


「――変わる……探索者になれば俺は変われる」


「だから、変わらないって言ってるじゃん! S級探索者になった私が言うんだよ?」


「本当に変わってないのか? 本当の本当に探索者になる前となった後じゃ、何も変わっていないのか?」


 だから、変わってないって言ってるじゃん……!


 しかし、その時、絵梨が昔、言っていた言葉が脳裏によぎった。


『私……変わりたいの。花火みたいな勇気ある人間になりたいの……!』


 そういえば……絵梨は変わったかも。

 元々臆病だったのに……勇敢にモンスターと戦うようになって、最後には死をも恐れず私を庇った。


『人は変われる』……それが私には絵梨から最後のメッセージに思えてしまった。


「だ、だとしても私にメリットがないじゃん! それは君のエゴに過ぎないよ……!」


「――あります! メリットはあります」


「……何?」


「俺を鍛えてくれれば……俺はあなたを理想の自分へ変えてみせます!」


「っ?!」


 私を……変える?


 今まで変えようと努力しても無駄だった私の性格を変える?


 無謀だ。無根拠だ。何より――無責任だ。


「もしも、私の性格が変わらなかったら?」


「俺の全てを使って償います」


 ジッと彼は私の目を見つめながら、そう告げた。


 こんな話なんて断って、自殺してしまった方が楽になれるだろう。


 でも……私は希望を持ってしまった。


 希望と自信に満ち溢れた彼の力を借りれば、私も――絵梨のように変われるんじゃないかと思ってしまったのだ。


「……嘘はついてないよね?」


「はい……嘘なんてありません」


 私は彼の目をジッと見つめる。


 彼の目は意味がわからない程、自信に満ち溢れていた。


「約束……だからね?」


 彼の自信に私は魅了されてしまったのか……私は自然と、そう言っていた。


「じゃあ――ッ!!!」


「鍛えてあげる。容赦なんて絶対にしないから覚悟しなよ?」










 それが私たちの出会い。


 どうしようもない人間とどうしようもない人間の出会いだ。




 それから、1年半後――蓮はS級モンスターをソロ討伐できる程に強くなった。


 そして、私は彼のおかげでポジティブな人間になることができた。



 ……その結果、視聴者に『狂人』なんて言われるようになったのは少し癪だけどね。


 

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