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追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~  作者: 松ノ木るな
【 第八章 】 同じ思いを抱いている

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② 急に混浴だなんて!!

 機嫌よく滞在先に戻ったアリアンロッドは、部屋でひとり落ち着いて考えごとをしていた。

 「またいらっしゃった折には」の言葉で思い返した。もはや自分がここを訪れることもないのだと。


 命の期限まで長くて1年半といったところ。実際、大聖女の披露目など無意味なのだ。すぐに隣国の王、ユングの君臨する土地となるのだから。

 かといって、残りの時に経験することをすべて無駄だとして過ごすのも、また違うだろう。命は元より有限なのだから、1年半が無駄だというなら人生の総時間40、50年だって、同じく無駄である。


 アリアンロッドは、滞在部屋から望む木々や草花、空舞う鳥や飛び交う虫の、それぞれに与えられた流れる時間を、感じ取ろうとした。


(最後の時まで変わらず過ごしたい。私にとっての「日常」を。)


 しかし、その時が迫れば迫るほど、日々を当たり前に過ごす、平静な自分でいられるだろうか。とてつもない不安が押し寄せてくる。


「入るぞ」

 アンヴァルが返事を待つことなく入室してきた。

 彼は最近たまに目にする、気になるアリアンロッドの表情というものがある。なまじ共に過ごしてきた時間が長いと、勘付いてしまう。

 彼女は重苦しい何かを抱えている。なのにそれを分かち合うつもりはないのだ、と──。


「急に入って来ないでよ」

「悪い」

「どうしたの?」


 アンヴァルは、下の者がまた住民から連絡を受けたと報告する。街はずれの森の中に温泉があるようだ。他に近場で湧き出たものがあり、今では滅多に使われなくなったところなので、一行にどうかと。多少不便だが、それは洞穴の中に湧き、静謐(せいひつ)で趣ある風情らしい。


「行きたい!」

「そう言うだろうと、兵に下見に行かせた。明日には入りに行ける」

「大きなお風呂、久しぶり」

 アリアンロッドに笑顔が戻ったので、アンヴァルは嬉しかった。





 そこは触れ込み通り、森の奥に位置する、洞穴に湧く温泉だった。浸かりながら外の緑が見えるのだが、アリアンロッドの入浴の際には衝立(ついたて)が置かれているのであまり、といった様子。衝立の向こうにはアンヴァルと侍女が控えている。


「あ~~、いい! 生き返る~~!」

 ばしゃばしゃと羽を伸ばし放題のアリアンロッドだ。お湯を掻いたり、足をバタつかせたり、バスタブではできないことを存分にやっている。


「良かったな。はしゃぎすぎてのぼせるなよ」

「うん。本当に気持ちいいよ。ヴァルもどう?」

「ん? …………」

「……あっ、一緒にじゃなくて! 後で! 私が出た後でよ!」

「っそんな勘違いしてねえよ」


 こんなことで赤くなっているふたりを、また兵士のみんなに見られでもしたら、悶々とさせてしまうだろう。

 勘違いで恥ずかしくなったアリアンロッドはまたひとり、物思いに(ふけ)っていたのだが、ここでとうとうあれを感じてしまった。

「っ……」

 神の気まぐれの風を。


(ど、どうしよう、こんなところでっ……)

 周遊の途中なのだから、ちょうどよく帰ってこられればいいが、そうでなければ大勢に迷惑がかかる。不在の間、アンヴァルがごまかすのも難儀だろう。

 しかしそんなことを考えていても仕方ない。まず彼を呼ばなくては。


「ヴァ……っ」

 いったんその声を飲み込んだ。

「…………」

 一瞬で青ざめてしまった。

 今、自分は全裸なのだ。


(……とはいってもやっぱり呼ばなくちゃ!)


「ヴァル、来て! ……うっ」

 湯に浸かっていても身体が冷えていくのを感じ、思わず自身を抱きしめる。


「だからお前、そういう冗談を……え、まさか」


 彼は急いで衝立の向こうにまわった。

「アリアっ……」


 だがもうそこには誰一人存在せず、

「アリア……」


 もう一度小さく彼女の名を呼んだが、もちろん返事はないのだった。




◇◆◇



 アリアンロッドは目を開けた。自身の二の腕を両手で掴んだままの体勢で、あい変わらず湯に浸かっている。

 顔を上げても湯気で先がよく見えない。しかし少しの風が吹いてくると、湯気もだんだん飛んでいき――――。


「……あら?」

「…………ん?」

「…………えっ」


 目に入ってきたのは、上半身裸の男。

 金の短髪で目つきの鋭い大人の男が、泉を囲む岩に肩を広げもたれかかっている。

 彼の後ろの景色は、洞穴の入り口だ。アリアンロッドの目に、明るい外野の茂る緑が映る。

 そして、この男も表情が固まっている。突然奥に女が現れたのだ、度肝を抜かれただろう。


 ところで、男の上半身が裸、というが、湯に浸かっているわけなので、つまり。


「~~~~~~~!!」

 アリアンロッドの叫びは声にならなかった。


「女……? いつの間に入ってきたんだ?」

 男は後ろの入り口を振り返った。何も変わった様子はない。彼は訝しげに、薄い湯気の中のアリアンロッドを再度見つめる。


「そ、それ以上近付いたら、舌を嚙んで死にます!」

「はぁ?」


 突如現れた女が、なにやら怯えていることは分かったが、男は近付くも何もその場からまったく動いていないし、先にいたのは自分だと理解している。


「後から入ってきてそれはないだろう。お前、接待の女じゃないのか?」

「せっ……?」


(ええええーっと、落ち着いて、状況を整理しよう……)

 アリアンロッドは自分が神隠しで飛ばされたことを自覚した。更にその場は元々いた温泉と同じ処だということも。

 しかし、どうすればいいのか。全裸の男が立ちふさがる。いや、“浸かり”ふさがる。

 ともかく、胸の聖痕をひた隠すために背を向けた。


「そういう趣の接待にはあまり興味がない。もう良いから来いよ」


 びやっ…とおののいたアリアンロッドは、肩から少し振り向いて、首を小刻みに横に振った。

 湯の中にも関わらず青くなっている彼女の顔色を、男はまじまじと観察し、どうやら無関係の、ただの迷子らしいと思い至る。相手にするまでもないしもう出るか、と立ち上がった。


「!!!」

 アリアンロッドは大慌てで顔を湯に突っ込んだ。


「おいお前」

「~~~~!」

 苦しくなった彼女はすぐに顔を上げ、それから、目をつむったまま奥の方に顔を背ける。


「まさかここまで素っ裸で来たのか? ひとりで?」

「え、ええ……」

「着るものは?」

「……ない」

 男は、ふぅん。と行こうとした。


「あ、あの、布か何か……か、貸し……」

 彼を頼るしかない。

「待ってろ」

 男は外に出て、付きの女に指図した。


 少しの後、その侍女がアリアンロッドの元に持ってきたのは、十分に良質な衣服だった。身体を拭く麻布も渡され、アリアンロッドは温泉から無事出られることに。


 移動前、アリアンロッドがこの温泉に案内された時、近くに川が流れているのを見た。付きの女が言うには、彼女の主人は今、そちらで釣りを始めたとのこと。

 お礼を言うため、探しに行く。




「あ、あの……」


 川辺の岩に腰を据えている男は、声を掛けられ振り向いた。


「似合うじゃねえか、その服」

「あ、ありがとう。良いものを貸してくれて。ええと、お礼をしたいのだけど……」



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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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