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⑨ 女王様の命令だからね?

 アリアンロッドが目覚めたのは、翌日の昼時だった。

「ここは?」

「ご気分はいかがですか? ここは町のはずれの空き家ですよ」


 アリアンロッドにその居場所を教えてくれたのは、歌劇団の下働きの娘だ。歌姫ローズに世話を頼まれたらしい。

 彼女の言では、先に連れの男性が目覚め、さきほど裏の原っぱに散歩に出たそうで。

「私も行ってきます!」

「ええ、どうぞ。あ、ローズ様がおふた方にお礼をしたいと話しておりました。ですのでまた後ほど」

「は──い」



 アリアンロッドは野原の中で先代王を見つけ、走り寄った。

「おお、具合はいかがですか?」

「なんとか大丈夫です!」


 彼は膝をつき頭を下げ、巻き込んだことを謝罪した。

「あなたの命を危険に晒してしまった。まことに申し訳ない」

 そんな彼にアリアンロッドはしゃがみこみ、寄り添おうとする。

「頭を上げてください。あなたもですよ。この国に滞在中のあなたに何かあったら、外交問題になりますし……。どうしてあんな無茶を?」


「それはきっと、あの子が、私の……」

 そこで急に彼がうずくまった。


「どうしました!?」

「胸が……痛……」

「誰か呼んできますっ」


 そうアリアンロッドが立ち上がった瞬間、立ちくらみが起こる。彼のほうに倒れかけたその時、ほんの刹那の間に、彼女は例の異変を感じた。

「あ、これ……」




「うわぁぁ!!?」

 快晴の昼下がり、ただいま原っぱで腰を落とし休憩するアンヴァルの膝元に、人間がふたり突如、転がってきた。


 周りの兵士が、「隊長!? どうしたんですか!?」と駆け寄る。そこはアンヴァルの隊が演習している場だった。

 兵士たちは当然現れた、高貴な二人組に驚きを隠せず、ざわざわ騒ぎ立てている。


 鼓動のまだ速いアンヴァルだが、二人を認識したようだ。しかも彼らは怪我を負っている。即座に救護室へ運ぶよう周りの者に指示した。

 アンヴァルは演習中で知らされていなかったが、先代王の侍従が主人の行方知れずを騒いだことで、他の隊による捜索が行われているところだった。


 その後、彼は眠っているアリアンロッドの元へ出向き、「どこに行ってたんだ今度は」と頬をつまんで問いかけた。




 アリアンロッドが再び目を覚ましたのは、移動した日の夕方。本来ならディオニソスと忍びで出かけている時分であったが仕方がない。

 先代王も目覚めたと聞いたので早速、彼の寝室に走った。


「王様、やっぱり……?」

「ああ、夢から覚めたようだ。もう目は見えない。しかし本当にいい夢をみていた。あなたのおかげだ」

「夢じゃないですよ。火傷の跡も、ひりひり傷むでしょう?」

 先代王は納得したように微笑んだ。


 彼の寝室を出た時、待ちわびていたのか、廊下にもたれるディオニソスがアリアンロッドに話しかけてきた。

「君の怪我の具合は?」

「私はそんなにひどくないから。火傷も足に少ししただけだし」


 そうアリアンロッドが足の火傷を確認しようとしたら、彼は無言で彼女を抱き上げ、

「え? ん??」

 近くの一室に入り、大きなソファにゆっくりと下ろした。


「また無茶をしたのか? 跡が残ってしまうかも……」


 心配そうな声でつぶやき、その跡を確認するため、彼女のドレスの裾を持ち上げた。

 思いがけないことでアリアンロッドは、その胸の鼓動を速めた。

「ど、どーせお嫁に行くことはないんだから、跡なんかいくら残ったって平気よ」

「そういうことを言うなら……」

「へぇっ…? ひゃぁっ」


 あらわになった白い脚にのる、その傷跡を、彼が触れるか触れないかの微妙な感触で撫でてくる。アリアンロッドは更に恥ずかしくなり、それを隠すために虚勢を張った。


「聖女なんて本当に損な役! ……だけど折角ならここは、女王然と振るまってみましょうか」

「?」

「この火傷の跡、舐めて」

「は?」

「この国の象徴である、私の命令よ」

 顎を引いて、上目にディオニソスの目を見つめる。

 空間移動明けの妙なテンションで突っ走るアリアンロッドだった。


「なにか、教育上良くない書籍でも読んだのか」

「子ども扱いしないで!」

「こんなこと教えた覚えはないんだけどな……」


 彼のそのげんなりした顔を見て少し冷静になり、アリアンロッドはだんだん不安になってきた。はしたないことを言ってしまったと。

 しかし、冗談だって言わなきゃと口を開いた瞬間、彼がひざの裏をドレスの布越しに少し持ち上げ、顔を寄せてくるのだった。


────え? ほんとに? ほんとに??


 アリアンロッドが焦りに焦るその時、ガタッと戸が開き、こんな賭け声が。


「ディオニソス、ここにいるのかな? 歌劇団の舞台の日取りなのだが──」

「「「!!?」」」

 この場の三名が目をひん剥いた、同じ顔をしている。

 やってきたのは国の王。つまりはディオニソスの父であった。


 王笏が王の手から落ち、カラン……と落下音が響いた。

 息子の顔のすぐそこに聖女の下半身がある、いかにもな体勢のふたりが、たったいま目の前に。


「う? ううん? あれ? 衣服は着ているかい?」

「「き、着てます! ほら、着ています!!」」


 あくまで怪我の様子を見ていただけだと説明し、ディオニソスは事なきを得た。

(ふふっ……可愛いディオ様)

 アリアンロッドはこんなにも慌てた彼の姿を初めて横目にできて、結果的には満足だった。


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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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