パンとサーカス
局にはすごい数の反響が即座にありネット配信のサーバーはダウンした。
TV放送は予定時間を変更し延長した。
安芸アナはサーバーダウン前の情報を元に視聴者からの質問に答えることとなった。
「合成かそっくりさんやろ」冷やかしの質問にたいしてはっきりと「生映像、生配信です。そのためにライブ会場の中継を行っております」
「さやかさんって85歳くらいではなかったでしょうか?」安芸アナは「私だって信じられません。どれほど若く見えても、ご記憶の通りです」
「整形ですか?」・・・少し間を置き「私には判りません。ですがあれだけステージ上で飛び走る。ライブ衣装も全盛期を彷彿とさせ脚線美を見せられて
正直女性として羨望を隠せません。」安芸は涙を浮かべ始めた。
「最後によろしいでしょうか。」安芸は番組を締めに入る。
「お疑いの方、疑問に思う方が多数かと思われます。アマダ製薬の治験を受け2か月後の姿です。時間です失礼し」放送は言葉途中にアマダのCMへと切り替わった。
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一夜にして「さやかはセイレーン」と呼ばれることとなる。
「ディーバ」と呼ばれなかったのは過去に数多の浮名を流したゆえか。
彼女の姿を見た者はだれしも衝撃を受けた。
高齢者は若さを求め、女性は美を求め連日国会前でデモを行う。
「デモするほど元気なら国会で働けよ」皮肉交じりに官房長官はデモに参加している野党議員を皮肉った。
国会では万年反対野党の議員さえも早く認証を求めるありさまだ。
「総理、ソーリーと」捲し立てる姿は滑稽で、我こそは民意と言わんばかりに一般接種を要求した。
一部の与党議員からは、慎重論と不要な前例を作るなと戒めたものの
「自己責任と接種費用の100%自己負担、60歳以上」の条件付きで治験も早々に切り上げ、異例の速さで特例承認され国会は閉会した。
国民が望む政策ゆえの承認に厚生省はほくそ笑んだ。
連日取り上げるメディアの放送に慎重論のかけらもない。
それゆえに街頭インタビューの声も早く導入してほしい」と言った声しか上がらなかった。
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臨時招集された国会では、現役閣僚以外全て別人の様に見える。
そのうちの一人、元グラビアアイドルの国会議員は若さを取り戻し、肌艶良く、漆黒の髪はフサフサとしキューティクルの輪が輝いている。
60歳以上を条件とした接種だが、40代50代の議員が若々しい姿で登場する様にマスメディアが年齢を指摘することはなかった。
メディアの論調は「副作用の懸念」より、国民の意思だとばかりに「早く打たせろ」と欲望丸出しでしかない。
ただ一社だけ「現役国会議員が進んで臨床参加」と皮肉っただけであった。
どんな皮肉を受けても元グラビアアイドルの国会議員は、どこ吹く風であった。
野党の一議員でしかない彼女はこの時ほど、法律は為政者の為にあると思ったことはなかった。。
若い頃はチヤホヤされ、政治の世界に転身してからは「客寄せパンダ」を演じ、薹が立ってからは身の引き方を模索していた。
それが今や若さを取り戻し、手放さないため事だけを考えていた。
その為にはどうすれば良いのか。
その答えが「パンとサーカス」だった。