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目覚め

一人語りを聞いてほしい。

僕は、相馬 満。つい先ほどまで深い眠りについていたんだ。

交通事故に巻き込まれて意識を失った・・・・

うん。今さっき目覚めてから、看護師の高梨さんから聞いたばかり。

だから覚えていることは眠る前の曖昧な記憶。

そう、確か・・


一人っ子だった僕は京都にある国立大学の医学部に合格し、あこがれだった中山伸弥先生の研究グループに入って

未来の未知の医療を切り開くことを夢見てたんだ。

先月末に名古屋から京都の平安神宮の近くへと引っ越しした。

ランニングで毎日が始まる。御所、二条城と経由して約10km。

新緑を感じながら裏道を気ままに細かなルートを定めずに走る。

気が向くまま御池通りを過ぎ川端通りへ向かった。

信号が変わり横断歩道を渡り北に向かう。

僕の記憶はそこで途切れた・・・。


交通事故の死後は「異世界転生」がお約束のはずと何度も読んだネット小説。

首から下が思うように動かない現実。

入学前に「死んだらドナー登録と検体の申請」してたけど、あれがきっと死亡フラグならぬ「寝たきりフラグ」だったんだ。。


-----


目が覚めてからの数日は、身体機能の確認や検査ばかり続いた。

山下先生曰く、「ずっと寝てたから体が動かし方を忘れている」だけとの話。

山下先生は担当医で見た目30代の男性。だけど実年齢88歳って信じられないや。

今の再生医療は素晴らしく、肉体の欠損も自己細胞の増殖で補完できるそうだ。

今までも結構手厚く面倒を見てもらってた。いったいどれだけ医療費かかかってんだろ俺。

親父は医薬品会社「アマダ製薬」の創業者。マネーパワーで延命した俺の知ったことじゃないか。

午後の問診が終わり、部屋を看護師さんが整えに来てくれる。

何もできない僕にとっての唯一の楽しみ。

彼女が僕の担当看護師の「高梨 緑」さん。あ、高梨さんて、とても綺麗な看護師さん。

「今日はね、いいお知らせがあるのよ」彼女は、モニターを確認しながら伝えてくれた。

「御実家と連絡が取れて近々ご家族が会いに来てくださるって」話ながら脈や体温を確認していく。

赤い眼鏡に髪は薄いブラウンでショートボブ。近づくとかすかに花の香りが漂ってくる(気がするだけかもしれない。)

身長160センチ位で、白衣に身を包んでいるがキュッキュッって感じで自己主張が激しい。

自己主張の激しい白衣の胸元にはIDカードが襟元からぶらさがっている。

僕の視線はIDカードに注いでるんデス。決して胸元じゃないデス。気づかれたかな?

「何年も寝てたんだから家族はいないものとあきらめていた」僕はそうつぶやくと

高梨さんは、クスッと笑いながら、「相馬さんは知らないだけで、モニターでご実家とはつながっていましたよ」と教えてくれた。


しかし、驚くことばかりだ。

浦島太郎ってこんな気分だったんだってマジ実感した。

「新聞や雑誌って読めないですか?」高梨さんにお願いしたところ

「紙媒体の発行は何年も前に廃止されて端末で入手できますよ。」

彼女はそう答えると、高梨さんは近づきながら掛けていた赤い眼鏡をすっと外す。

「フレームはちょっと合わないかもしれないけれど我慢してね。」彼女は僕に眼鏡をかけてくれた。(やっぱりイイ香がする・・バラかな?)

焦点の合わないメガネを掛けて2・3秒で見え・・・エー

「どう?見えてるかな?虹彩パターンを登録していないと国のポータルサイトまでしかつながらないけど」

マイナンバーを登録する時代から進んだものだ。生体データを登録しないとインターネットに繋ぐこともできないらしい。

確かにこれなら成済ましの書き込みや、イジメ、誹謗中傷は減るだろう。

「どうすれば登録できますか?」

・・・・

それからは、自分の記憶の欠落を補うためにデバイス(眼鏡)より情報を入手することで必死だった。


タブレットの他、眼鏡型デバイスやコンタクトデバイスはハンドフリー。

人によってはインプラントなんて選択肢もあるみたい。

眼鏡で充分デス。空白を埋めるべく検索につぐ検索。

国内サイトしか接続はできなかったが情報を得るには充分に役立った。

「へえー」

「へえー」

「ほー」

そんな中で知った知識は、僕の18年を無にする程の技術革新と発展だった。


観察することで知識と現実のすり合わせをしていく。

例えば、僕の受験当時の日本は、超高齢化社会で、少子化で、移民を受け入れてて、だから外国人がもっと多いと思っていた。

この病院で見かける先生や看護師さんはみな若くて、日本人しか見かけなかった。

その謎もすぐに解けた。


再生医療の進歩が、初期化した細胞を増殖させることで疑似的な若返りを可能にしていた。

だからあんなに山下先生も若々しかったのか。。。見た目以上の年齢らしい・・・(ノーベル賞ものだろ)


僕の体だってそうだ。

ずっと寝ていたせいか身体は思うように動かないが筋肉が落ちた感じはあまりしていない。

身体機能維持も技術進歩し、身体に微弱な電流と磁気で筋肉を動かし維持してたようだ。

8畳程の白い壁に囲まれた空間のベットに横たわる僕と身体管理の為に計測していた医療機器の部屋の壁は液晶パネルで囲まれ「明るい日差し」が映し出されている。

ベッドはカプセル型で、中には粘着性の高い液体が充填されている。

電子カルテを手にした高梨さんがこれからの家族との面会日程について説明してくれた。

体はしっかりしているのに動かないのってストレスだね。

今まで微電流で強制的に刺激を与えていたためか思うように体が動かなくてとてももどかしい。

首から下が土に埋められた様な。。。本当に俺の体なんだろうか。不安だ。。


-----


明日が面会予定日。

高梨さんから「午前10時にご両親が面会に来ますよ~♪カプセル型のベットとも明日でお別れですね。

一般病棟に移られると何年も見慣れた寝姿を見られなくなると思うとちょっと寂しくなりますね。」と明るく告げられた。

きっと彼女なりのエールを送ってくれているのだと思う。


不自由ながら立って歩く程度に回復できた僕は毎日感謝の日々。

カプセル型のベットは、母体の体内環境に近づけることでストレスレスや再生速度の向上、肉体の保全効果があるらしい。

脳が仮死状態だと体も成長しないのだろうか?再生医療の進歩の賜物だと思う。

この部屋の壁も時間とともに日が昇り夜は星空が映し出され自然を身近に感じられる。

病室の環境とも思えない、そう大自然の中で昼寝している気分になれる。

永遠にこの環境に依存したい。充実した環境から抜け出す自信ないよ俺。


-----


日が変わり、食後直ぐに一般病棟の個室に移送される。

看護師の高梨さんに手を取ってもらい辺りをキョロキョロ、ドキドキしながらゆっくりと歩いていく。

いたいけな青年は年上女性に手を引かれてもときめくんです。

(なぜ歩くのかって?リハビリの一環ですよ。科学的進歩していないって突っ込まないでいただきたい。)

すれ違う患者さんに見た目の老けた方はひとりもいない。本当に若かった。

身体の部分欠損と思われる患者さんとすれ違ったときはマジびっくりした。

左手の肘の先に子供の手が生えていた。立ち止まり眺めていると高梨さんは「患部の腕先を培養層に浸して眠るの。再生した身体は能力が落ちているのでリハビリと交互にプログラムを組んでいるよ」と教えてくれた。

再生医療は想像以上に一歩も二歩も進んでいたようだ。


部屋を移り身だしなみを整える。

さすがに「あーんして」歯を磨くのに高梨さんが補助してくれるわけがない。

「リハビリですからねっ」と見透かされたかのように言われ早々と退出していった。

まあ、あと一時間近くあるか。といそいそとぎこちない動きで歯磨きする俺。

身支度を済ませただ待つだけでした。


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