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Fate of the Flowering Fairies  作者: ソナタ♪
第一輪:ユメヘノトビラ
8/11

8

「「「おやすみなさーい」」」




慣れない事をして疲れただろうという事で、ルフナ達新人チームの初日の夜警は免除になった


野営の場合、夜行性の魔物や盗賊の襲撃の危険があるので誰か一人は火の番として警戒に当た必要があるのだ

特に女性だけのチームとなると色々と危険も多い


ウバが補助を依頼をしたのも、ジンが異性との距離間を知っている歳の近い冒険者と判断出来たからなのだろう


尚、ジンとクロリスの夜警はお互いの負担を軽減するために交代制である

就寝から日の出までの時間を等分し、前半と後半に別けるのだ



また太陽の出入りを基準に分割して時間の概念を定めているため、季節によって時間変動が起こる

夏至に近い麦刈りの時期は昼が長く夜は短い

結果として睡眠時間が短くなってしまうため、この時期は早めの就寝が推奨される



朝食の用意もあり夜番後半の担当を買って出たジンはルフナ達と同じタイミングで就寝

彼はテントに戻らず近くの岩の上で寝袋に包まって既にくぅーくぅーと寝息を立てている



一人残ったクロリス

彼女は定期的に探査魔法『investiga - インヴェスティガ』を掛け襲撃を警戒しつつ、杖と共に祖母から引き継いだ魔導書に目を通す


厄介な事にこの魔導書は、クロリスの杖とその専用魔法について記述されている筈なのだが、多くのページが黒く焦げ落ちてしまっている

読めるページもあるのだが、虫食いと焦げによる欠損も多い

クロリスは時間がある時にその解読を行っていた 


ルリユール(再製本)を生業にする魔法使いはいるのだが、一点物の修復費用は推して測るべし


さらにこの魔導書は厄介な事に、杖の主以外の人間には全く別の内容が書いてあるように見える【情報漏洩防止の魔法】がかけらていて、他人が翻訳したり魔法で修復する事が不可能なのである



月による影が大きく伸びる


魔導書を読み、メモを取り、抜け落ちた文字の補間していると、あっという間に時間が経ち夜番の交代時間


引き継ぎ前の探査魔法に反応があった為、【人間の耳には聞こえない音】が出る魔物避けの笛を取り出し大きく吹き鳴らす


クロリスの耳には何も聞こえないが確かに鳴っているようで、息に反応している笛の振動が指先に伝わってくる


もともと焚き火が魔物避けになるのだがそれでも接近して来てしまう個体がいる

故に夜間の不用意な戦闘を避ける為にも必要な対策であった


間髪入れず使用した探査魔法には逃げ出していく魔物と思わしき影が映る

これで逃げない影があればたいてい人間であり、この時間に活動する不穏な人間は高確率で盗賊である


幸いにもそのような反応はなかった


そんな万能に思える動物避けの笛と探査魔法の組み合わせなのだが、問題点もある

探査魔法は魔力の逆探知も可能なので、盗賊に魔法使いがいればコチラの居場所を教えてしまう事になる


そして【人間の耳には聞こえない音】による魔物避けの笛は、


「ん〜。今日のは強烈だったな…」


耳の良い人間だと聞こえない音が聞こえてしまう可能性があるという事だ


今回新しく購入した笛の音も聞こえてしまったジンが、寝袋からクロリスに声をかける


「…えぇ?そんなに??やっぱり駄目ね、安物は」

因みに聞き取れた笛は今回で6本目になる

ここまでくると価格の問題ではないように思える


「まあでも、あの三人には聞こえていないみたいだから」

駆け出し冒険者三人のテントを見ても、起き出してくるような動きはない


「魔物への効果は問題無かったんだろ?」

「…たぶん兎角(トニカク)でしょうね。探査魔法に素早く逃げる影が見えたわ」

脱兎とはまさにこの事


ふと、ジンはクロリスから疑惑のジト目を向けられている事に気がつく


「な、なんだよ?そんな目で見て」


「…ねえ、本当は魔物が化けてるんじゃないの?」


突拍子もない疑いをかけられるジン

もちろんクロリスの冗談であり、彼女の表情とは裏腹に口調には誂うような響きがある


「俺が人に化けてる魔物ってか」


「…だって魔物にしか聞こえないはずなのに、前の笛も うるさい って言ってたじゃない」


「そうだけどさぁ〜。それならもっと早い段階で襲ってる筈じゃないか?」


戯けて『がお〜』と爪を立てる魔物のようなポーズをしてみせるジン


「…正体を現したわね。退治しなきゃ」 



そんなジンにクロリスはわざとらしく杖を構えてみせる

そして目を見合わせた二人は、一瞬の間の後に吹き出し、クスクスと笑い合う




「おやすみなさい」


「おう、おやすみ」




夜番を交代しクロリスがテントに向かう

ジンによって焚き火に焚べられた枯れ枝が、パチッと火の粉を星空に飛ばす


【デュークグラークス(公爵ミミズク)】の声が森の方角から響き、流れ星と共に星空に消えて、深夜が朝に向かって歩みを進め始める




聖職者の朝勤めを知らせる鐘が、日が昇る前に鳴り響く


時を同じくして、パン職人が焼き方を始め、酪農家がヴェーゴの乳を搾り、

日が昇り、

鳥が朝を伝える歌をうたう頃には、それらはもう朝市に並んでいるのである


今も昔も、恐らく未来も変わらない、普段通りの朝


冒険者の朝も早い


しかし移動が多く、夜行性の魔物を避ける為に明るくなるまでは大きな行動を控える事になる

それ故、上記のような生活をしている人々からは「怠け者」と白い目で見られてしまう

また荒事を請け負う事も多い為に「ならず者」扱いを受ける事もある


商工会の努力で不誠実な「社会不適合冒険者」が弾かれるようになったとはいえ、冒険者の社会的な地位はまだ低い位置にあると言わざるを得ないだろう



その一方で、冒険者向けのものが新たな文化として流行る事もある


それは【バーガーサンドの食べ歩き】である


本来ならば椅子に座りナイフとフォークで食べる食事を、時間短縮の名目でパンに具材を挟み移動しながら食べる


それは冒険者らしい行儀の悪い食事ではあるのだが、とある街の屋台が観光客向けに特産品を使ったバーガーサンドを売り出すと、貴族平民問わず若者に大流行したのであった


朝霧に包まれたツッカー平原の中央

テントを撤収した拠点に残るのは焚き火を埋めた跡


そこからマルヘラの森までの道を、5人の若い冒険者が兎角肉のバーガーサンドを頬張りながら歩く


それは新しい時代の冒険者の姿と言えるだろう



普段通りのクロリス、そしてジン

ジンに朝稽古をつけてもらいご機嫌のルフナ

朝が弱く半分寝ぼけ(まなこ)のミヤとマヤ


5者5様の朝の様相ではあったが、それぞれのペースでバーガーサンドを食べ終わった頃にはマルヘラの森の暗い入り口が姿を現す


マルヘラの森は、古語であるマルヘラの意味の通りの暗く深い森である

原初の精霊戦争で焼け落ちる事無く残った【いにしえ】の森で、ツッカー平原とはまた別の態系を築いている


「…さあ起きて。またジュレが出るわよ」


チームが森に入る準備をする中、まだ眠いのか「もたもた」しているミヤとマヤにクロリスが言葉の冷水をかける

双子はビクッと肩を震わせた

その効果は絶大でその眠気はどこかに吹き飛んでいったようだ


「ジュレ?昨日あんまり細かく聞いて無かったけど、何かあったの??」


モーニングスターの錘の鎖を短いものに変えていたルフナが小首を傾げる




ーそれは昨日の事


『…あ、上に気をつけるのよ』

『『うエ??』』

クロリスの突然の注意に思わず見上げる双子

ヒュ〜…べちゃり




そんな喜劇があれば台本の通りであろうタイミングで落ちて来たジュレが、双子の顔を覆ってしまう


『…だから言ったのに。あ、そのサイズから討伐対象よ。覚えておいてね』

『『モゴモゴモゴ!?』』




「あれハ怖かっタ…」

「死ぬカと思っタ…」


何かを思い出したミヤとマヤは涙目であった

嫁氏との共同制作です

noteとpixivにも公開中

コチラは嫁氏の手描き挿絵が付いています


note(本人アカウント)

https://note.com/sonate


pixiv(嫁氏アカウント)

https://www.pixiv.net/novel/series/12329720

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