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「魔法による加熱」の方法は大きく分けて二種類ある
1つは魔術における四大元素の1つである「火」
精霊や魔力を用いて自然現象の燃焼を再現したものである
故に雨天下や水中でも火を起こす事が可能なのだが、継続して燃焼を起こす場合には魔力コストが高い
ただ瞬間的に使う分には少量の魔力で済む為、焚き火の際の簡単な種火として広く使用される
もう1つは魔力で加熱対象の構成する分子を強制的に振動させ「物理的に加熱された状態」にする方法である
こちらは対象に直接作用させる為に継続使用しても魔力消費が少なくて済む
その一方で対象の素材特性(作用する振動)を理解していないと難しい
要するにツボを押さえないと、どんなに魔力を送っても加熱されないのである
『開花』
クロリスの髪留めが呪文により杖に変化した
長く伸びた杖の先端に、透き通る結晶で作られた美しい花が咲く
杖の石突きに埋め込まれた魔石を押し当て、石の魔力伝導を探る
クロリスの眉が一瞬動く
どうやら普通の石ではなさそうだ
魔力の伝導が良すぎる
川の上流に天然魔石の鉱脈でもあるのか
過去に強い魔力に晒されたか
あるいは…
効率が良いなら良いで今は構わない
疑問をひとまず後回しにし、効率の良い魔術式を組み立てる
「…うん、出来た」
クロリスが石に魔法陣を描く
魔法陣に組み込まれた魔術回路が、込められた魔力に応じ石を振動加熱する
誰の魔力でも限定した効果を発揮するのが魔法陣の利点である
ミヤ、マヤ、クロリス、三本の杖が当てられ、魔法陣が光を放ち石が熱を帯び始めた
水路に置かれた石がその予熱で川の水を湯に変える
その湯に浸かったミヤとマヤが、湯気を上げる石を見て関心する
「精霊魔法デ熱くする方法しか知らなかったからビっくり」
「アタシたちも魔法陣を勉強しないとダね」
この二人は【天界人】の血を継いでいて、各々の頭からは天使や悪魔の翼を思わせる【擬角 - ぎかく】を覗かせていた
「天界人」という種族名は、大昔に他種族を知らなかった人間が彼等の姿を見て伝説や神話から名付けたもの
その特徴的な擬角は魔力センサーとして機能する
…ちなみに本当の「天使と悪魔」は別に存在していて、実体のない「幽霊」に近い存在であるらしい
しかし他種族との混血が進んだ現在は種族的な意味での「純血」は非常に珍しくなってしまった
実際二人も混血であり、その先祖の天界人も何代前かさえ記録に残っていないくらい大昔の話
混血の証明もその機能していない擬角の存在だけである
そんなミヤマヤの二人は攻性魔法の扱いに癖あるため今まで戦闘補助に徹していた
しかし今日はクロリスのスパルタ指導で慣れない攻性魔法を使い、トドメに石の加熱と、魔力も底を尽き果ててしまっていた
その結果として一番風呂の権利を得たのだった
ミィーー!
マァーー!
アタシもーー!
入るぅーーーッ!!
お湯に疲れを溶かされ腑抜けた表情を浮かべた双子に入浴を宣言する声
大きめのタオル一枚を身体に巻いたルフナが、日没を背景に川の土手の頂上に現れた
ルフナは崖のような土手の急斜面を一気にを駆け下り、そのまま河原の風呂まで突き進む
湿った川の石はいかにも滑りそうだが、その鍛えられた脚力により滑る前に蹴散らしている
いやそれ以前の問題として、
タオル一枚の姿での全力疾走な訳で、
タオルがヒラヒラして色々見えちゃいそうな訳で、
別の意味で非常に危なっかしい
もしこの場にウバがいたら
「年頃の娘がハシタナイ」
「もう子供じゃないだろう」
と大目玉間違いなしだろうが、残念ながら注意する者はココにはいない
いや、正確にはいたのだ
ハシタナイ姿で全力疾走するルフナを止めようと追いかけいたクロリスが、土手の頂上でぜぇはぁと息を切らしていた
追いつけなかったようだ
「ナハハハハハハハ!」
勢いを殺さず、そのまま走り幅跳びの要領でルフナが笑いながら大地を蹴った
空中で身に纏っていたタオルを器用に脱ぎ捨てる
もう絵面が危ないを通り越してアウトなのだが、
夕闇が、湯気が、彼女の生まれたままの姿に絶妙な具合で影を付ける
グッジョブ b
そして浴槽から大きな水飛沫、この場合はお湯飛沫と言うべきか、があがった
「ルゥー、セマいよー」
「アタシたち、もうあガるよー」
「昔からの仲だから別にいいじゃ〜ん。少し一緒に入ろうよぉ〜♪」
わちゃわちゃ芋洗い状態とはまさにこの事
そしてこの若干噛み合っていない会話は、この三人の日常であった
「…ちゃんと…身体を…洗いなさい…」
急斜面の土手を迂回し急いで降りて来たクロリスが、肩で息をつきながらようやくルフナに注意をした
嫁氏との共同制作です
noteとpixivにも公開中
コチラは嫁氏の手描き挿絵が付いています
お風呂回ですw
ひん剥きました、後悔はしていませんw
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