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Fate of the Flowering Fairies  作者: ソナタ♪
第一輪:ユメヘノトビラ

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16



日が昇る前。

一番鳥の鳴き声に、森の広場に張られたテントが揺れる。


身支度も早々に、ジン達は手早く荷造りを始めた。

朝露に濡れたテントの帆布は案外重い。


一流の旅人は、ロウソクの一本が燃え尽きるまでに旅支度を終える。

移動距離を少しでも稼ぐためだ。

そして、ジン達も、ルフナ達も、それに引けを取らない手際だった。



朝食は、昨夜の余りのスープに、乾燥させ粉にしたパフを入れ煮詰めたシチュー。

冷えた身体にその温かさが染み渡る。


シチューをほふほふと頬張るルフナたち3人の目元は赤い。

きっと良い話し合いが出来たのだろう。


「…ちゃんと食えてるな」


ジンはその食べっぷりに、そっと胸をなで下ろした。




朝のミーティング。


花畑にクロリスを残し、ジン達は依頼の達成状況を簡易的に確認しつつポットタウンへのルートを話し合っていた。


公爵木兎から朝には出発するように言われ、薬草採集の依頼は粗方達成している状況である。


長居は無用だ。


そこへ眠たそうな公爵木兎(デュークグラークス)が巨木の巣から舞い降りて来た。

夜の闇の中では目立たない純白の羽毛が、朝日を浴びて森の緑の中に輝いた。



《いくのか》

朝日に目を細める公爵木兎の、淡々とした念話。


「起こしてすまない」

《かまわぬ》


魔法で夜を纏うとはいえ、夜行性である公爵木兎に朝日は辛いだろうに。




《戦士の、娘》



「…!はい…」


念話での呼びかけに、ルフナは肩をビクリとさせてから返事を返す。


昨夜、公爵木兎の言葉に激昂して真っ先に飛び出そうとした自分の無謀さと、そのせいで皆を命の危険に晒したという事実は、変わらない。


ほんの少し震えた脚で、公爵木兎の瞳の真ん中まで。


そしてルフナは顔を上げ、見つめ返した。



その様子を確認してから、公爵は目を閉じ──



静かに身を低くした。


《謝罪する。すまぬ》



「……えっ?…あ、その、あ、あたしの方こそ……っ!」


公爵木兎の念話の意味、その仕草。

叱責を予想していたルフナはオロオロと視線を彷徨わせて、慌てて頭を下げる。



広場に風が通り抜け、朝霧を飛ばして行った。




《持っていけ》


公爵木兎は羽根の1枚を己から引き抜くと、魔法でルフナの手へ。

その純白の羽根は、そのままマジックアイテムとして使える程の濃い魔力を帯びている。


《羽根、我の気配。マモノ、退く》



「…ぁ、ありがと!」


その大きく美しい羽根に見とれ言葉が遅れたルフナ──



そこにミヤマヤが駆け寄った。

「凄イ!」

「なんか光ってルよ!」

ルフナには見えない魔力の放射をミヤマヤは光として「見えて」いるようだ。


少し離れたスミレ畑にいるクロリスからでも、それは宝石が放つ輝きのように感じられた。



ワイワイ!

キャイキャイ!



夜の森の支配者である公爵木兎は女の子三人の勢いに押されていた。


双子がルフナを元気付ける為に、はしゃいているようにも見える。

そしてそれを知ってか知らずか、隣で夜を明かした木霊(ピリィ)と歩々(ポポム)も、それに混じって楽しそうに飛び跳ねている。




公爵木兎は一歩一歩後退り、明らかに距離を取っている。




「こんな大層なもの…本当に良いのか?」


そんな公爵木兎にそっと声をかけたのはジンだ。



ふぅ…と一息ついた公爵木兎が、念話を飛ばしてくる



《…お前達の、鳴り物。我、好かぬ。出されるより、良い》


公爵木兎の言葉には苦々しさが滲んでいた。


鳴り物?

賑やかなルフナ達の事だろうか??

嫌な…音…。


…あ。


ジンの記憶の中で一つの音が鳴り響く。

あのマモノ避けの笛。


あ〜…

やっぱ、そうだよなぁ…



「…重ねがさね申し訳ない。」



夜行性の公爵木兎がどこか眠そうなのは、朝の訪れだけではないようだ。




そんな賑やかな声から離れ──


クロリスは花畑にいた。


自身の身体を目隠しにするように【ネモフィラ】の精霊を呼び出し、あたりを探る。


このネモフィラは、召喚の手順を踏まずとも、己の意思で杖から出入りする風変わりな精霊だ。


幼い頃はクロリスの話し相手であり、今では周囲の警戒や探査を自ら引き受けている。


昨日、道中で歩々茸の群れに遭遇した際、クロリスが耳を澄ませていたのも─

実際にはネモフィラからの報告に耳を傾けていたためだった。




そもそも──花の精霊は、他者の目には映らない。


精霊戦争後、多種多様な花の精霊を含め、チカラの弱い精霊たちは自然へと還り、その姿を失ったとされている。


少なくとも、それが“常識”のはずだった。


だが、魔導書に眠っていた【ネモフィラ】たちは違った。


持ち主であるクロリスは当然であるが、何故か魔力を持たないはずのジンにも、距離次第ではあるが姿は見え言葉も通じる。


しかし、同じように魔力を持たないルフナや、天界人で魔力を操れるミヤとマヤには、姿が見えていない。


それは都合が良い事でもあるのだが。



クロリスは散った意識を花畑に向け直す。

昨夜見た幻視の痕跡を探しているのだが、そもそも何が手がかりになるのかすらわからない。


もしこの杖に眠っていた花の精霊達と同じように、スミレの花の精霊がここにいるのならば──

そう思い、ネモフィラの力を借りたのだが。


《よくわかんない…》

「…やっぱりね」


それは、幼い頃に花との会話を試みて回った時と同じ答えだった。

【ネモフィラ】が耳を澄ませば澄ますほど、同程度に存在の薄まった無数の草木の精霊の声も聞こえてしまう。


草木の精霊がそれ程までに自然に融けてしまった反面、杖に依る花達の異常性の証明でもあった。



「クロリスー!そろそろ行くぞー!」



ジンの呼びかける声。

一瞬、幻視の優しい手の温もりと、昨夜の寝ぼけた彼の手の温もりが、重なり呼び起こされる。


…もう、時間切れね。


どうしたの?という表情をして見上げる【ネモフィラ】を杖へ呼び戻し、ジン達に振り返った。


冒険者の表情に戻ったクロリスが、ゆっくりと歩み寄る。


その直前まで女の子の表情を浮かべていた事は【ネモフィラ】しか知らないのだった。




「…それで、帰りはどうするの?」


「最短ルートで森を突っ切る」


クロリスの問いに、彼らしくないルート取りを提示した。


公爵木兎の羽根によるマモノ避け。

歩々茸による獣道の案内。


それらを踏まえ、森を早々に抜けてしまう計画だ。


公爵木兎のアドバイスも大きかった。

地を歩む生物であれば日暮れ前には森を出れる筈である、と。


地形に関係なく空を移動する公爵木兎の推奨を完全に信用出来る訳ではないが、黒森熊がそのように言っていた、との事なのでそれも考慮に入れた。


人間の脚で強行するなら、大きく見積もり日が落ちきる前ギリギリに森を抜けられる、とジンは判断したのだ。



“戦闘を見られていた”


ジンの中で、この一言が引っかかっている。


いつ?

どこで?

誰に?


誰もその気配に気がつけなかった。


考えれば考えるほど、何気ない森の静けさや、ちょっとした茂みの物陰が、怪しく見えてしまう。


正体不明の相手への警戒は、疑心暗鬼に変わる。


ルフナ達は、森で寝床を探す大変さと、新鮮なうちに薬草を届ける、という理由で納得させた。


──正直に言えば。

この同行試験を、早く終わらせる必要性があると判断したのだ。


ポットの町にルフナ達を無事に帰す事。

不測の事態に巻き込ませる訳にはいかない。


だから、判断は間違ってはいないはずだ。

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