間章 〜 新人冒険者たち
ミヤとマヤ─
私のワガママで一緒に冒険者になろうとしてくれている大親友─。
今日…。
あたしは、その2人を命の危険に晒してしまった…。
更に、冒険者のセンパイで、あたしたちが冒険者になれるか様子を見てくれているジンくんとクロリスちゃんまで、命の危険に晒してしまった。
あたし1人、命を落とすなら別に構わないと思っていた。
パパとメアリーさんの2人が悲しむだけで済んだはず。
でもチームを組むって事は、
1人のミスが、
どうしても避けられない予想外の出来事が、
全員の命を奪う。
あたしだけじゃ済まない。
ミヤとマヤの家族も悲しむ事になる。
ジンくんにもクロリスちゃんにも、悲しむ人がいる。
だから冒険者は、常に不測の事態に備えて、装備を整えて、トレーニングで強くなって、少しでも生存確率をあげる。
わかっていた
わかってたんだ─。
それでも、自分の無知さや軽率さ、自身が無意識に隠していた弱点を、こんなにも責めてくるなんて思ってもみなかった。
このままそれに気が付かずに冒険者になっていたら…
あたしたちは簡単に命を落としてしまう。
そんな未来しか見えなくなった。
重い空気のまま入ったテントの中。
意気消沈と疲労の中。
冒険のため。
頭の中がごちゃごちゃのまま、身体が勝手に明日の用意をして。
寝袋に包まれた3人の沈黙。
「ご…ごめんネ…」
それを破ったのはミヤだった。
「わたし、何も出来ナかった…。守るのデ、精一杯だっタ……」
息を飲んだ。
そんなこと…っ!
「そんな事、ナいっ!」
ルフナより先にミヤの言葉を打ち消したのはマヤだ。
「わたしダって!……わたしだっテ、何も出来ナかった。ルーちゃんを止メられなかっタ…」
喉がきゅっと締まる。
あたしは続けて言葉を出せなかった。
再びの沈黙。
3人の不安が擦れ合って立てている小さな音みたいな、弱い、静かな痛み。
(なんで…なんで…2人が謝るの…?
悪いのは…全部あたしなのに)
言おうとしても、声が震えて出ない。
胸の奥が掴まれたみたいに苦しくて、
謝りたい言葉が、何度も喉の手前でほどけて消えていく。
ミヤは袖をぎゅっと掴んで、
マヤは唇を噛んで、
2人とも涙を我慢してる。
テントの中の暗がりでもわかる。
寝袋の中にいてもわかる。
見なくてもわかる。
それは2人が泣くのを我慢する時の癖だから。
2人の気配が痛いほど伝わってくる。
謝りたいのは、あたしのほうなのに。
2人が泣きそうなのを見ているだけで、胸の奥がきゅうっと縮んでいく。
言葉が追いつかない。
でも、黙っていたら、取り返しがつかなくなる。
喉が震えて、かすれた声でようやく一言だけ漏れた。
「…ち…がう……」
うまく続けられなかった。
でもミヤとマヤは、息を呑んであたしの方を向いた。
暗いテントの中。
ほとんど何も見えないのに、2人の視線だけはわかる。
まっすぐに、あたしを見ている。
「ちがうよ……っ」
涙がにじむ。
こぼれそうで、言葉が追いつかなくて、それでも言わなきゃいけなくて。
「悪いのは…あたしなの…。
あたしが、ちゃんと考えてなかったからっ
あたしが、危険をわかってなかったから…
2人を…みんなを…巻き込んだのは、あたし…」
言った途端、後悔が波みたいに押し寄せてきた。
声に出した瞬間、全部が自分に突き刺さった。
逃げ場がなくなって。
冷たい手で胸の奥を掴まれたみたいに苦しくなった。
なのに、ミヤがすっと寝袋から手を伸ばしてきた。
「ルーちゃん…」
小さく呼ばれた声は、 いつもの穏やかさとは違う、 震えて、弱くて、それでも優しい声だった。
「悪いのハ…ルーちゃんじゃナい。
わたしたち、みんな…同じトコに立ってタ。
…ルーちゃん1人の責任ジャない」
そのあと、マヤが続ける。
「わたしとミヤが…弱かったダけ。
守れナかったノも…止めラれなかったのモ…わたしたちの弱サ。
ルーちゃんダけに…背負わせたくナいよぉ…」
あたしは目を閉じた。
2人は、自分のことを弱いって言ってる。
自分のせいだって言ってる。
そんなわけ…あるはずないのに。
でも、2人は──あたしの「弱さ」を責めずに、ただ寄り添ってくれる。
それが、いちばんつらくて、いちばんあたたかくて、どうしようもなく泣きたくなった。
「…や…だよ…」
涙がひとつ、頬まで落ちた。
「こんなとこで…冒険者を諦めたく…ない…よ…」
3人の寝袋が、ぎゅっと寄り添うように少しずつ近づく。
暖かい。
暗いテントの中で、そのぬくもりだけが確かにあった。
ミヤが言った。
「わたしタちは、まだ弱イ。
…コれから一緒に、強くナるんでしょ?」
マヤがそっと笑った。
「3人で冒険者にナるって決めたんダよ…!
これデ終わりナんて…イヤだ…」
あたしの胸の奥で、小さな炎がまた灯った。
弱さも、涙も、後悔も、全部抱えたまま。
それでも進みたいと思えるのは、2人が隣にいるからだ。
きゅっと寝袋越しに手が触れた。
その瞬間だけは、不安よりも希望のほうが少しだけ勝った。
3つの寝袋が寄り添うぬくもりの中で、
あたしは静かに息を吸った。
怖さは、まだ消えない。
後悔も、まだ胸に重いまま。
だけど。
この手を離さないでいてくれる2人がいる限り、その重さを背負って歩いていける気がした。
「いっしょに…強くなろうね」
小さくつぶやいた声は、
テントの薄い布に吸い込まれていったけれど、ミヤも、マヤも、寝袋越しにそっと手を握り返してくれた。
3人の手が重なる。
ささやかな熱が、確かな未来を示してくれる。
弱いままじゃ終われない。
泣いただけで止まりたくない。
あたしは胸の奥でそっと誓った。
明日は今日より、ほんの少しでも前に進む。
3人で必ず強くなる。
静かな夜の中で、小さな決意だけが、
あたしをゆっくりと支えてくれていた。




