勇者の秘宝 1
グライフ総合学園は、アリタルテ王国全土で見れば中規模の学校だが、地元では一番大きな人気校。身分関係なく、10歳になる年から4年間通うことができ、生活に必要な身近な学問を総合的に学ぶことができる素晴らしい学校だ。
領地経営と政治に特化した貴族院よりも、一般文化に幅広く触れられることに魅力を感じた。
俺は賢者。知識など、既に十分だ。
だから今世はのんびりと楽しみたい。
――そう思っていたのに……
100年前に魔王を倒して不可侵条約を結んだ隣国・モトワール。その国が条約を破って、侵攻してきた。
また生まれたのか、『魔王』が……
◆ ◆
今日もヤツは顔を真っ赤にしながらやってきた。いつもワクワク楽しそうで、羨ましい限りだ。
そして相変わらず声が大きい……。
「レイン、お前から屋敷に呼んでくれるなんて!! オレは嬉しーよぉ〜!」
僕の部屋に入ってくるなり、思い切り抱きつかれた。
「分かった! 分かったから、耳元でうるさい!」
「あははは」
ほぼ毎日恒例のコントに、アローナは笑いを堪えきれない。
確かに僕の方からレガードを呼ぶことは滅多にない。自分の都合で友人を屋敷に呼び付けるなんて、いかにも領主家って感じで好きじゃない。まぁレガードは呼ばなくても勝手に来るけど……。
「……あれ? ジーナも来てたのか」
「あ、うん。さっきレインくんに呼ばれて」
「ジーナの家は近所で羨ましいなぁ」
いやいや……もしレガードがすぐ近くに住んでたら、こっちは堪らないよ。絶対なかなか帰らない!
幼なじみ3人で馬鹿をやっていると、連絡していた他の客達が僕の部屋に通された。
「えと……失礼いたします」
「……アシュ!? と、ノア先生!?」
珍しい客人にレガードが驚き、アシュも領主邸に緊張している様子だ。
「わざわざ夜に集まってもらって申し訳ないが……お願いがあって。……僕は皆と一緒に勇者の秘宝を探したいんだ」
「えっ! レインくん、秘宝調査隊に参加するの!? あんなに嫌がってたのに」
ジーナが目を丸くして驚いている。
アシュは笑顔で頷き、ノア先生はガッツポーズで答えてくれた。
真っ赤な顔をして感動の涙を流しまくりのレガードにハンカチを渡し、僕は話を続ける。
「国内の至る所で魔物の襲撃が発生してる。今日は僕らも襲われて……あの時じっくり観察したら、この国の在来種とはどれも微妙に異なっていた。これは恐らく、魔王が復活したモトワールからの攻撃だ」
「魔王!?」
「モトワール……!?」
「てかレインくん……あの戦いの最中にそんな細部を観察してたの!?」
ノア先生は驚くジーナ達の方に向き直ると、僕の後に続けて詳しく話してくれた。
「そういう訳で、緊急事態だ。35期の調査開始も早まるだろう。それも、これまでの調査隊がやってきたような興味本位の金銀財宝探しじゃない。我々は真の『勇者の秘宝』を探し出さねばならないのだ。魔王を倒すのに必要なものと言われているからな」