召喚符
別視点です。
オイラは鬼羅。
日本生まれ、日本育ちの鬼だ。
悪さばかりしていたオイラは、陰陽師の惟近と相打ちになり……次の瞬間、アリタルテ王国の山の中に居た。
何が起きたのか分からず、見知らぬ土地でしばらく彷徨っていたオイラ。角を持った数種の魔物共に話しかけられたけど、一緒にしないでもらいたい。アイツらのように醜くないし、何なら寧ろイケてる部類だと思っている。だってオイラはホラ! 身体も知能もこんなにスマートだし!
そんな魅力溢れるオイラは悪魔のロギ先輩に拾われ、以来千年、魔界で世話になっているが……先輩達みたいに“魂”なんてもんを喰っても、この腹は満たされねえ。鬼のオイラが本当に欲しいのは血肉なんだよ!!
――って、思っていたけどよォ……うーん……
「なぁハスト……本当に大丈夫か? 毎日毎日、血をくれて……」
「平気だよ、鬼羅。君はおれの大事な友達なんだから」
人間の少年・ハスト、15歳。世界は違っても、人間という存在の身体構造は変わらないように思う。コイツの血は実に旨い! けど……
「オイラ、育ち盛りのお前の血を貪るほど堕ちちゃいねーぜ?」
「鬼のくせに心配性だなぁ。おれは大丈夫だって。鬼羅が作ってくれる豆や栗のお菓子を食べて、前より健康になったぐらいだし!」
「なら、良いんだが……」
「ふふっ。お菓子作りが得意な鬼なんて笑える」
「昔、知り合いの人間が……よく作ってくれたんだ……」
◆ ◆
1ヶ月前、ハストは『召喚符』を使用した。
召喚符ってのは漆黒魔法の魔法陣が描かれた紙切れで、血さえ落とせば誰でも魔界の住人を喚べる。(その後の契約には“魂”を差し出す必要があるが……)
その喚び出しに応えたのがオイラだ。
何でこんな貧乏臭い子供が召喚符なんて持っていたのか?
日銭を稼ぐために手芸品を売っていたら、一人の男が代金の代わりに召喚符を放り投げて行ったとか。
あの時――「この紙は、お前みたいな子供がお遊びで使う物じゃないんだぞ!」って注意をして魔界に帰ろうとしたけど、結局今もコイツの側に居る。
ハストは“悪意”に敏感な子供なんだが、オイラには悪意を感じないらしい。……全てを見透かされたようで衝撃だった。
今、オイラ達は“悪意”のド真ん中に居る。
千年経った今でもはっきりとは分からない。この世界は一体何処なのか。
――いつまでこんな世界に居ればいいんだろう。
ずっとそう思って生きてきたけど、今は違う。
絶対にハストを助けたい。
この世界では……あんな後悔はしたくない。
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思った方は、ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をしていただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。




