表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/67

呼び起こされる記憶

ナレーター視点です。

 封印の書を裏返し、本来の面から開いたアシュ。表紙の次の薄い白紙をめくると、筆で書かれた美しい文章が現れた。


 彼はそのページを右上から流すように眺める。その自然な一連の動作にレインの心は期待でたかぶった。


「アシュ。その文字、読める?」


「……えっ? あ、いや……」


 動揺で一瞬固まっていたアシュは、レインの問いかけで我に返り、慌てて首を振るとそのまま考え込んでしまった。


【この言語を知ってる……気がする……。右上から縦に読むってことも、何故だか分かる。でも……この文章は読めない。だって……俺が知っているのは……】


「――俺は、何で知ってるんだ……?」


 そう言ってアシュは目を泳がせながら頭を抱える。


 そんな彼の様子にレインは困惑した。


(読めないけど知っている、って……まさか父上みたいな……? そんな……)


 少々の落胆を見せてしまったレインの足元に、一枚の小さな紙が落ちた。


(本に挟まってたのか?)


 その紙を拾い上げたレインは、突然大粒の涙をこぼして声を上げた。


「あ……ああッ……。ルカぁ……ルカぁぁ!!」


「レイン? どうした!?」


 心配そうに訊くアシュに、レインは紙を見せて切なそうに言う。


「ルカと、ラストノフ……」


 二人の男が肩を組んで笑い合うが、アシュの瞳に映る。


【勇者様と賢者様? これは絵ではない。……なら、これは何なんだ? ――知ってる……俺はこれを知っている……】


「思い出せ、俺」


 アシュは割れそうな程の痛みを頭に感じながら、必死にもがき、考え続けた。


【――!? そうだ……これは『写真』――この世界には存在しない物!!】


 そう思い至った瞬間、彼は身体を震わせ崩れ落ちると、「これは誰の記憶……」と呟いた。


 レインは顔面蒼白のアシュをそっと抱きしめて伝えた。


「恐らく俺と同じで、“前世”ってやつだ。受け入れるのに時間がかかるかもしれないけど……別の記憶もまた、自分自身なんだ……」


「……」


 レインの言葉に目を赤くして沈黙していたアシュは、しばらくすると深呼吸をして静かに語り始めた。


「――俺さ……この不思議な紙が何なのか知ってるんだ」


「シャシン? ルカがそう言ってた」


 アシュは「ああ」と頷きながら、ルカの遺体近くに転がるカメラの存在に気付く。


「俺が居たのはここよりも文明が発展した世界で……魔法とかが無い代わりに、写真これみたいに便利なものが沢山あるんだ。ルカ様も多分、俺と同じ『日本』という国から来た……」


「ニホン……」


「この『封印の書』は日本の言葉で書かれているけど、俺が生きていた時代の文字じゃない。大昔の文字なんだ。前世の俺は、現代日本のごく普通の若者で……しかも歴史や古い言葉を学ぶのは苦手だった。だから……俺には所々しか解読できないんだ……ごめん、レイン……」


「そっか……」とうつむくレインを見て、改めて考えを巡らすアシュ。


【でも、何でルカ様は読めたんだろう? 少なくともカメラがある時代の人だ……】


 アシュはルカのカメラをじっと見つめ、カメラの型から推察するに、前世の伯父さん世代くらいの人かなと感じていた。


 何故ルカが異世界にカメラを持ち込み、更にはプリントができているのか――


 アシュには心当たりがあった。

第2部分に新話を挿入、第3部分を改稿しております。

SNSの投稿記事とは話数がずれていますが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ