呼び起こされる記憶
ナレーター視点です。
封印の書を裏返し、本来の面から開いたアシュ。表紙の次の薄い白紙をめくると、筆で書かれた美しい文章が現れた。
彼はそのページを右上から流すように眺める。その自然な一連の動作にレインの心は期待で昂った。
「アシュ。その文字、読める?」
「……えっ? あ、いや……」
動揺で一瞬固まっていたアシュは、レインの問いかけで我に返り、慌てて首を振るとそのまま考え込んでしまった。
【この言語を知ってる……気がする……。右上から縦に読むってことも、何故だか分かる。でも……この文章は読めない。だって……俺が知っているのは……】
「――俺は、何で知ってるんだ……?」
そう言ってアシュは目を泳がせながら頭を抱える。
そんな彼の様子にレインは困惑した。
(読めないけど知っている、って……まさか父上みたいな……? そんな……)
少々の落胆を見せてしまったレインの足元に、一枚の小さな紙が落ちた。
(本に挟まってたのか?)
その紙を拾い上げたレインは、突然大粒の涙をこぼして声を上げた。
「あ……ああッ……。ルカぁ……ルカぁぁ!!」
「レイン? どうした!?」
心配そうに訊くアシュに、レインは紙を見せて切なそうに言う。
「ルカと、ラストノフ……」
二人の男が肩を組んで笑い合う画が、アシュの瞳に映る。
【勇者様と賢者様? これは絵ではない。……なら、これは何なんだ? ――知ってる……俺はこれを知っている……】
「思い出せ、俺」
アシュは割れそうな程の痛みを頭に感じながら、必死にもがき、考え続けた。
【――!? そうだ……これは『写真』――この世界には存在しない物!!】
そう思い至った瞬間、彼は身体を震わせ崩れ落ちると、「これは誰の記憶……」と呟いた。
レインは顔面蒼白のアシュをそっと抱きしめて伝えた。
「恐らく俺と同じで、“前世”ってやつだ。受け入れるのに時間がかかるかもしれないけど……別の記憶もまた、自分自身なんだ……」
「……」
レインの言葉に目を赤くして沈黙していたアシュは、しばらくすると深呼吸をして静かに語り始めた。
「――俺さ……この不思議な紙が何なのか知ってるんだ」
「シャシン? ルカがそう言ってた」
アシュは「ああ」と頷きながら、ルカの遺体近くに転がるカメラの存在に気付く。
「俺が居たのはここよりも文明が発展した世界で……魔法とかが無い代わりに、写真みたいに便利なものが沢山あるんだ。ルカ様も多分、俺と同じ『日本』という国から来た……」
「ニホン……」
「この『封印の書』は日本の言葉で書かれているけど、俺が生きていた時代の文字じゃない。大昔の文字なんだ。前世の俺は、現代日本のごく普通の若者で……しかも歴史や古い言葉を学ぶのは苦手だった。だから……俺には所々しか解読できないんだ……ごめん、レイン……」
「そっか……」と俯くレインを見て、改めて考えを巡らすアシュ。
【でも、何でルカ様は読めたんだろう? 少なくともカメラがある時代の人だ……】
アシュはルカのカメラをじっと見つめ、カメラの型から推察するに、前世の伯父さん世代くらいの人かなと感じていた。
何故ルカが異世界にカメラを持ち込み、更にはプリントができているのか――
アシュには心当たりがあった。
第2部分に新話を挿入、第3部分を改稿しております。
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