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魔剣『ブルート・メア』

長めです。約3200文字。

「ラストノフ! かっ、彼はまさか!?」


 皆を連れてさっきの場所まで戻ってくると、興奮気味のリンが息荒く駆け寄ってきた。テンは一見落ち着いているが、その視線は彼に釘付けだ。


「あるんだろ? レイリョク、ってやつ……」


「ああ。最高だ!! 間違いない!」


 遂にテンも興奮を隠しきれなくなり、勢いよくアシュの手を握った。


「え、えっと……?」


 謎の2人組に困惑するアシュ。まぁ、そりゃそうだよな。テンションやばいし、変な服着てるし……。


「レインの知り合いなのか?」とアシュが後ずさりしながら俺に尋ねると、リンが目を輝かせて言う。


「おおっ、ラストノフ! 今の名は、“レイン”と言うのか!」


「あ、今世の名を名乗るのを忘れていたな。俺はザラス伯爵家の四男レイン・ローネスト。10歳だ」


「「プッ! ……くくくく」」


「おい、2人とも……人の自己紹介を笑うな……」


 リンが「10歳児のレインくん、可愛い」と俺の頭を撫でると、テンが「今世は貴族か。良かったな!」と言った。


 何このシキガミ……


「お前ら、失礼すぎねえ?」


「アハハ! 悪い、悪い!」と謝りながらもまだ笑っているリン。


「ハァ……」


「それにしてもレイン。よく彼のことが分かったね? 霊力が何かも分からないのに」とリンが不思議そうに俺に訊く。


「彼はアシュ・ナリッド。俺の同級生でパーティーの仲間だ。レイリョクのことは良く分からないけど、アシュが持つ魔力が俺らのものとは少し違っていて……リン達が纏っているものや、ルカの魔力に似ているってことは分かるよ。それにこの森……ずっとうるさいんだ。まるで俺に何かを伝えようとしている……」


 俺の話を聞いて「成程……」と呟いたテンは、アシュの前にスッとひざまずいた。リンもすぐに横に並び、2人でアシュに敬意を示す。


「アシュ様。名乗るのが遅くなり申し訳ございません。我々はこの世界の勇者様を護る為の式神。僕は天、彼女は凛と申します。数日前に異界から参りましたが――んで下さったのは貴方様です」


「……え? 喚ん……だ? 俺が……?」


「はい。正確に言うと、貴方の霊力値が我々を使役できるだけの値に達したのです。どうか正式な御契約を」


「な、何ですか……契約って……。それにレイリョクって一体……」


 アシュは完全に混乱している。


「テン、そう急ぐな。とりあえず、ミュウに会わせてもらえないか」


 アシュが真の勇者ならば――この先に進めば、何か感じるものがあるんじゃないかと思う。


「分かった」とテンが頷くのを確認し、俺はアシュに聞いた。


「アシュ、頼む。一緒にこの結界の中に進んでくれないか」


「え……!?」


「ペルルも居るし、絶対に俺達が守るから」


 アシュは俺の言葉に戸惑いながらも頷いた。



 ◆ ◆



「君に会わせたい人間が2人居るんだ。入るよ」


 リンが断りを入れてから結界に触れると、ぼんやりと入り口が現れた。100年前のあの地点へ――どうにか平静を装って中に入ったのに……


「なん……で……」


 何で、“在る”んだ――? 俺は膝から崩れ落ち、思わず両手で目を覆った。


「ガルルル……」


 白虎びゃっこのミュウがこちらを見て威嚇しているのが分かる。その鋭い牙で、今にも噛みつかれそうだ。現時点ではまだ言葉は分からないけど……“怖いならさっさと立ち去れ”とでも?


「俺にしか出来ないことがあるから逃げないよ。っていうか、ミュウ……これも君の力なの?」


「グァ……!?」


 少し驚いてる? “この人間は何で普通に話しかけてくるんだ?”と困惑しているように見えるな……って……何だろ、急に気持ち悪い……クラクラする。


「……っ……ガハッ……」


 苦しい! 身体から何か……まさか――


「テン、助けて……抜ける……」


 俺は胸を押さえて、近くにいるテンの服の裾を掴んだ。


「……!? 『ぎょく!!』」


 外国の言葉……。意味は分からなくても、いつも聞いていたし、やったことは分かる。俺の身体に結界を張ってくれたんだ。この感じ――これはレイリョクで出来ているのか……? 魂とレイリョクって相性が良い感じがする。


「本当にすまない。こうなる事は予測できたのに……」


 テンが深々と謝罪している。それもそのはず――俺の魂は浮遊しかけた。危うく死ぬところだった。


「つーか、何でまだ在るんだよ! 俺達の身体!! ゲホッ……」


「レイン、落ち着いて!」


 リンが俺を抱え込んで制止する。


「……っ」


 そう言われたって、一つの魂の前に二つの身体は……流石に堪える。ちょうどいい具合に魂の証明にはなったのかもしれないけど。


「んまぁ……テンありがとう……」


 今からブルートとの契約を開始すると伝えると、テンとリンは頷き、ミュウにも見守るように伝えてくれたようだ。俺はラストノフの身体の傍らに落ちている賢者のつるぎを手に取った。


いて……」


 あー、やっぱビリビリするな。これが常人が手にした時の正常な反応だ。正式な契約なしに無理矢理使おうとすれば闇に呑まれる。それが魔剣だ。


 俺は賢者紋を解放すると、あかい魔石に血を注いだ。


「100年飢えた我が友よ。存分に俺の血を喰え……」


 行くぞ!


「今ここに結びし血の契り。『賢者』ラストノフ・クワイヤの名で命ずる。目覚めよ――魔剣『ブルート・メア』」


 ああ、懐かしい感覚……ブルートの鼓動を感じる――


「……!! うぐっ……」


 繋がりかけたところで拒絶されたか。いくら魂と魔力が同一だと言っても、血液に関してはラストノフとレインでは全くの別物だ。そう簡単には行かないよな。


「……チッ! それなら!」


 師匠やセヌイ程の錬金術を使える訳じゃないけど、それでもこれくらい!


「魔血錬成!」


 魔血とは魔力を込めた特別な血だ。正直もう……この血をもって、心で訴えるしかない。


「ブルート! 俺だ! 信じてくれ!」


「我々からもお願いする!」

「ブルート殿、どうか!」


 シキガミ達の力添えもあり、何とかブルートと繋がることが出来た。善は急げだ!


「『賢者』ラストノフ・クワイヤの名で命ずる。『契約継承ハンドオーバー』……」


 師匠から継いだ時を思い出すなぁ。まさか自分自身に引き継ぐことになるとは流石に思っていなかった。しかも適正年齢には程遠い、こんな子供に。


 まあ、言っても仕方のないことだ……。さて、呼吸を整えて一人二役――


「『賢者』レイン・ローネストの名で命ずる。我が紋となんじを繋げ――魔剣『ブルート・メア』!!」


 あかい魔石が強い光を発する。次の衝撃にこの身体で耐えられるか……。


「――!!! グアアアアアァッ!!」


 あー、やっぱくそしんどい……。ブルートの魔力を受けている右手、紋の所を中心に熱くて重くて……潰されそうだ。……ったく、闇魔法ってのはいつも意識が飛びそうになる――


「クゥー!!」

「ガゥゥ……」


 ペルルと……え? ミュウ? ……舐めてくれんの?



 ◆ ◆



 どれ程の時間が経ったのだろうか――


 俺は力尽きて大の字で倒れたまま……ようやく相棒の声が聞こえるようになった。


『大丈夫か?』


「うん。……ブルート、久しぶりだな。俺だよ、分かるか?」


『ああ。お前も相変わらず無茶するよな。同一人物に契約継承されるなんて前代未聞だよ。他の奴らからも聞いたことがない』


「アハハ……最後ちょっと色々壊れそうだったけど」


『聖獣2体から力を貰うなんて……やるじゃないか』


「2体……!? あっ、ミュウ……」

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