4日目の森
長めです。約2200文字
その後も順調にステージをクリアしていった俺達。4日目に入ると、服の切れ端や装備の破片を見かけるようになり、人骨のようなものに躓くこともあった。
そんな中、視界に飛び込んできた錆びついたバングル――
「まさか……」
俺は草をかき分け、小さなため息と共に拾い上げた。
「どうされました?」と振り返るラスタに、それが“彼女”のものであることを伝える。
「ティアが身に付けていた防御アイテムだ。俺が作ったものだから間違いない」
それを聞いて絶句するラスタの前で、俺は魔力を流し込む。するとバングルは帰属反応を示す青色の光を放った。持ち主だったティアはもちろん、製作者の俺の魔力にも反応するように設定してある。やはり彼女のものだ。
あの日、ティアはこの道を……あいつに連れられて……。
入り交じる複雑な感情に震える俺の肩を、ノア先生が心痛な面持ちで抱き寄せて言った。
「レイン、少し休もう」
「……はい」
アシュが数羽の鳥を狩ってきてくれたので、そのまま昼食を取ることになった。
「レインの好きなガルーニュもあるよ!」と言って、捕らえた鳥を掲げるアシュ。2日目以降、一層の細やかなアドバイスをして彼の弓術を鍛えてきた。ガルーニュという黄緑の鳥は飛び方が特殊で狙いにくいから、あれを射止めたというのは上達した証だ。
ノア先生が魔法でおこした焚き火の周りに集まり、鳥を焼きながら暖を取る。鳥肉が焼ける心地よい音と香り……ああ、心が和らぐ。
「ほれ」
先生から焼けたガルーニュを渡され、思い切りかぶりつく。ガルーニュの良質な脂は実に芳しく、シンプルに焼いただけが一番旨いと思う。昔から大好きな食材だけど、市場ではやや高値だから、庶民は特別な時にしか食べられない。
「ん〜! やっぱりガルーニュは最高!」と舌鼓を打つ俺の横でレガードが笑う。
「レインは本当にガルーニュが好きだよなー。お前の誕生日パーティーに毎年必ず出てくるもんな」
「癖かな」
「……は?」
前世では好物をねだるなんて誕生日くらいしか出来なかったから、今でもパーティーメニューのリクエストを訊かれると、ついガルーニュ料理をお願いしてしまう。
そういえば――
(4ヶ月前の回想)
「……あれ? 坊ちゃん」
「あっ、イアンさん!」
「坊ちゃんも討伐帰り? この辺は魔物が多いねえ。俺も討伐終わって腹減ったから鳥肉焼いてんだけど、一緒に食ってかねえ?」
「いや……僕は……」
「坊ちゃんって、討伐以外の時間は基本単独行動だよなぁ〜。いつも討伐完了したら知らぬ間に帰ってるし。ましてや、飯を一緒に食うなんて絶対しねえよな」
「……」
「いいじゃねえか。今日ぐらい食ってけよ。明後日、誕生日だろ? ま、屋敷で旨いもん出るんだろうけどさ。……あっ、言っとくが! 毒なんて盛ってねえからな!!」
そう言って豪快に笑いながら、良い具合に焼けたガルーニュを半ば無理矢理手渡された。
あの日、討伐出発前にギルドで会って、俺の行き先を知ってたし……もしかして親父、わざわざ俺を待ってた? 誕生日祝い――
「……」
「レイン? ボーっとして大丈夫か? 食い終わったら出発できそう?」
「あっ……ああ、大丈夫だ。ありがとう、レガード」
「目的地はもう近そうだな」
レガードの言葉に、俺は東の方を指差して答える。
「うん。あの木の群生……死ぬ時に見たんだ……」
あの辺だと、ここから2時間くらいだろうか。木々に生る無数の赤い実が……血の滴るジェラルドの剣先を想起させる。今でも脳裏にこびり付いている光景に思わず吐き気を催したけど、息を深く吸って必死にこらえ、再び歩き出した。
1時間と少しが過ぎ、木々に近付いてきたと感じていた時――
「……!!」
気配もなく現れた魔物の大群に囲まれた。ゴーレムとガーゴイルが一番上のようで、他は小さな魔物達ではあるが、何しろ数が多くて四方八方から向かってくる。皆防御で精一杯だ。
この先に進ませまいと拒む力――門番といったところか。……ミュウ、この先に居るんだな。
俺は地面に手を着き、魔法を発動する。
――土魔法『領域掌握』!
「大地の力をコントロールして、ゴーレムとガーゴイルを抑え込んだ! 今だ!」
動きが弱まったゴーレム達を、ルヌラとノア先生が一気に退治していく。さすが親子、息ぴったりだな。他の皆も協力して小さな魔物を倒してくれている。
「レインくん。もう大丈夫そうだから、ここは任せて先に進んで。明るいうちに」
ルヌラはそう言うと、ペルルを俺の肩に乗せた。
「えっ……あ、ありがとうございます」
俺はルヌラに一礼し、目の前の魔物達を焼き払いながら先に進んだ。無我夢中で倒して、進めば進むほど鼓動が速まるのを感じた。
小魔物の波が途切れた時、突如立ちはだかるように現れた結界と2体の男女の人型――
「……っ!? お前達は……」
「クゥン?」
「ペルル、大丈夫だよ」
彼らは人間ではない。魔族でも傀儡でも精霊でもない。一体どういった存在なのか、賢者の俺にも不明だ。だけどルカは彼らを使役していた。
そうだ、“シキガミ”――




