優しい朝
日の出とともに起きた俺は、草花に降りた朝露を小瓶に集めながらノア先生のもとへ急いだ。
「先生、ありがとうございます!」
元々眠れないからと時間潰しをしていた彼女ではあるが、俺のために朝まで不寝番をしてくれた。「可愛い生徒の為だ。気にするな」と、何ともむず痒くなるお言葉をいただいて思わず苦笑してしまったが……それも束の間、丁寧な所作で聖剣に触れる先生を見て目が潤む。
俺は改めて一礼すると、“俺の大切なものを大事に扱ってくれてありがとうございます”――そう気持ちを込めた。
聖剣を受け取り亜空間に戻し入れる俺に、「やはりまた仕舞うのか……。無理はするなよ」と先生が言う。
「はい。でも日中は問題ないので」
あんなの見せちゃったし、心配してくれてるんだよな。まあ、無理してないって言ったら嘘になるけど……。昨晩の聖剣による内圧上昇のせいで亜空間内壁が損傷してて、今も修復にかなりの魔力を使っている。
俺は集めた朝露の瓶を先生に手渡した。
「ポーションか?」
「朝露ですよ。一緒に飲みましょう」
「なるほど。確かに今朝のは濃いだろうな。感謝する」
月の魔素を含んだ朝露は、体力や魔力を回復してくれる天然のポーションだ。
「レインくーん! せんせーい!」
グイッと朝露を呷る俺達の方に向かって、ジーナが手を振り走ってくる。
「大丈夫でしたかー?」
深夜、テントに戻ってこない先生を心配して探しに来たジーナ。今朝も先生のことが気になって早く起きたらしい。先生はそんな彼女に、夜のテントに女子を一人にしてしまって申し訳なかったと頭を下げた。
「いえいえ、そんなっ! ってか先生、お疲れ様です。レインくんも」
ジーナが俺達の体調を心配している。
「今、朝霧を飲んだんだ」
「あ〜そっか。昨日の夜は月の力が強かったんだもんね。……あっ!!」
何か思い付いた様子のジーナは猛ダッシュで走って行ってしまった。そんな彼女を眺めながら、先生と2人でクスッと笑った。
それから少しすると皆も起きてきて、テントの片付けや鍛練をしたり、皆それぞれの朝の時間を過ごしていた。ジーナのご機嫌な鼻歌と優しい香りに包まれながら――。
「皆、朝ごはんできたよー!」
俺達を呼ぶジーナの声。近くに居たレガードが鍋を覗き込む。
「うわ〜旨そうっ!」
「夜寒かったからスープだよ。栄養満点だよー」
湯気が立ち込める美味しそうなスープは、朝露&薬草入りの自信作だそうだ。
ああ、身体が温まって魔力が沁み渡る。ありがとう、ジーナ。
◆ ◆
「さてと。朝露パワーで調子も整ったし、そろそろ出発しようか」
「だな!」
俺達は笑顔で剣を突き合わせると、次のステージに向けて出発した。




