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欠けた月

 食後しばらくしてテントで眠りについた俺は、息苦しさを覚えて真夜中に目が覚めた。ラスタとケレムを起こさないように気を付けながら、月明かりを求めてテントの外に出る。


 この辺りは入り口付近と比べれば暖かいものの、さすがに夜は冷える。


「くしゅんっ」


 寒さに震えているけど、息苦しさの原因は風邪なんかじゃないって分かってる。凄い圧迫感だ……。


 夜空を見上げると、欠けた月が輝いている。


「ハァッ……ハァッ……。何で……まだ月齢げつれい10だろ……」


「凄い濃さだよな」


「……っ!?」


「私だよ。ノアだ。何だか眠れなくてね。せっかくだから魔力の補給でも、と思ってさ。……んで、お前は? てられたのか?」


 我々は常に、空気中に漂う魔素を体内に取り込みながら生活しているが、魔力の補給方法はそれだけではない。回復薬を使えば急速チャージが可能だし、魔物退治や遺跡で手に入る魔石も魔力供給源だ。


 光魔法使いは特別で、通常の魔素でも光魔法への変換は可能だが、精霊達から贈られる『光の魔素』であれば、もっと効率的に光魔法を使うことができる。低レベルの光魔法使いは精霊達を目視できないが、それでも彼らから光の魔素を与えてもらっているのだ。


 そして『月』――


 月の光を浴びると大量の魔素を吸収することができる。特に満月の夜は魔素が濃く、かえって体調を崩す者も居る程だ。


 だけど、俺の場合はそれとは違う。てられたのかという問いに対して俺は首を横に振り、倒れ込みながら亜空間からルカの聖剣を取り出した。その瞬間、聖剣のヒルトに据えられた青い聖石は、狂ったような勢いで月明かりを吸収していく。


 それと同時に俺は随分と呼吸が楽になり、夜風の中で深呼吸をした。


 一部始終を見ていたノア先生は愕然として、少し引き気味に尋ねる。


「レイン……お前はいつもそんなものを抱えているのか……?」


 本当はしまい込んでおくものじゃないって分かってる。でも……


「信じるに足る、次の使い手に託すまではね」


 俺はきらめくルカの笑顔を思い出しながら聖剣を見つめた。聖なる剣と言えど、その維持には力が必要だ。万が一、よこしまな力を流されれば……堕ちる。


「普段は俺の魔力をわせていて……」


 ここまで言ったところで先生のため息が聞こえたけど、構わずに話を続ける。


「いつもはそれで抑えられないのは満月の夜だけなんです。……なのに、満ちる前のあの月にここまで反応するなんて、やっぱりこの森のせいなのかな……」


「満月のような力に満ちていて、不思議な森だな。そう言えば、『聖石は月の欠片かけら』と聞いたことがあるが、あれは本当なのか?」


「うーん……月の欠片かどうかは定かじゃありませんが、聖石が月の光を渇望することは確かです。更に言えば、月の魔素は勇者の力と親和性があるので、勇者にとっては単なる魔力補給以上に大きなエネルギー源です」


 勇者の力が月の力なら、対する賢者おれの力は星の力。月を照らす最強の“星”――すなわち『太陽ルージュ』の力。それは、勇者が本来の力を発揮できるようにサポートする力だ。だからこそ、賢者はどの職業よりも強くなくてはならない。


「成程な。……ところでレインよ。これでは、満月の夜まで毎晩こうなるということだろう? 今晩は私が聖剣を見ているから、お前は休め」


「えっ」


「私が信用できないか?」


「まさか。誰よりも信用してますよ、師匠」

『菜の花パスワード』


短編を書きました。

日本の高校が舞台の恋愛&ローファンタジーです。

もしご興味ありましたら、【作品一覧】からご覧いただけたら幸いです。

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