100年ぶりの故郷の料理
少し長め。
バトルはお休みして、のんびりアウトドアです。
七色虫には触りたくないから、捕縛魔法をかけたまま、とりあえず亜空間にぶっ込んだ。
「レイン、そろそろ日が暮れる。こんな深い森の中で、今から先に進むのは危険だと思うぞ」
「ノアの言う通りだな。レインくん、丁度このステージは暖かいし、ここで朝を待つのはどうだろうか」
ロール親子のアドバイスに皆が賛成して、この第2ステージで一夜を明かすことになった。
俺達が慣れてきただけなのか、実際にそうなのかは分からないが、森の異様な気配が多少和らいだように感じる。木々のざわめきもそこまで不気味に感じない。
皆で協力して食事やテントの準備に取り掛かる。こんなことをしていると、過去の旅や嫌な奴のことを思い出して、作業の手が止まったり涙がこぼれたりした。だけど……その度に誰かしらが俺のそばに来てくれて、そっと寄り添ってくれた。若干名うるさいのも居るが……それも含めて、皆ありがとう。本当に感謝しかない。
木の枝を拾い集めて火魔法で焚き火を用意したり、食べられる野草や果実を摘む。植物学の知識は豊富だ。通常生物なら任せてくれ!
「おーい、レイン! これはー? 食えるかー?」
「レガード……それさっきの色違い! 食べられないってば!」
「レグくん、薬草学の授業とか大体寝てるもんね」
ジーナの言葉に皆が爆笑すると、ノア先生が急に教授らしいことを言い始めた。
「おいおい、お前ら! 笑い事じゃないぞ。そりゃレガード、お前みたいな奴には座学は退屈かも知れんが、知識不足が死に直結することだってあるんだぞ! 例えばその花! 猛毒だ! 食べたら即全身麻痺だぞ。レイン、お前ももっとビシッと言ってやれ!」
「えー……いきなり先生モード……。でもまぁ、ノア先生の言う通りだよ、レガード。野草の知識なしでは冒険者はやっていけないぞ」
「それは分かってるけどよぉー……」
レガードは決まりが悪そうに、小枝で円を描きながらいじけている。すると、俺達のやり取りを見ていたケレムが笑いながら言った。
「あはは。グライフ総合学園はきっと賑やかなんだろうね。薬草学も詳しく学べるのは羨ましい。僕、編入しようかな……」
「おい、ズルいぞケレム!」
「兄上は長男だから、貴族院で領地経営についてしっかり学ばないとね!」
「くっ……ケレムのくせに生意気だな……」
あー、この兄弟もほんとうるさい。なんか最近ケレムが結構言うようになってきたし……。ってか護衛としては、バラバラの学校に通うのは勘弁してほしい。一応ケレムだって危険はあるんだから。
「レインくーん。ある程度集まったから、そろそろ調理始めるねー!」
ジーナの呼びかけで皆で鍋を囲み、草花を煮込んでいく。
「そうだ。俺にも一品作らせてくれ」
「えっ、レインくん料理なんてできるの?」
「別に今の家でやる必要がないからやらないだけで……料理くらいできるよ」
ジーナみたいに本人が興味を持って学ばない限り、貴族の生活に料理スキルなんて必要ないからな。しかし、俺はこれでも元平民のおっさん冒険者だ。
「久しぶりだなぁ〜! 料理」
「……レインの久しぶりって……まさか100年ぶりとか?」
「うん。アシュ、ご明察!」
「……」
「何だよ、その反応は……」
100年ぶりの料理を不安がられているのか? ……ってか待てよ。死んでから転生までの記憶はないんだから、10年ぶりってことじゃないか? ……ま、大差ねぇか。
ふん。見とけよ、アシュ!
俺は亜空間から小麦粉と鳥の魔物を取り出した。水魔法を使って小麦粉に少量の水を注いで混ぜ、よく捏ねたらしばらく置いておく。鳥の魔物はナイフで解体し、さっき採れた果実と一緒に細かく切って混ぜる。
「レイン……お前器用だな……」
レガードが目を丸くしている。
「これくらい普通だよ。家にメイドやコックが居ない一般庶民は皆、自分達で料理すんの」
「そういうもんなのかー」
「お前ん家も上流家庭だからな……」
小麦粉のかたまりを人数分に分け、伸ばして広げる。肉と果実をその上に乗せ、半分に折って包んだ。
「これはニレンズの名物料理だ。本来はカロル砂丘の砂を使って焼き上げるんだけど……」
火魔法で枝を燃やして大量の灰を作り、木の皮を敷き詰めた上にその灰を撒く。作った生地を置いて、また灰を被せる。
更に着火した葉を数枚乗せて、しばらく待つ――
「何か美味そうな匂いがしてきたぞ!」
「香ばしい香り!」
レガードとジーナが目を閉じて香りを嗅いでいる。
「そろそろ焼けたかな」
枝を使って生地を取り出し、灰をはたいたら完成だ!
「ニレンズの『ピーネ』っていう料理だ。焼き立てが美味いぞ。中から溢れてくる果実の汁が熱いから気をつけて」
「レイン様の手料理をいただけるなんて、幸せの極みです!!」
「オレも最高に嬉しいぜー!!」
うわっ……ラスタとレガードの反応があまりにも凄すぎて、言い出しにくい……。
「あ……その……俺からの感謝の気持ちだ……。一緒に来てくれてありがとう……」




