第2ステージ《静寂花》
結構長めです(2617字)
「こっからは次のステージみたいだな! よっしゃー、行くぞー!」
「「おー!!」」
意気込むレガードに皆も声を合わせ、新たな空間の中へと進んだ。
フワッと暖かい風が吹く。さっきまでとは全く違う雰囲気だ。数羽の蝶が舞っている。ごく普通の蝶だな。魔物ではない通常の生物も暮らしているみたいだ。まるで100年前のこの森のようなホッとする雰囲気だが……一部の草花がおかしな揺れ方をしている。
うっ……これはまさか……
「レインくん……大丈夫? 私達が頑張るから、このステージは無理しないで」
「あ、ああ……。ありがとう、ジーナ……」
えー……何を隠そう、この俺は! 虫系・植物系の魔物が大の苦手なのだ!! 虫も植物も、通常生物の方はスケッチするくらいに好きだからこそ、魔物化したものはどうにも受け入れられない……。今の俺は顔面蒼白のヤバい顔だろう。そんなことは百も承知だ。とりあえず、ジーナに理解されすぎているのが辛い……。
ま、まあ、いいさ……小型の魔物は、魔法矢の命中率を上げる練習にもってこいだ。スライムより弱いのが大半だと思うから、アシュにメインで頑張ってもらおう。
「アシュ、このステージはお前に任せる。ボス以外は大したことない奴らだと思うし、小さくて飛び回るから、矢で狙いを定める練習になる。面倒な蔓とかは俺らが刈るから」
「分かった。ありがとう、レイン」
「……って、言ったそばからっ! こいつっ!!」
地面から伸びてくる蔓を短剣で刈っていく。ああ……伸びる動きがキモチワルイ……。
「この蔓は特に毒性は無さそうだ。気にせずどんどん刈っていい」
皆で蔓を刈りまくり、アシュが魔法矢で虫系魔物を倒していく。
「レイン。虫達が少し大きくなってきた」
「もう少しでボスかもな」
アシュと話していると、レガードが呟いた。
「何か匂いがする。甘い匂い……」
「レガードくん! 吸っては駄目だ!」
ルヌラがとっさにハンカチを出して、レガードの口元を押さえたが、レガードは右腕を震わせて剣を落としてしまった。
――『保護結界』!
匂いの原因はレガードの背後に生えてきた巨大なモンスター花だ。結界を張って間一髪間に合ったが、次から次へとボコボコ生え続けている。大人の背丈より高いっていうあのサイズ感がゾッとするし、花に顔なんて要らねーんだよ!! うげぇぇ……こっち見てニヤニヤしてやがる……気色悪ッ! もう本当に嫌だ、このステージ……。
「あの巨大花が口から吐く花粉には毒がある。息を止めているのも限界があるから、皆しばらく結界内に居てくれ」
この森の中では、転移は発動できないみたいだ。結界以外に逃げ場はない。しかも瞬時に発動できるレベルじゃなきゃ終わってねーか?
ってか、レガード……。花粉が腕にかかったんだろうな。紫色――軽い状態異常だ。
「ジーナ。レガードを頼む」
「うん、まかせて」
ジーナがレガードの状態を見に駆け寄る。
「レグくん、しっかり! 麻痺に効くポーションだよ。飲んで」
ポーションを飲み干したレガードは、右腕の力を取り戻した。
「ありがとう。やっぱりジーナのポーションは美味いな」
「へへへー。うれしいなー。全身回復もかけるね。『回復』!」
「おっしゃ!! このレガード、完全回復いたしましたー! 力がみなぎるぜ〜〜!」
レガードは立ち上がって両手を広げ、回復したことを全身でアピールしていたが、途中でふと我に返って言った。
「……ん? でもどうすんだ? 外は花粉だらけになってんぞ?」
確かに、結界の外は花粉で真っ黄色だ。あの巨大花も既に20体くらい生えてやがる。まだまだ序盤で、こんなキモい奴らに足止め食ってたまるかよ!!
「ちょっと見てくる。どこかに花達のボスが居るはずだ」
ジーナが不安そうに俺を見つめる。
「べっ、別にっ! 生理的に嫌なだけで! この俺があんな花ごときにやられると思うか?」
「そっか。ふふっ。その感じなら大丈夫そうだね」
そう言って微笑むジーナ。心配してくれたことに感謝し、彼女を安心させるために敢えて詠唱する。
「『保護結界』」
身体の周りに結界を張った俺は、花粉だらけの中を進んでいった。花達が茎を伸ばし、デカい顔を寄せてくる。
「キモい奴らめ! 失せろ!」
火炎連弾で複数体まとめて焼き払う。炎と花粉が混ざって白煙に包まれる中、俺は千里眼を使って花達のボスを探す。奴を倒さないと巨大花が増え続けてしまう。
……そこか! 見つけた!
森を成す無数の樹木。何の変哲もないその中の一本の幹に、一輪の小さな花が咲いている。
通常植物と見紛う可憐なその花は、ただ静かにそこに咲いているだけ。その名は『静寂花』――自らは決して動かず、寄生した木の根を方々に這わせ、そこから子分である巨大花を咲かせる。
「てめぇが、この花どものボスか」
強くはないけど難儀な奴だ。丸ごと燃やしたりしても消えない。花柱の中に光る核を破壊しないと倒せず、しかも攻撃が葉や茎に当たろうもんなら、その傷口から分裂する。
何魔法が最適か? いや、静寂花自体は攻撃をして来ないんだ。今必要なのは応戦する火力じゃねえ。よく考えろ、自分。……あのクソ小せぇ標的に一発命中させられる程、俺が一番正確にコントロールできるのって――
俺は亜空間から弓矢を取り出した。呼吸を整え、足を開いて構える。花柱の中の豆粒みたいな核に狙いを定め、矢を放った。
――クワイヤ流弓術『針』!!
パシュッと心地良い音のすぐ後に、パリンと割れる音がして核が壊れた。
「さすが、親父直伝……」
その瞬間、全ての巨大花と共に花粉も消え去り、曇っていた視界が一気に晴れた。静寂花が咲いていた近くには、緑色の魔石が付いた指輪が転がっている。これはヒーラーの力を倍増させるレアアイテムだ。ジーナにプレゼントだな。
俺は指輪を拾い、皆を包む結界を解呪した。




