第1ステージ《スライム》
長めです。
森の中に一歩入ると、更に体感5度くらい気温が下がった。前をスッと通り抜ける冷たい風が鼻に触れる。
「寒い……」
「大丈夫? 暖めるよ」
俺は寒がるジーナに手を伸ばす。
「『陽だまり』」
ふんわり暖かい空気で包みこむ魔法をかけてあげた。火魔法と風魔法、両方の出力を極力弱めて組み合わせたものだ。
「ありがとう。レインくんの魔法、優しい」
ジーナが喜んでくれて、俺の心も温まった。前方に移動していくノア先生がチラチラとこちらを見ている。……また俺達をからかう、という訳ではなさそうだけど……何なんだよ、その笑みは!
ノア先生を先頭に、陣形を整えながら慎重に進む。先生の後ろに攻撃役のレガードとルヌラを配置。次はヒーラーのジーナとケレムで、最後尾は俺だ。万能型のアシュとラスタが脇を固める。
ラスタとケレムの能力上乗せもあり、パーティーとしてバランスが取れていると思う。
……っと!! スライムの大群だ。
「ノア先生っ!」
「任せろ! 『防御盾』!」
「こんな小っせぇスライム、楽勝だぜ! ……にしても、いきなりこの数ってヤバいな!」
そう言いながら、スライムを次々斬っていくレガード。
マジで大量すぎて視界を遮るほどの鬼畜さだけど、まぁ皆A組だし、サポートの大人達は一流だし。しばらくは俺の出番は無さそうだな。
剣聖ルヌラ様は涼しい顔で10体くらいまとめて斬り裂いていく。流石に俺でも見惚れてしまう。
……いけない、いけない。こういう余裕のある時に、彼を鍛えなければ。
「アシュ。そろそろ来るよ、大きいのが」
俺は静かに魔法矢の構えをした。
「……え? レイン?」
アシュがぽかんとしている。うん、まあ、俺の魔法矢なんて数ヶ月前の授業以来だしな。
前世では、親父に怒られるのが怖くて日々の弓術練習を欠かさなかった。そのせいで今も練習癖が残っていて、物理矢はたまにいじるんだけど……実は魔法矢ってほとんど使ったことがないんだよなぁ……。
それでも、親父が伝えたいことは分かる。魔法矢を使う時も、基本は物理矢と何ら変わらないんだってこと――
弓術戦闘の基本は“スピード”。素早く正確に構え、敵が遠いうちに撃ってダメージを与える。やるべきことは魔法矢でも変わらなくて、魔力を込める時間は短ければ短いほど良い。前衛や魔法使いよりも先に一撃加えなければ意味がない。
そして、隠密。
――『魔法矢』
俺が無詠唱で放った魔法矢は、さっきまでのよりも大きい中型のスライムに命中した。ふらついたそいつをルヌラがすかさず斬り倒した。
「アシュ。敵に気付かれないように素早く撃たないといけない。構える時に魔力を漏らしちゃダメだ。魔法矢を、魔術の類と思うな。物理矢だと思って撃て」
あとは、出来れば無詠唱だ。基本の『魔法矢』だけでも無詠唱で撃てるようになるべきだけど……まあ、それは今後特訓だな。
「まだまだ来るよ。サポートするから、やれるだけやってみて」
「ああ、ありがとう。やってみる!」
終始真剣な眼差しで俺の話を聞いてくれたアシュは、すぐにコツを掴み、多くの中型スライムにダメージを与えていく。
レガードとルヌラ、ノア先生がそれらにとどめを刺し、後ろに回ってきた小型スライム達を皆で倒していった。
中小合わせて何十体のスライムを倒したんだろうか。敵の数が多すぎて、距離としては大して進めていない。想像以上に狂ってんな、この森……。
「「ハァッ、ハァ……」」
皆の息が上がる中、更に大きな気配が近付くのを感じた。いよいよボススライムの登場か……。
「アシュ!」
「……っ!? ボスか!! 『魔法矢』!」
俺はアシュが放った矢に向かって左手を構え、彼に伝わるように敢えて大きな声で詠唱する。
「魔法付与――『破壊』!」
俺の魔法をまとったアシュの矢がボススライムに突き刺さった。そのメタリックな身体にひび割れを起こしながら、なおも真っ直ぐ突き進んでくるボススライムに――ルヌラが斬りかからんとしている。
「レガードっ! 魔法付与――『灼熱』!」
俺は再び付与魔法を詠唱しながら叫んだ。
「ルヌラ様と一緒に同時攻撃だ! 行け!!」
手元の剣が赫くなると、レガードは嬉しそうに目を輝かせながら、ルヌラとほぼ同時にボススライムを斬り裂いた。
ボススライムのメタリックな身体が溶けながら消失していく。
「消えた……」
「よっしゃあああー!!」
アシュが呟き、レガードが雄叫びを上げた。ジーナとケレムはホッとした顔で微笑み合っている。ラスタは俺に向かって「素晴らしいです!」とか色々言っていて、レガード並みにうるさい。
どうやらスライムステージはクリアのようだ。何だこれ。マジでまるでダンジョンだな……。
「剣に魔法付与してもらったぁぁ〜! レイン凄えぇぇ〜! お前は本当に何でも出来るなー!」
嬉しそうに俺の手を握って、大声で話すレガード。
「うるさい……。もう少し離れて騒いでくれ」
耳を塞ぎたくなる騒々しさなのに、何故だか目頭が熱くなる。
――俺も今、嬉しいんだろうか? この冒険に、喜びを感じているんだろうか……?
魔術を極めた俺は、正直一人で何でも出来るけど、魔法付与っていうのは……共に戦う仲間が居てこその能力だ。……ふぅ。パーティーか……。
そんなことを考えながらスライムステージを後にした。しばらく歩くと、カラフルな草花が咲く、少し明るい空間が目の前に現れた。
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