いくぜ、トトフ!
副題を変更しています。
長めです。
十分な休息を取って翌日の朝を迎えた。コンディションは良好、準備万端だ。いよいよラウルの森の攻略に向かう。
レガード、ジーナ、アシュ、ノア先生――ローネスト邸に『トトフ』のメンバーが集結した。ラスタとケレムも連れて行く。
レオ兄も行きたいと騒ぐかと思いきや、屋敷に残ってハセンの世話をすると買って出てくれた。さすが俺の兄様、頼りになるなあ。……正直意外だったけど。
見送りに来てくれた屋敷の人達の前で円陣を組み、輪の中央で皆の手を重ねた。
「いくぜ! トトフ!」
レガードが声高らかに出発を宣言した。
俺は特別な想いに包まれて高揚し、妙なテンションになっている。十分に休んだと言ったけれど、実は少し早くに目が覚めてしまった。その後は何だか興奮して落ち着かず、もう眠れなかった。まぁアローナによると『死んだように爆睡していた』らしいから、英気は養えていると思う。
もう引き返せない――
今もまだ……トラウマとか色々な感情を整理できないままでいるけど、再びこの道を歩むという決断に後悔はない。
魔力温存のため、領境までは馬車で向かう。見送りの皆に手を振って、馬車に乗り込み出立した。
しばらくしてレガードが真面目な顔で尋ねた。
「なあレイン。本当にオレ達でよかったのか?」
「何が?」
「今日……」
――今日? この旅?
「いや……もっとベテランの人達と行く方がよかったんじゃないかって……」
「俺がっ……俺がお前達とじゃなきゃ駄目なんだよ……。不安にさせているのならすまない」
唇を噛み目鼻を赤らめた俺に、レガードは静かに首を横に振った。
「ラウルの森って……危険なのは例の地点だけで、その他の場所はダンジョンとそう変わらないだろうって話だったよね」
話に入ってきたアシュに答える。
「ああ。あの森は……俺と勇者を待ってるんだ」
真実かどうかは知らないが、帰ってこなかった人も居るといわれている曰く付きの森。
危険なのはもちろん、俺達が死んだ場所だ。その場を護っているミュウに近付いたが最後、主人と認められるか命を奪われるかの二択だったとしてもおかしくはない。『封印の書』を守護するためにミュウも必死なはずだし、そもそもアイツと会話ができなければ……死ぬかもしれない。
もちろん危険領域にまで皆を入れるつもりはない。一応念のため、現地でルヌラとペルルが待っていてくれる。いざという時にはペルルに手伝ってもらい、聖獣同士で話をしてもらう想定だ。
まあ、賢者の剣との契約さえできれば、俺の中身の証明にもなるから何も問題はないはずなんだが……。
封印の書と共にあの森に眠る賢者の剣――その正体は、俺が師匠から受け継いだ魔剣『ブルート・メア』。柄には魔石が赫く輝き、青い聖石を持つ聖剣と対をなす。
ブルートをまたこの手にできる。
喜び、期待、焦燥、不安――色々な感情が入り交じる。アイツは『俺』だと気付いてくれるだろうか。認めてくれるだろうか……。
「あのねっ! お弁当作ってきたの!」
4時間ほど経った頃、ジーナが荷物から弁当箱を取り出した。
「もうそろそろお昼だし……皆でどうかな?」
「よっしゃー! もちろん食うぜ! ジーナの弁当、マジで美味いんだよなー!!」
レガードに褒められて照れまくりのジーナは、メイドのコリーに手伝ってもらっているお陰だと必死に説明していた。
馬車を道端に停めてもらい、弁当箱を開くと、大興奮のレガードが速攻で肉団子に手を伸ばした。
「うんめぇぇー!!」
ジーナの弁当――これは昔から続く、俺への気遣いだ。
ツリード領はこれまで幾度も訪れている。うち数回はジーナとも来ているけど、俺はツリード領の飲食街を徹底的に拒んできた。そう……トラウマの一部なんだ……。
お腹が空いたら歩きながらパンをかじり、帰るまで我慢した。そんな俺を見かねて、いつしか弁当を持ってきてくれるようになったんだ。もちろんジーナ自身がお腹が空くからっていうのもあると思うし……本当にいつもいつも迷惑をかけてきた。
「いつもありがとう、ジーナ」
礼を言いながら一口ほおばると、ジーナは隣でニコニコ微笑んだ。
「美味い……」
目の奥が熱くなって、涙があふれる。
弁当を食べ終わり、再び馬車を走らせること約1時間――いよいよ領境までやってきた。ここからは転移魔法で森の入り口まで移動する。
「いい? いくよ?」
皆が頷くのを確認し、転移魔法を発動した。
「『転移』!」




