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父の前世と使命

長めです。

「私は前世も絵が大好きでね。毎日描いていた」


 父上は前世について、懐かしむように語り始めた。


「前世も……と言うか、幼い頃は絵なんて全く興味がなかった。前世を思い出して初めて、『描きたい』と思ったんだ。三男で、魔法も戦闘も並レベルの私が、立派な爵位と領地をたまわることができたのは、国王陛下が私の絵を気に入って下さったから。……本当に、芸術には感謝しかない」


 父上は貴族院の初等科を卒業後、高等科には進まずに芸術学校を選んだんだよな。だから俺が「貴族院には行かない」って言った時も理解を示してくれた。


「父上の前世って……この国?」


「いや、違う国だよ」


「そっか。じゃあ、大陸5国の……うーん、どこだろ?」


「どれでもないよ。……この大陸はとても広くて、まだ見ぬ国も沢山あると聞くけど……そういうことでもないんだ」


 父上は伏し目がちに言った。


 アリタルテ王国、モトワール以外の3国でもなく、大陸内のその他の国でもない――?


「どういうこと?」


「前世のあの国は、アリタルテ王国とは比べ物にならないくらいに文明が発展していて……時代が、世界が全く違う。それこそ未来から来たような感覚なんだ。それにあの世界には魔物も冒険者も居ないし、魔法なんて誰も使えない」


「えっ……」


「魔法について書かれた本は数多くあった。でもそれらはただの『物語』――魔法が使えたらいいな、こんな冒険がしたいなぁっていう創作の夢物語なんだ。だから前世の記憶がよみがえって、魔法が使える世界に転生しているって気づいた時、とてつもなくワクワクしたんだ。……今でも魔法を使う時は、嬉しくて仕方がないんだよ」


 心の底から湧き上がる喜びを、目を輝かせて語る父上。……だけど俺にとっては衝撃的すぎる話だった。魔法が存在しない世界があるなんて信じられない。


 ってかそもそも……『世界が違う』って何だ?


 亜空間とかアイテムボックスといった、収納としての異次元空間は存在している。だけどそれらは生物が暮らせるようなものではなく、単なるからのスペースだ。


 ……国が……世界が違うなら――


「異国から来た父上は、『封印の書』を読めるかもしれないね」


「公爵様にその言語に関する資料を見せていただいたけど、残念ながら私が居た国の言葉ではなかったよ」


「そっか……」


 肩を落とす俺を見て父上は言った。


「……でもね、似たような文字を見たことはあるんだ」


「えっ!」


「同じ世界の、違う大陸にあった国の文字だ」


 前世の父上が居た世界の言葉か。


 未来のような世界の言葉。


 少しずつ勇者の真理に近づいていく――。


 屋敷に着くまで、父上はたくさんの話をしてくれた。


 その国には、国を動かす王や貴族は居ない。宮廷画家という職業も存在しなかったということ。


 絵の具を自分で作ることはほとんどなく、皮袋とは異なる細い小型容器に入った絵の具が、画材屋さんに限らず様々な店で売られているということ。保存が効くし、宝石のようにキラキラ光る絵の具まであるらしい。


 父上は、ダイガクという学校で芸術全般を学ぶ、夢を追う若者だった。休みの日には近所の画材屋さんで働きながら、画家を目指していたということ。


 年の離れた妹を可愛がっていた。実家で妹の誕生日パーティーをした後……自宅に帰る途中、背後から見知らぬ男に刺された、ということ――


「…………」


 何でだ?


 何で俺と同じような死に方なんだ?


 ……それに、俺も妹のことを思い出してしまった。


「父上っ……! 何で俺達は……前世の記憶があるんだろう……」


 欲しくない記憶だってある。涙がこぼれる。


「私達にはすべき使命があるのだろう。そう思って生きてきた。……愛する息子よ。お前を支えるという使命を、今までもこれからも、私は全力で果たしていく」

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